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断罪は私がプロデュースします  作者: 月雅


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4/10

第4話「最後の共同作業」

舞踏会場の広間に、ヴィクトリアの靴音だけが響いていた。


王宮の大広間。天井は三階分の高さがあり、壁面には金箔を押した浮き彫りが並ぶ。窓は左右に八枚ずつ。午後の陽が斜めに差し込み、石の床に光の帯を落としている。蝋燭のない昼間の広間は、夜の華やかさとは別の顔を見せていた。埃の匂いと、石壁が溜め込んだ冷気。


わたしは広間の中央に立ち、手帳を開いた。


動線。壇上から観客席への距離。窓の角度。燭台の配置。すべて頭に入れてある図面の通りだが、実際に立ってみなければ分からないことがある。声の響き方、光の落ち方、人が立った時の圧迫感。前世で何十件もの会場を下見してきた体が覚えている。図面は設計図にすぎない。本番は空間で起きる。


扉が開いた。


足音が二つ。一つは軽く規則正しい——クラウスだ。もう一つは重く、間隔が広い。


「——何の用だ、ヴィクトリア」


アルベルトが広間に入ってきた。軍服の襟を正し、不機嫌を隠しもしない顔でこちらを見ている。その半歩後ろにクラウスが控え、書類挟みを胸に抱えて立っていた。


「殿下、お忙しいところ恐れ入ります」


わたしは完璧な一礼を取った。


「卒業舞踏会の演出確認にご協力いただけないかと思いまして。婚約者として最後の務めでございます」


アルベルトの碧い目が細くなった。「最後の」という言葉に、何かが引っかかったようだった。だが追及はしなかった。断罪の計画を自分の胸に隠している人間は、相手の言葉の裏を探ることに慎重になる。


「手短に済ませろ」


「ありがとうございます」


わたしは壇上に向かって歩き出した。靴音が広間の壁に跳ね返る。アルベルトが渋々ついてくる。クラウスは広間の隅に移動し、書記のように立った。


壇上の階段を上がる。三段。前世の経験では、壇上に立つ人間は三段以上の高さがあると観客に威圧感を与える。この広間の壇上はちょうど三段。悪くない。


「殿下、こちらにお立ちいただけますか」


壇上の中央やや右寄り。わたしが指し示した位置にアルベルトが立つ。窓からの光が正面から当たる位置だ。夜であれば、左右の燭台がこの位置の人間を最も明るく照らす。


「仮に、ですが——殿下がこの場所で何か宣言をなさるとします」


アルベルトの体が強張った。肩の筋肉が軍服の下で動くのが見えた。


「宣言の冒頭で、聴衆の注意を引くには正面を向いて一拍置くのが効果的です。その後、対象者の名前を呼び、罪状を述べる」


「——何を言っている」


「リハーサルです、殿下。宮廷行事の進行確認ですわ」


わたしは微笑んだまま壇上を降り、観客席の位置に移動した。広間の中央から壇上を見上げる。


「その立ち位置ですと、殿下のお顔がよく見えます。宣言の言葉がどのようなものであれ、聴衆は殿下の表情と声に集中するでしょう」


アルベルトの喉が上下した。わたしが何を知っているのか——どこまで見透かしているのか——その計算が、碧い目の奥で回転しているのが見て取れた。


だが否定はしなかった。否定すれば「何の宣言か」を説明しなければならない。


「……リハーサルだと言うなら、さっさと終わらせろ」


「はい。あと一点だけ」


わたしは壇上の左手を指した。


「対象者——つまり、宣言を受ける側は、ここに立つのが最適です。壇上の殿下と視線が交差し、聴衆からも両者の顔が見えます」


わたしがその位置に立った。壇上のアルベルトと目が合う。三段分の高低差。見上げるわたしと、見下ろすアルベルト。三度見た構図だった。一度目は涙で滲んで見えなかった。二度目は怒りで赤く染まっていた。三度目は——もう何も感じなかった。


今は違う。これは仕事だ。


「よく見えますわ、殿下。完璧な構図です」


アルベルトが壇上から降りた。足音が荒い。わたしの横を通り過ぎる時、一度だけ振り返った。


「お前は——何を企んでいる」


「卒業舞踏会を、皆様の記憶に残る一夜にしたいだけですわ」


アルベルトの唇が動いた。何かを言いかけ、飲み込み、背を向けて広間を出ていった。扉が閉まる音が広間の天井まで昇り、ゆっくりと消えた。


——断罪の計画は変えない。あの目はそう言っていた。想定通りだ。


広間に残ったのはわたしとクラウスだけだった。


秋の午後の光が傾き始め、窓からの光の帯が壁際に移動している。埃が光の中で舞っていた。


手帳に書き込もうとペンを取った。壇上の寸法、アルベルトの立ち位置、声の響き具合。指先に力を入れた。ペンが紙の上で震えた。


文字が歪む。


——駄目だ。


ペンを握り直す。指が言うことを聞かない。三度見た構図を再現した体が、遅れて反応している。壇上から見下ろす碧い目。「ヴィクトリア、貴様の罪を」という声。一度目の記憶が、二度目の記憶が、三度目の記憶が、重なって指先を震わせている。


視界の端で、白いものが差し出された。


手袋だった。男物の白手袋。指の長い、清潔な一双。


クラウスが広間の隅から歩み寄り、わたしの手元に手袋を置いていた。何も言わなかった。視線もわたしの手には向けていない。書類挟みに目を落としたまま、ただ自分の手袋を差し出しただけの所作だった。


指の震えを見ていたのだ。そして指摘しなかった。


わたしは手袋を取った。革の裏地がかすかに温かい。先ほどまでこの人の手に触れていた熱が、まだ残っている。


「ありがとうございます、ヴェルナー補佐官」


「広間は冷えますので」


それだけだった。クラウスは書類挟みを開き、リハーサルの記録を書き留め始めた。ペンの音が広間に静かに響く。


わたしは手袋を手帳の上に置いたまま、壇上を見つめた。計画に私情は挟まない。この手袋の温もりも、台本には載せない。載せてはいけない。


マルガレーテが大広間に駆けつけたのは、陽が完全に傾いてからだった。


巻尺を手に壇上の寸法を測り直し、わたしの指示に従って装飾品の発注リストを書き出していく。燭台の数、花の種類、布地の色と質感。ペンを走らせる手が止まり、マルガレーテがリストを見返した。


「お嬢様、これは——舞踏会ではなく舞台の仕込みですわね」


「ええ。最高の舞台ですわ」


マルガレーテは何も言わず、リストの続きを書いた。


広間を出たのは日が暮れてからだった。


廊下の燭台に火が入り、石壁に橙色の影を落としている。マルガレーテが先に退室し、わたしも荷物をまとめかけた時、背後でクラウスの声がした。


「エーデルシュタイン嬢」


振り返った。クラウスが書類挟みを閉じ、こちらを見ている。灰色の目に、昼間の淡々とした色とは違うものが混じっていた。何と呼べばいいのか分からない光だった。


「この脚本、主役の退場後が書かれていませんが」


脚本。わたしの企画書を、彼はそう呼んだ。


「あなたの第二幕はどこですか」


広間の空気が冷えていた。窓から入る夜風が首筋をなぞる。わたしはクラウスの目をまっすぐ見た。


「第二幕はありません。完璧な退場で幕を引きます」


クラウスの表情は変わらなかった。灰色の目が一瞬だけ細くなり、すぐに戻った。書類挟みを静かに閉じ、鞄にしまう。


「——そうですか。では私は私の仕事をします」


それだけ言って、クラウスは広間を出ていった。靴音が廊下の奥へ遠ざかり、やがて聞こえなくなった。


わたしは手の中の白手袋に目を落とした。革の温もりは、もう消えていた。

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