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君へ贈る歌  作者: こいも
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ひよっこの衝撃

「ふーん。で?」

「いや、で?って言われても。」

「だから、あんたは結局賢仁くんにどうなってほしいわけ?」

「それは・・・。」

 高い椅子の下で足をぶらぶらと揺らす。ファーストフード店の二階の窓側の席は、外を見渡せる開放感と引き換えに座り心地を売り渡してしまっている。足がつかない不安定な状態は、まるで日菜子の心のようで落ち着かなかった。

「まさか、ずっと自分の傍にいて、自分の夢を応援していてほしい!とか思ってるんじゃないでしょうね。」

「お、思ってないよ!」

「ほんとにぃ~?」

 美也子はうろんな目をした。

(まあ、だいぶ近いことは思っていたけど)

 賢仁は今まで声楽家を目指す日菜子の応援をずっと傍でしてくれていたのだ。時にはクラスメイトよりも的確なアドバイスをくれることもあった。どんなに歌で落ち込むことがあっても、賢仁に話を聞いてもらったら楽になれた。そうして一つ一つ上げていくと、今更になって賢仁が自分にしてくれたことの多さを思い知る。

 日菜子は落ち込みそうな気持ちを誤魔化すように、既になくなった紙コップのストローを勢いよく吸い込む。

 すると美也子が何かに気づいたように、窓の外を指差した。

「あ、あれ賢仁くんじゃない?」

「え?どこ?」

「ほら、斜め向かいの本屋。」

 見ると、たしかに賢仁が本屋から出てくるところだった。小脇に紙袋を抱えて、入口を振り返っている。誰かを待っているようだ。今朝賢仁の家を見に行ったときは既に出かけていたので、誰かと待ち合わせでもしていたのだろう。

(もしかして夏目くんかな)

 ストローで氷をかき混ぜながら見守る。しかし、賢仁が見つめる入口から出てきたのは、それはそれは可愛らしい女の子だった。

 思わずかき混ぜる手を止める。美也子は隣で口笛を吹いたが、その表現は古いとツッコミを入れる余裕もない。

 とにかく目の前の光景が信じられなかった。


 あの賢ちゃんが、自分以外の女の子と出かけて、おしゃべりしている。


 だからどうしたという言葉には続かずに、ただその事実だけがまるでカーペットにこぼれた水のようにじわじわと頭ににじみ渡っていく。

 そして浮き上がった感情がなんなのか理解する前に、二人は連れ立ってどこかへ行ってしまった。

 しばらく沈黙が訪れる。

 先に声を発したのは美也子だった。

「あれたしか一年生の樋口一花よ。可愛い子でしょう。」

 無言で頷く。

 本当に可愛かった。背中まで伸びた艶やかな黒髪に白い肌。変に肌を露出せずに、シックな服を着こなしている様はどこかのご令嬢のようだった。日菜子も髪を染めたりするのは嫌いなので黒いままだが、あんな風に、シャンプーのTSUB○KIのCMに出て日本を背負えるようなレベルのものではない。

 日菜子は自分の髪をつまんだ。丁度枝毛が目に入って軽く落ち込む。

「賢仁くんはさぁ」

 美也子のつぶやきにのろのろと顔を上げた。

「あんたが一緒にいなければ、普通にモテるのよ。」

「・・・そうなの?」

 日菜子にとっては驚愕の事実だが、美也子はその反応に呆れたようだった。

「そりゃそうでしょ。難しい顔はしてるけどイケメンだし、成績優秀だし、運動もそこそこできるみたいだし。なにより面倒見がいいことはあんたで証明されてるからね。」

 まるで知らない誰かの話をされているようだった。日菜子が知っている賢仁は小言ばっかり言うし、細かいし、ため息ばかりつくし、真面目だし、頭いいし、話聞いてくれるし・・・。あれ、合ってる?

「あんたもいい加減、弟離れしなさいよね。」

 弟離れ。その言葉に日菜子は横から頭を殴られたような衝撃を受けた。


 そうか。いつまでもこのままではいられないんだ。


①「樋口一花」・・・「あしたへ贈る歌」シリーズのメインキャストです。

二話続けて更新します。

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