プロローグ(3):歪んだ翼
自分に才能があるのは知っている。歌も、たぶん、ダンスも。音域だろうと表現だろうと歌で困ったことはないし、上半身の振付ならちょっとの練習で身に着けられる。他にも万能に器用で、お勉強は県内の名門進学校レベル、計画的な行動や我慢も人並み以上にできる。料理やお裁縫も得意。
見た目だってママの綺麗な顔立ち&スタイルに、パパの優しい目元。控えめに言って美少女。それも清楚系の。両親譲りの才能と容姿、努力を厭わない性格、歌も踊りもファッションも大好き。身も心も何もかも、ママみたいなアイドルをやるために祝福されて生まれたみたい。
……だけど、そうじゃなかった。ほとんど全部をもらった私は、代わりに大事な一つを生まれつきもらえなかった。
数度の手術と毎日のリハビリ、寝る時の矯正器具のおかげで立って歩けるまでにはなったけれど、私はどれだけ努力しても、この両脚に簡単なステップすら踏ませることができなかった。
誰もが羨む大きな翼は歪んでいて、最初から空を目指すことはできないのでした、なんてね。
~~
「~~で、芯を見つけないといけないんだって。……崇子ちゃん、聞いてる?」
「聞いてる聞いてる。その基準で茉佑ちゃんを見たなら不合格にもなっちゃうね」
「なんだかテキトーに言ってない? 絶対聞いてなかったよー」
上の空で話を聞いちゃって、茉佑ちゃんがむくれた。春が恋しくなる肌寒い気温のせいか、どうにもセンチメンタルな気分になって困る。制服にカーディガンを着こんでも、心までは温まらないんだ。
茉佑ちゃんはこれでオーディション七連敗目。その相変わらずの真っ向勝負っぷりには大いに感心しているから安心してほしい。茉佑ちゃんに芯があること、きっと伝わるよ。
「あ、そうだ! あの噂知ってる?? TeSseRaの──」
「──アイドルだった子が転校してくるんでしょ。MiSaKiだっけ」
「そう! そうなの!! 本物のアイドル、楽しみだなぁ……」
「そだねー」
「思ってないよね?」
「バレたか」
こんな田舎の学校に『アリーナを埋めた本物のアイドル』が転校してくる、というのは、パパ経由で知っていた。深い事情は聞かなかったけど。噂ではメンバーと音楽性で揉めたとか、事務所と契約でどうとか。ま、芸能界の噂に信憑性なんかないからどうでもいいね。本人がどんな面をしていて、何を言うのかが大事。
……そっか、だからセンチメンタルなんだ。茉佑ちゃんは直視できても、他のアイドルを見て平気かはわからない。たとえ面構え良くて芯があったとしても、感情的になってしまう気がする。だってもうすぐ、足掛け七年の大計画の大詰め・青春のフィナーレなのだから。
私は茉佑ちゃんと夏コンで、人生でただ一度のアイドルをやる。二人が飛べる空は他にない。
そういうわけなんで、まかり間違っても『アイドル部に入る』なんて言わないでよね、MiSaKi。
~~
「~~龍ケ江冴姫です。趣味はトレーニング。部活動は今までやってきませんでしたが、アイドル部に入るつもりです。よろしくお願いします」
アイドル部って言った? 言ったよね?? ……この目は本気だ。本気なら茉佑ちゃんは受け入れたがる。落ち着け大丈夫。優秀な私はこうなった時のリカバリー案も当然考えている。
自分の自己紹介を平静に終え、頭脳を高速回転。描いていたストーリーへの影響は大きく、脳内計算機は無視できない勝率低下を導いた。三人になれば『全てが上手く回って』ようやく、県大会を突破できる可能性が生まれる。ちっ、可能性はあるのか。あるなら一緒にやるしかない。
あぁ、もう、神様?! 私がアイドルしようとすると、始める前から前途多難にしてません???
そんな荒れた心を知りもしないで、茉佑ちゃんは慌てて私の机に手をついた。
「アイドル部! 入ってくれるって!! 手続きしないとだよね??!!」
恐らく、クラスメイトに囲まれる前席のアイドル様に入部書類を用意したいのだろう。そんな嬉しそうにしてくれちゃって。私よりあっちのが良いとか思ってないよね?
……などと、幼少期から悪くも良くも私の心をかき乱すデリカシーの無さに茉佑ちゃんらしさを感じつつ、子どもよりも成長した私は喧嘩することもなく、机の中からあらかじめ用意していた書類を出しちゃえます。
「はいはい。これが必要なんだよね?」
「えぇ?! 全部あるの??!! 崇子ちゃんすごい、ありがとう……!」
笑顔満開で喜ぶ茉佑ちゃん。これは私の勝ちだな。どうだ見たかアイドル様。
「どういたしまして。……っと」
心の中で勝利宣言をしていたら、アイドル様がこっちを向いた。さて、何を言われることやら。まぁいいよ、なんでも。全部やって見せましょう。
なぜならこれは、私だけのアイドルじゃないから。できる限りをやっている茉佑ちゃんの隣なら、私は持てる全てを懸ける。懸けられる。




