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君へ贈る歌  作者: こいも
6/15

ひよっこの間違い

今日は二話更新しています。

最新話からこられた方は前話からお読みください。

 日菜子は所謂、少女漫画というものが苦手だ。誰かのことを好きになって、その人の言葉で一喜一憂し、果ては寝ても覚めても頭を過ぎるのはその人のことばかり。そういうのを見ていると、あんたら他に考えることはないのか、と言いたくなる。

 日菜子はずっと歌が大好きで、歌一筋で、それ以外のことに目を向けるのは不誠実だと思っていた。だから同じ音楽科の子たちが彼氏ができたできないで騒いでいるのを見ると、そんな覚悟で歌の道に来ないでくれる?とかちょっと思っていた。

 だって付き合うって何するの?毎日メールや電話?休みの日には必ずデートに行く?

 絶対無理。そんな暇があったら練習したい。

 この間賢仁に「彼氏がほしい」と言ったのだって、結局は歌のためだ。先生が「いたらいい経験になる」と言うから、じゃあ作ろうかな、ぐらいの。

 だからきっと、どこか賢仁に裏切られたよう気がするのだろう。

 きっと賢仁も自分と同じ感覚で、好きなものにストイックで、脇目をふらない人間だと思っていた。

 しかしそれは日菜子の勝手な決めつけと価値観でしかないのだ。恋愛自体が悪いことじゃない。誰かと付き合うことでより人間性が高まることもあるとは思う。

(それに、賢ちゃんは恋愛で変わってしまうような子じゃない。)

 誠実そうな女の子だったし、きっと何かプラスになることがあるに違いない。それなら自分は姉として。

「応援しなければ・・・!」

「何をだ。」

 突然後ろからため息まじりの声が聞こえて、日菜子は飛び退いた。

「な、なぜここに!」

「俺の部屋。」

 あ、そうでした。

 美也子と分かれてからそのままここに来て、ベッドの上で悶々と考えていたのだった。

 日菜子は賢仁の後ろをちらりと見て、恐る恐る尋ねる。

「ひ、ひとり?」

「・・・頭でも打ったのか?」

 賢仁は半眼になって言った。

 日菜子自身はデート経験皆無だが、友達から得た話から考えると、あのまま部屋に連れ込むのがデートコースの定石ではないのだろうか。しかし実際来ていたら彼氏の部屋に知らない女がベッドの上にいるのだ、修羅場になっていたかもしれない。

 日菜子はあったかもしれない可能性に身を震わせつつ、賢仁をそっと見た。美也子の言った通り、確かに理知的で整った顔をしている。規格外な夏目と共にいるせいで目立たないだけで、きっとモテるのだろう。しばらく見ないうちに背も伸びたし、体つきもしっかりしたようだ。

(首周りだって、昔と比べたら随分しっかりと―――・・・)

 そこで首元を緩める賢仁の仕草が目に入り、日菜子は慌てて目をそらした。いつの間にか凝視していたようだ。焦りのような、痛みのような、名状し難い感情に内心首を傾げる。

 しかし彼はいたって普通の様子だ。特にデートで浮き足立っているようにも見えない。

 やはり、賢仁は恋愛にうつつを抜かすような人間ではないのだ、と日菜子は大いに安心して、ここはしっかりと当初の目的を実行しようと咳払いをした。

 これが大きな間違いであることに日菜子はまだ気がついていなかった。


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