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第二十一話:県北高校アイドル部『リコレ』(1)

『温かなご声援、ありがとうございましたー!!!』

『商業高校アイドル部を、よろしくお願いしまーす!!!』

『自由曲も楽しみにしていてくださいねー!!!』

 商業高アイドル部員達が手を振り呼びかけ、小走りで舞台袖へと引き上げていく。盛り下がっていた会場に物怖じしない思い切りの良いパフォーマンスは、観客達を清々しい気分にさせた。

 客席の商業高ファンや保護者、部員から拍手と声援が飛ぶ。

『次も楽しみにしてるぞー!』

『みんながんばれー!』

『商業ファイトー!』

 今大会では各校五十席上限で自校招待席が割り振られており、商業高は全て配布済み(余る場合は運営に返還され一般席となる)。条件は他校も同じだが、冷めた一般席の圧に負けて声を上げられなかった他校関係者と違い、商業高ファンや保護者は迷いなく応援。商業高校アイドル部と同じで、ファンや保護者も度胸があった。

 その雰囲気が伝播し、他校関係者や一般席でも義務的ではない拍手が起こり、プロアイドルファンからもまずまず好意的な声が上がる。

『部活って感じ』

『真面目だね』

『まぁいいんじゃない? 顔覚えてないけど』

 興味は湧かずとも真剣さは感じる、おおよそそのような反応だった。


──


 商業高のパフォーマンスを冴姫達は、リハーサル室の会場モニタで眺めた。

 リハーサルながらに茉佑が嬉しそうに小さく拍手する。

「商業高の人すごいなぁ……」

 単にいないせいもあるが、エース級の存在に頼らず、練習量で一定の質を確保する商業高。冴姫は、才能なく努力型の茉佑は、系統としては似ている(から惹かれるのだろう)と思った。

「悪くなかったわ。アンタはあの子達好きそうね」

「うんっ! がんばってて素敵だなって思う……!」

商業高(あっち)のが合ってたんじゃない? サボる人いなそうだし」

「ええと、それは……」

 忙しく目を動かし返事を考える茉佑。その様を見て冴姫は軽率だったと察する。クラスの席替えで一定範囲を動かないと知っているのだから、いつも一緒に帰宅しているのを見ているのだから、茉佑が家の近くの高校を選んだ理由など考えるまでもなかった。

「あ、ごめん。今の──」

「──私が茉佑ちゃんに頼んで天川女子高(ここ)にしてもらったんだよ。一緒に部活動アイドルしようって。他校だとレギュラー争いとかユニット選抜になっちゃうことがあるから」

 崇子は普段と変わりない表情と声色で言う。

 すぐに茉佑が忙しなく付け加えた。

「そうだけど、それだけじゃないんだよっ。わたし髪色こんなで長さも長くないと落ち着かなくて、家から近い方がその分たくさん練習できて! それにうち和菓子屋だから、天川(ここ)はなにかと都合いいんだっ!」

 息切れする勢いで茉佑が言い終わるのを待ってから、崇子は微笑む。

「……そうだね。と、言うわけなのでした。冴姫ちゃんわかった?」

「ええ。よくわかったわ」

 茉佑の話に嘘はない。冴姫はそう感じた。同時に、茉佑が崇子と二人きりではなく、アイドル部として頑張ってみたかったのだろうとも。

 なんとも言えない鈍い空気が広がるのを嫌ったのか、崇子が話を変えた。

「あらら、せっかく商業高が盛り上げてくれたのに。また戻っちゃったねー」

 モニタに映るユニットは、それまでと同じでウケが悪い様子。結局、数組に渡りキレのないパフォーマンスが続いたことで、熱を帯びかけた会場の空気は再び冷まされた。

 最終番の一つ前、県北高校ユニット『リコレ』の出番の頃には部活動アイドルへの期待はすっかり消え、『八千人が着席』しかし『大半がステージへの興味ナシ』という、過酷な状況が出来上がっていた。


──


 まるでステージ開演前の様相で騒めく観客席。興味が向いているのはこれから現れるユニットではなく、その後番。なので演出で暗くなった会場も、始まるであろう一組のライブも、映画前に挟まるコマーシャルの扱い。それは、舞台袖に控える四人の少女にも伝わっている。


 清純な雰囲気の、水色一色で花やつるの意匠がついた半袖とミモレ丈スカート。ヒールの低い白色の靴。同じ服装でも四者四様の澄んだ魅力を持つ、県北高校アイドル部ユニット『リコレ』。

 成田なりた麻衣まいは、四人のうち一番小柄で三つ編みお下げ髪、利発さ漂う顔立ちに銀色アンダーリム眼鏡。気弱な性格もあって庇護欲をくすぐる雰囲気。

 くすのき栄里えりは、二番目に背が高く、今日の髪型は外・内と立体的にカールさせたミディアムショート。目も表情もパッチリ。運動が得意で性格も健康的。

 堀越ほりこしじゅんは、栄里より少し背が低く、髪は茶色混じりの癖髪ロング。可愛い系の顔に不機嫌の表情が乗っかっているのは、ステージやら世間やらへの警戒心から。今秋に校則が変わるまで続いた黒染めで髪が痛んでいるせいでもある。

 萩原はぎわら璃子りこは、リコレのリーダーで一番の長身。すらりとしたスタイルがクールな黒髪美人。今秋に生徒会長となり、学業も優秀。品行方正、文『部』両道。


 そんな四人は今、未体験の重圧をステージに感じている。部活動アイドルとして初めてライブした時よりも、全国大会に出場した時よりもずっと苦しい。自分達の実力・魅力にある程度自信があっても、全員が薄っすら『今回は通用しないかもしれない』と考えてしまう。


「リコちゃん、わたし……」

「大丈夫だよ麻衣。ほら、手を握って」

「あー、麻衣ちゃんだけずるー。アタシもー」

「栄里は場所逆じゃん。不安ならウチと繋ぎなよ」

「まぁいっか。純ちゃんで我慢してあげるー」

「ったく、アンタはさぁ……」


 麻衣が璃子と、栄里が純と手を繋ぐ。

 体温は麻衣や栄里の方が高いのに、不思議とお互いに温かさが伝わった。


「純、手を」

「ん」


 最後に真ん中二人、璃子と純が手を取り合い一繋ぎに。

 璃子が言う。


「行こう。いつか振り返るこの時を、素敵な思い出にするために」


 僅かな補助灯を頼りに、暗いステージを四人で歩く。偶数人用の目印バミリの数字に合わせ端手前から麻衣、璃子、純、栄里の順番で手を離し、各々のポジションへ。石膏像のごとくポーズをとって制止。

 天井にブルーライトが灯り、姿が淡くステージ上に浮かび上がる。暗闇で靴底を鳴らし現れ出でた少女達。青の輪郭でも伝わる真剣な表情。ここまでの出演者にない粛然とした空気に、騒がしかった会場は口をつぐみ、耳を傾けた。

 全員のマイクがオンに。璃子の言葉で『リコレ』のステージは始まる。


「県北高校アイドル部『リコレ』。……私達を、見て」


 これは、いつかの未来のための。

 自分の支えになるような。誰かが嬉しくなるような。

 思い出(リコレクション)したくなる、一生の宝物を。


──


「~~じゃあさ、『リコレ』にしようよ」

 中学二年生の時の、いつかの帰路。栄里の一声でユニット名が決まったのが、ずいぶん昔に感じる。中学校卒業の時期になってもまだやってみたい気持ちだったから、なら高校でも部活動アイドルやろうって話になって。

 小っちゃい頃に作った私と純の『リコリコ』と、栄里と麻衣の『エリマイ』を合併した。

「私達の名前ばっかり残ってない?」

「いいの、言い出しっぺは璃子だし。それにこれは記憶とか思い出の意味の『リコレクション』からだから」

「recollectionなら、読みはレコレクションのが近くない?」

「リコレクションとも読めなくもないからセーフセーフ。あとは『リコに夢中になってけ!』の『リコれ!』の意味も込めてるよ」

「ますます私達ばっかり~~」

 その後なんだかんだとあって、結局『リコレ』に。思い出とか記憶とかそういうの、私達にぴったりだったから。

 どんなに仲の良い幼馴染でも、離れ離れになる時が来る。アイドルも好きだけど、私はお爺ちゃんみたいなお医者さんになりたいし、純は生活の心配がない手堅い仕事に、栄里も麻衣もそれぞれ夢がある。

 だから私達にとって部活動アイドルは、幼馴染との大切な時間の結晶で、ついでに、見てくれる人にとっても良い思い出にしたいねって──。


~~


『──さいっあく! 何あの観客、目つき悪すぎなんだけど?!』

 刺々しい声に、思い出に浸る時間は中断された。さっき出演していた子達が控室に戻ってきていたらしい。リーダーっぽい子は苛立った足音で荷物の場所に行き、フリフリの衣装が皺になるのも気にしないで椅子に座った。

 怒り心頭のリーダー(仮称)に、ユニット仲間も同調する。

『マジでキショ過ぎ、こんなんなら出なきゃ良かった』

『ホントそれ。MiSaKi(ミサキ)のせいでウチらの青春が台無しだよ』

 別室だからって言いたい放題。まぁ彼女達の言葉は、今日出演したほとんどのユニットの本心なんだろう。

 そんなことを考えていたら、リーダーっぽい子が話しかけてきた。

「あんたらもそう思うっしょ? MiSaKiいなきゃ優勝だったんだし」

 そう思わないし、優勝だって諦めてないし、同室で柔軟やってる商業高にも失礼。

 だから。

「思いません。優勝するつもりなので」

 と返した。

「……っ。あんたはいいよね、プロにだってスカウトされたんだから。はぁ、もういいわ」

 つまらなさそうに背中を向けるリーダー。

 その肩を、横で聞いてたらしい純がガッチリ掴んだ。

「あのさぁ、『もういいわ』って何? なんで璃子(りこ)に失礼こいたお前が決めんの?? 間違った絡みしたんだからそこは『ごめんなさい』でしょ???」

 相手が衣装じゃなかったら間違いなく胸ぐら掴んでたと思う。こうして見ると純はヤンキーに見えなくもない。地毛でも黒染めのブラック校則を撤廃した影響が、こんなところで出るとは……。

 純の迫力に負けて、リーダーは目を泳がせた。

「あ、っ……」

「聞こえないんだけど?」

「ごめん……」

 不満たらたら形ばかり。

 それはどうでもいいとして、純がこれ以上怒ったら困るので許す流れにのる。

「いいよいいよ、ステージ大変だったんだろうし。私達も覚悟しなきゃ」

「マジでそれ! 地獄だったかんね! 全然ノってくんないし~~」

 同情した瞬間に声のトーンが上がり、横で純がすごい(苛立ちの)目をしてるのも気にせず、リーダーは二言三言。やっと去ってくれた。

 睨み目つきで純が言う。

「なにあれ鈍感が過ぎるわ。出番控える人の前でモチベ下がることをペラペラとさ」

「まぁまぁ、それだけショックだったんだよ」

「だったらショックうつすなって話」

 ライブ前だからかこれ以上は言わず、純は着席脚組み。イヤホンを付けいつものルーティーンに戻った。


 ……ありがとう、純。麻衣も栄里も嫌がってたし、ステージの出来を他の誰かのせいにするなんて、宝物の思い出じゃないもんね。

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