第1話:「ギャンブラー」の烙印
A. 前世:悪運のパチンカス、カイリ
カイリ、25歳。世間から見れば、彼は生粋のクズだった。
定職にはつかず、パチンコ屋に入り浸る自堕落な生活。気づけば借金は雪だるま式に膨れ上がり、全てが自業自得だった。彼は自分の運命をギャンブルに委ね、そしてその全てに裏切られてきた**「悪運のパチンカス」**だ。
金がなくても、彼は困っている人を無視できるほど冷酷ではなかった。だが、その優しさは表面には出さない。例えば、道端で泣いている子供に缶コーヒーを恵む際も、「うるせえよ。これでどっか行け」と吐き捨てるように言い放ち、すぐに立ち去る。その行動原理は、**「悪運の保険」か、あるいは「自堕落な自分自身への言い訳」**のような、歪んだ優しさだった。
そして、運命の日は来た。
借金取りに捕まり、最後の仕事として彼に課せられたのは、悪質な保険金詐欺の実行役、「当たり屋」だった。逃げる選択肢はなかった。
暗い夜の交差点。彼は震える足でアスファルトの上に立った。遠くから一台の軽トラックのヘッドライトが、彼の運命を照らす。
「クソが。最後まで運に見放されっぱなしだ」
人生の全てを運に任せ、その運に裏切られ続けたカイリ。彼は、悪運に呪われた世界から、一瞬の激しい衝撃と共に消滅した。
B. カイロス:最低最悪のスキル決定
意識が戻ったとき、カイリは白く、どこまでも続く、無機質な空間に立っていた。
目の前には、パチスロ台のような豪華な装飾を施した玉座に、ギャンブルの神カイロスが座していた。
「やあ、最悪の運命で死んだ若者よ。私はカイロス。時の流れと確率を操る、この世界の『ギャンブルの神』だ」
カイロスは、カイリが転生する異世界「エリュシオン」が、戦争と魔物の抗争ばかりの過酷な世界であることを説明する。
そして、カイロスは輝くカードの束を出現させ、彼に告げた。
「お前に生き抜くための**『スキル』**を与える。ただし、それはこの運命のくじ引きで決まる。さあ、引け」
カイリは覚悟を決め、カードを引いた。彼の魂の業を象徴する、不安定なスキル名が記されていた。
「【ギャンブラー (Gambler) 】」
カイロスは声を上げて笑った。
「ハッハッハ!お前らしい最低最悪のスキルだ!このスキルは、発動するたびに武器、攻撃力、命中率、防御力が全てランダムで決まる。運が良ければ最強、悪ければ攻撃力**『1』、防御力『1』**の紙切れ同然だ」
「このスキルには**『確変』**という状態があるが、お前の悪運では無縁だろう。お前の旅は、運が悪ければ何の役にも立たない不安定なものとなる。せいぜい、悪運に慣れることだな」
そうして、カイリの魂は、不安定なスキルを背負い、エリュシオンへと転送された。
C. 異世界での半年:絶望的な実力行使
森の洞窟で目覚めたカイリは、早速【ギャンブラー】のスキルを発動させる。
――スキル【ギャンブラー】発動!武器:短剣。 ――
彼は目の前に現れたゴブリン相手に短剣を構えた。
――攻撃力:1。防御:95。命中率:3。――
「くそっ!いきなり防御だけ高いってどういうことだよ!」
彼が放った一撃はゴブリンの皮膚をかすりもせず、逆にゴブリンの攻撃が命中率3%を突き破って彼の防御力95%の壁をあっさり超えてきた。
彼はすぐに、このスキルが自分の悪運をそのまま反映する、最悪の能力だと悟った。いくら素早い手数と速度で勝負しようとしても、肝心なところで攻撃力「1」や防御力「1」を引いてしまい、常に命の危機に瀕する。
半年が経過した。
カイリはこの半年で、幾度もの死線をくぐり、地道にレベルを上げていた。
レベルが上がったことで、通常時の攻撃力「1」でも、以前よりはわずかに削れるようになった。しかし、スキルは相変わらず不安定だ。
彼はもうスキルを信じていなかった。彼は頭の切れと、ひたすら手数で相手を圧倒する自力型の戦闘スタイルを確立し、ようやく一般の魔物や兵士相手には安定して勝てるようになっていた。
「スキルなんて、悪運を呼び込むノイズだ。運命に頼るより、自分の頭と手足を信じる」
そう、彼は自分の悪運という運命を受け入れ、その上で勝てるように技術を磨き上げたのだ。ようやく、彼はこの過酷な世界で生存のスタートラインに立てた。
D. 運命のフリーズ:枠を超えた一撃
慢心を打ち砕くように、カイリは森の奥で、自身のレベルでは到底敵わないボス級のモンスターと遭遇した。
「チッ……クソ運が。なんでこんなのがここにいるんだよ」
頭の切れも、磨き上げた手数も通用しない。ボスの圧倒的な防御力と攻撃力の前では、彼の短剣はただの飾りだった。彼は抵抗虚しく、強烈な一撃を喰らい、地面に叩きつけられた。全身の骨が悲鳴を上げ、視界が滲む。
半殺しだ。
「……あぁ、もう無理だ。努力しても、結局最後は運が悪くて、死ぬのか」
死を覚悟し、悪運に敗北を認めたその時、彼の視界が、色彩を失った。
世界が静止し、全てがモノクロに染まる。風の音、モンスターのうなり声、全ての時間が止まった。彼は、その静寂の中で、自分が確かに生きていることを認識した。
(……フリーズ……)
パチスロで見た、滅多に見ることのない究極の演出が、現実の世界で発動したのだ。
*――**【ロングフリーズ (Long Freeze) 】*発動。運命の強制改変。――
再び世界に色が戻った。全身の痛みが消え、満タンまで体力が回復している。これまでに感じたことのない、最高のコンディション。そして、脳内でスキルが叫んだ。
*――**【確変 (Rush) 状態】*へ強制突入!体力・速度・防御 大幅アップ!攻撃効果倍増!――
「……これなら、いける」
カイリの目に、諦めはもうなかった。彼は短剣を構え、心を燃やし、運命を覆すべく、ボスに真っ直ぐに突進した。
「来いよ、ボス。こっからが、俺のギャンブルだ!」
次の瞬間、彼の短剣から放たれたのは、もはやスキルの能力値やレベルの枠に収まるような攻撃ではなかった。
――攻撃力:8192(倍率200)。命中率:100。――
短剣から放たれたのは、刀身一つ分の斬撃ではない。森を覆い尽くし、世界を切り裂くような、巨大な光の斜め斬撃だった。
あまりにも常識外れの現象に、カイリは驚愕して地面に転んでしまう。
轟音と閃光が通り過ぎた後、世界は静寂を取り戻した。
視界を遮っていたボスモンスターの巨体は、一瞬の斬撃によって跡形もなく消滅していた。周囲にあった巨木や地面の岩、丘の斜面までが、まるで紙のように巨大な斜めの一太刀によって綺麗に切り刻まれていた。
「……即死、かよ。この一撃で……」
これは、ただのダメージ増加ではない。カイロスが仕掛けた、レベルの枠を超えた運命のインフレ即死攻撃だったのだ。
意識が遠のく中、彼の身体の奥底で、何かが書き換えられたのを感じた。
――レベルが大幅に上昇しました!――
――新しいスキル【??????】を獲得しました!――
カイリは、この異世界での戦いが、ただの努力ではない、**「運命という名のギャンブル」**そのものだと、初めて心から理解したのだった。




