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プロローグ(2):凡庸な翼

 今回も選考通過者一覧に天野茉佑(わたしのなまえ)は無い。小学生で応募を始めて以来七回目のオーディションは、なんの手ごたえもなく七回目の不合格で終わった。の、だけど……。

 スタッフの女の人から、オーディション会場とは別の広い会議室に案内された。わたしだけ特別扱いなんじゃなくて、同じく不合格だった子が集められてるみたい。悲しくて泣いてる子、救済措置を期待してる子、アピールを諦めないで背筋を正す子、困惑してきょろきょろする子……。

 わたしもきょろきょろタイプだ、なんて考えていたら、試験官をしてた強面に背広のプロデューサーが入室。みんな静かになって、何を言われるか気にした。

 最初に深々としたお辞儀とお礼の言葉。それから本題が知らされた。

「この度はオーディションにご応募いただき、誠にありがとうございました。さて、さっそく本題とさせてください。こうして落選者のうち十五歳以上の方にお声がけしたのは、お伝えしたいことがあるからです。単刀直入に言います。今のままの貴女達ではアイドルにはなれません」

 いきなりで本当に単刀直入の、淡い期待を打ち砕く言葉。不合格の時点でダメだったと自覚していても、『何度受けても同じ』とまで聞かされると胸が痛い。わたしは崇子ちゃんに言われ慣れてるから耐えられたけど、泣き出す子だっていた。

 どうしてこんな話を? と思ってたら、泣いている子がちょっと落ち着いたくらいで、プロデューサーは続きを話してくれた。

「なぜ貴女達がアイドルになれないのか。正確には、我々の仲間として共に戦っていけないと判断したのか。それは、貴女達に足りないモノがあるからです。歌・ダンス・容姿などの『技能』や『天賦の才』と並び重要になる力、軸となり自らを支える『芯』が、貴女達には無いと感じました」

 芯。わかるような、わからないような。打たれ強くないとダメってことはわかる。だけど、歌やダンスを上手にできることが強さなんじゃないのかな。

 どうして芯が大切なのか、プロデューサーは説明してくれた。

「アイドルは厳しい世界です。多くの人が憧れ、努力を惜しみません。歌、ダンス、容姿、トーク、演技、ファンサービス、美的センス、学問、業界内コミュニケーション、その他特殊技能……。あらゆる分野の強者がいます。どれほど才能に恵まれていようと、どこか・何かで必ず、『負けた』と感じる時が来る。一度ではなく、何度も。そこで大切なのが芯です。折れそうになる自分を、芯が支えてくれます」

 芯がないと、アイドルの世界で待ち受ける無数の『負け』に耐えられない。それはすんなり飲み込めた。オーディションに『合格できるか・できないか』勝負の先は、アイドルとして『どれだけ価値があるか』。下限の足切りはもちろん、上限を青天井に椅子を取り合う。常に、あらゆる面で勝負し続ける。だから心の支えが、芯が大事。

 だったらその芯は、どうやって身に着けるんだろう。そんなわたしの疑問を、プロデューサーは見透かしていた。

「芯は自分自身で見つけるしかありません。人それぞれ異なるからです。技能が芯になる人もいれば、努力、結果、経験、出会いなどが芯になる人もいる。他者に劣ると自覚する技能であっても、その中に芯を見つける人だっています。もし、貴女達が貴女達なりの芯を見つけたら、またご応募ください。そうでなければ、目指すべき場所はここではないでしょう」

 ドキリとした。甘えを指摘された感じがして。わからないとか、どうやってとか、自分自身で見つけるのとは真逆のことを考えちゃってた。

 最後に、プロデューサーはまた深々と頭を下げた。

「以上。お時間頂戴し申し訳ありません。皆様の今後のご活躍を、成長した姿を見られることを心より願っております」

 スタッフの人が扉を開き、プロデューサーが去った。ちょっと経ってわたし達も退出。ショックで動けない子が結構いたけど、わたしはそうでもなかった。もっとがんばりたい気持ちでいっぱいだったから。夢を見せたまま帰したっていいのに、親切にわざわざ時間を使って、わたし達の現実と、がんばるためのヒントを教えてくれたんだもん。

 この瞬間から、わたしの目標は『芯を見つける』になった。


 帰ったらすぐ、崇子ちゃんに報告しよう。オーディション対策に付き合ってもらったお礼も合わせて。せっかく都会まで来たんだし、チートデイ用のお菓子でも買って……あっ。

 忘れてた! うちのお遣い! えっと、お父さんが辛子明太子で、お母さんは有名店のスイーツ、だっけ。お店の場所は~~。


 どうやったら、『芯』が見つかるのかはわからないけど。

 何はともあれ、まずはわたしにできることから。それがすべてで、そこにすべてを。

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