第十七話:見上げた空には
不気味な洋館、灯りはランタン一つ。飾られていた西洋人形は動き出し、いたるところから悪霊が湧き出でる。プレイヤーは襲い来る災いに一切抵抗できず、逃げるか隠れるかしか選択肢はない。理不尽系VRホラーゲームのもたらす未体験の恐ろしさに冴姫は大いに叫び惑い、期待以上のみずみずしいリアクションを見せた。
ユニット『偏翼の天使』広報動画として、撮れ高ばっちりの仕事ぶり。冴姫もここまで恐ろしい思いは予想外ながら、悪くない出来になったと満足はしている。
満足しているが、ゲーム中に一瞬、冴姫は広報以外のことを考えた。
「(企画なら最初にララがやらされて『無理ですぅ!』って即ギブアップ。次に照葉がホントはできるのに『できなーい』ってぶりっ子拒否。そんでワタシがやる流れになって、今みたいに撃沈するの。最後はささらが『本当に怖いのは現実だよ』とか、ちょい闇を感じさせる意味深な言い回しでクリアして──)」
想像したのは、プロアイドル時代の所属ユニット『TeSseRa』でホラーゲームをプレイする場面。番組制作会社のスタジオで、ユニット雰囲気よりだいぶポップ目なセットが組まれていて、流行お笑い芸人の司会者がいて。TeSseRaの四人は毎度何らかの指令を受けて企画に挑戦する……。叶わなかった冠番組を冴姫は頭に浮かべた。
「──おーい。冴姫ちゃん聞こえるー? もう外していいよー」
「……あぁ、ごめん崇子。ぼーっとしてた」
「あはは、そんなに怖かった? 良いリアクションだったもんね」
崇子の声かけで我に返った冴姫。取り外したゴーグル型ヘッドセットをまじまじと眺め、崇子に尋ねる。
「そりゃ怖いでしょ。と言うかこれもゲームも、わざわざこの企画のために買ったの?」
「ううん、私物。まだ遊んでなかったからちょうど良いなーって」
「よくこんな怖いの買うわね……」
「怖くする工夫が見えて面白いんだよ」
「怖がってないってことね」
「不気味に感じたりびっくりしたりは普通にするよ? けど誰かさんが言ってたみたいに、どうであれ現実じゃないからね」
にこやかに笑う崇子の言葉は、冴姫が『欲しかった反応』。TeSseRaとしてのアイドル人生はなくなっても、『崇子となら』という考えが頭をよぎる。同時に『残される側』のことを考え、茉佑と目が合った。
茉佑は無邪気なペカペカ笑顔だった。
「冴姫ちゃんお疲れ様っ。大っきな悲鳴だったのに全然声枯れてなくてすごいね……!」
「過酷な収録に耐えなきゃだから。けどさすがに疲れたわ。いったん休憩させて」
ほぼ叫び通しの数十分。さすがの冴姫にも喉や肩の強張りはある。
予定していた通り、崇子が休憩を提案した。
「じゃあリビングでお茶にしよう。用意はママと済ませてるから」
「ありがと──ママさん?! ちょい待って! 会う前に身支度しなきゃ! 髪に癖ついちゃってる!」
「はいはーい。洗面所教えるから行っておいで」
そんなこんなで広報動画の一つ、冴姫のホラーゲーム体験は無事完了。
三人&崇子母で、午後のお茶とお菓子を楽しむこととなった。
~~
吹き抜けの高い天井と、テラスに面した大型窓。柔らかな陽が差し込む室内は自然光だけで十分に明るく、開放感のある広さも相まって爽快さすら感じさせる。レイアウトはL字のソファ・壁面テレビ・壁収納のリビングに、キッチン及び八人がけテーブルのあるダイニングが一緒になったリビングダイニング式。
設置家具は少なく、床は段差どころかカーペットもなくフラット、壁には手すり。部屋の一角にはサドルの付いた物々しい歩行補助器が一台。
……と、上がりこんだ時なら気になって見回していたであろう光景も、今の冴姫には意識する余裕はない。崇子母を前に、緊張の面持ちで立つしかないでいる。崇子父との関係を企業の重役と一社員のそれとするなら、崇子母とは部活動の先輩後輩に近い。
テーブルそばで待つ冴姫の前に、一度キッチンへお茶の用意に行っていた崇子母が木製ティートロリー(移動式配膳ワゴン)を押して戻ってくる。セミロング髪でワイドパンツにニット素材トップスコーディネートの崇子母は、手足がすらりと伸びたスレンダー体型のクール美人。顔にこそ年齢的な皺が多少あるものの、健康的でハツラツとした魅力が輝く人だった。
自信とエネルギー溢れる崇子母と目が合い、冴姫はすぐさま綺麗な角度でお辞儀する。
「奈津子さん初めましてっ、龍ケ江冴姫と申します。本日はお世話になっていますっ!」
崇子母はスっと立って笑顔。軽やかな声で返した。
「こちらこそ初めまして。噂は色々聞いていたけど良いオーラをしているわね。このところ崇子や茉佑ちゃんの顔つきがどんどん良くなってきてる理由がわかった気がするわ」
褒められたことに冴姫は感激。
前のめりになる勢いで再び頭を下げる。
「ありがとうございますっ! 私の方こそ、崇子さん達には助けられてばかりです!」
「仲良くできてるみたいで良かった。さ、みんな座って。ティーサービスの引き換えだと思って、隠居おばさんの話し相手をしてちょうだい」
ティーセットを並べ終え各々着席。崇子母・崇子は横並びに、冴姫・茉佑はその対面に座った。スコーンやケーキの盛り付けられた三段のケーキスタンドは見るだけで心を躍らせ、上品で精巧な植物柄カップに注がれた紅茶は浸っていたくなる香りを漂わせる。
崇子母は冴姫達が手を付けやすよう、早々に軽食へと手を伸ばした。
「遠慮せずに食べちゃってね。マナーとか気にしなくていいから」
気取らなくて良いと言う母親の横で、反対に崇子は説明モード。
「ママはこういうけど、せっかく良い機会だから教えとくね。基本的にフードは下から食べるようになっていて、塩気のあるものから甘いものの順番に~~」
崇子の話を茉佑は興味津々で聞き、冴姫は『知ってるけどね』と得意気。
和やかな様子の三人(特に冴姫)を見て、崇子母はポツリと言った。
「疑って反省しないといけないわね。こんなこと言っては失礼だけど、冴姫ちゃんは結構、気難しい子だと思ってたから」
「ちょっとママ、デリカシー」
「あぁ、ごめん。良くない話題だった?」
崇子母は冴姫が事務所を退所した経緯──ユニットメンバーとの衝突のあらましを知っており、その印象から『想像より気の良い性格』と褒めた。それを崇子が制したのは、冴姫が退所理由を明かしていないため。
崇子も茉佑も冴姫の事情を詳しく知らない(崇子は予想できている)のだが、二人とも『本人が話さないなら聞かない』としている。
茉佑と崇子は心配する顔で、崇子母はじっと冴姫を見つめた。
「良くないとかは全然なくて、ただ……」
突然の踏み込んだ質問。
冴姫は話し始めこそ迷ったものの、意を決する。
「……いえ、そうですよね。色々噂が出てる身で組んでもらってるのに、何も話していないのは変ですよね」
転入当初は、誰にも話す気がなかった。途中からは、崇子達が聞かなかったから触れなくて良いことにした。しかし大先輩アイドルに尋ねられて答えないわけにはいかず、崇子と茉佑に伝えるせっかくの機会だと思えてもいる。
茉佑、崇子、そして崇子母へと視線を動かし、冴姫は口を開いた。
「今から話すことは、公にしないでもらいたいです。事務所やTeSseRaの活動を邪魔したくないので……。その、奈津子さんがおっしゃるのも無理はありません。ワタシが事務所を辞めたのは、メンバーと揉めたことが原因なんですから」
崇子母は『そうだよね』と頷き、崇子も納得の顔。茉佑は少し驚いた様子。
冴姫は続ける。
「詳細は伏せますが、メンバーとは活動の方向性の違いで衝突しました。それでワタシはメンバーの子が信用できなくなって……事務所を辞めたんです」
首を捻る崇子母。
「ソロとか別ユニットに異動とかじゃダメだったの? 事務所に所属するのも簡単じゃないし、デビューまで下積みせっかく頑張ったのに。あっ、またごめん。私、ずっとソロだったから気になっちゃって」
現役時代の崇子母はソロアイドル。デビューから引退までユニット活動を行っていない。メンバーとの不和が、アイドルとして積み上げたもの全てを手放すことと釣り合うとは思えなかった。
その疑問に、冴姫よりも早く茉佑と崇子は反応。
茉佑が呟いた。
「そうじゃないと辿り着かない場所だから……」
思い出される、文化祭ステージ後のやり取り。
母が理解できるよう、崇子が補足する。
「冴姫ちゃんは、仲間と高め合って作るステージに立ちたいんだよね?」
重なる三人の視線。
崇子母は納得半分疑問半分。
「そういうこと。冴姫ちゃんには理想があるわけだ。でもユニット異動はできたでしょう?」
冴姫はコクリと頷いた。
「はい。ですが、TeSseRaや異動先の邪魔になると思いました。ワタシが移ったらどうしたって、その以前と以後で比べられます。そしてそれは軋轢になって不和になる……。だったらワタシのワガママで収めた方がマシじゃないかって。部活動アイドルで知名度さえ維持できれば、ほとぼりが冷めた頃に他事務所と契約できるんじゃないか、とも思いました」
崇子母は悩ましげに眉を寄せる。
「なるほどねぇ……。じゃあ、ここの学校を選んだのはなぜ?」
言葉を選ばず冴姫は答えた。
「天川女子高を選んだのは、ブログで見たアイドル部の実力が低かったからです。転入可能な中でパッとしなかったこの部を勝たせれば、ワタシの力の証明になる、と」
天川女子に目をつけた理由を、隠さず偽らず正直に明かす。崇子はともかく、現部員や茉佑に対し辛辣な発言だというのは承知の上。それが伝えると決めた本音であるし、ここまで質問が重なれば、崇子母が自身を見極めようとしていることもわかっている。
ただ冴姫は、目だけでチラリと茉佑を見た。様子に特段の変化はなくいつも通り。内心でホッとする。
そのうちに、渋い顔をしていた崇子母の表情が変わり笑顔になった。
「教えてくれてありがとう。つまり若気の至りの無鉄砲さと、アイドル物差しの傲慢ね」
「ぐぇ……」
自分をはるかに上回る歯に衣着せぬ言いっぷり。冴姫からぺちゃんこに潰されたみたいな声が漏れる。
冴姫のリアクションを一切気にせず、崇子母は明るい口調。
「でも冴姫ちゃんがアイドルとしての一般的な成功よりも、自分の大切な目標に向かって全力なのはわかったわ。我が強くて短慮で融通が利かないけど真っすぐ。それが冴姫ちゃんなのね」
「あ、ありがとうございます……(?)」
困惑する冴姫に、崇子母は変わらず笑顔を向けた。
「大丈夫、褒めてるのよ? 茉佑ちゃんもそうだけど、若いうちはそのくらいアクセル踏み込んじゃって、溢れるエネルギーを大爆発させる方が良いの。崇子みたいにグズグズはもったいないわ」
引き合いに出された崇子は頬を膨らませる。
「もー、ママったらひどい言い草。家庭内パワハラ反対」
「崇子にはもっとはっちゃけてほしいのよ。そうだ冴姫ちゃん。もう一つ聞いてもいい? 冴姫ちゃんの理想って、誰のいつのパフォーマンス? こだわるってことは、完成形のお手本があるんでしょう?」
崇子母の疑問に、崇子と茉佑も便乗した。
「あ、それ、私も気になる」
「わたしも……!」
「えっと、それは……」
冴姫はポケットから携帯電話を出し、インターネット機能で動画を検索。三人に見せる。
「このステージです。このステージが、ワタシの理想であり目標なんです」
映っていたのは、ポップな恋の曲を歌い踊る、とある三人組アイドルユニットのライブ映像。冴姫にとって彼女達のパフォーマンスは、技量だけならある程度近づいた今でも、まるで手が届いていないと感じさせる高みにあった。
場所はこの国の音楽の聖地。ライブ当日のチケットは即日完売。この日を待ちわび、この日まで支えた熱心なファンに囲まれ、彼女達はステージの真ん中で光を浴びた。
当然のように生歌で、可愛い曲を可愛く歌う。しっかり歌う。リズム感、音程、音域、ハーモニー、etc。どれも正確な三人は、個々にプロフェッショナルのアイドルであり、重ねた視線だけでも伝わるほどユニットとしても一体だった。
そんな彼女達が活動を終了してしばらく経った現在、当時のパフォーマンスは『もっと評価されるべき』だったと、同業アイドルの多くから語られている。活動時期のテレビ番組での扱いが(同業のアイドルと比べ)少なかったためであるが、『聖地と呼ばれる会場』で『チケット即日完売』する成功であっても、評価が『不足』に思われる……。彼女達はそれだけの輝きを放っていた。
冴姫がパフォーマンスを見たのは、彼女達の活動終了後になる。『アイドルが好きなアイドルライブ』という特集で話題となり、動画サイトのオススメ機能で自動的に表示されたことで存在を知った。
まだ幼く、アイドルも自身の将来も強く意識していなかった冴姫は、動画を見た瞬間に全てを決めた。彼女達の舞う空を目指し、脚は大地を蹴っていた。
曲が終わり、冴姫は言う。
「技術とか調子とか、それだけじゃない『何か』がこのステージにはある気がして……。ユニットメンバーを信頼できなかったり事務所と揉めたりしているんじゃ、手が届かないように思うんです」
崇子母はすぐに言葉を返した。
「この子達だって内心ドロドロだったかもよ?」
冴姫は一度頷き、はっきり答える。
「はい、そうかもしれません。ですがワタシがあのステージをやるには、全部を注げる状態じゃなきゃダメだって感じました」
言い切る様に、崇子母は仕方ない表情。
口調穏やかに言った。
「そう思ったのなら、やってみるしかないわね。彼女達もきっと色んなことを試して試して、辿り着いたんでしょうから。……あら、もうこんな時間。お喋りが過ぎたわ。ところで広報って、次は何するの?」
パチリと両手を合わせて、話を切り替える崇子母。
聞かれた崇子は、頬に指を当て考え顔する。
「明日中に歌録りするとして、その準備かな。なに歌うかまだ決めてないから」
「へぇー、歌、いいじゃない。そうだっ、ここで歌いながら決めちゃいなさいよ」
ウキウキの母を、崇子はめんどくさそうに相手した。
「ここでぇ? ママが聴きたいだけじゃないの?」
「当っ然。いつだって若い子の流行りを取り入れていかなきゃ。茉佑ちゃん冴姫ちゃん、いいわよね? カラオケしながら決めちゃいましょうよ」
冴姫は目をパチパチ。
「カラオケ、ですか?」
「そうそう。まぁ見てて」
崇子母はティーセットを片づける脚で、リビングエリアへ。テレビそばの壁収納を開ける。そこには店舗仕様のカラオケ本体とマイクが数本。流れで壁面スイッチを押すと室内灯が点き、モーター音を伴って窓にシャッターまで下りてきた。
「……? ……??」
一般家庭とはかけ離れ過ぎた、秘密基地もしくはシェルターのごときギミック。驚きを通り越して固まる冴姫。
崇子が呆れ笑いで言う。
「いやー、機械はレンタルでシャッターは雨戸を兼ねてるとは言え、メカメカしくてやり過ぎ感あるよね。家で収録なんてやるせいか、パパもママも機械好きでさー。歩行器なんかもゴッツイの買ってくるし……」
壁際に駐車されている歩行器を指し『やれやれ』と肩をすくめる崇子。
今になって頭に流れ込んできた豪邸の情報量に、冴姫は目を回した。
「ゲームやった部屋もカラオケ用じゃ……???」
「あっちはガチの方。って意味わかんないよね。アーティスト気分で収録までするのがあっちで、こっちはお遊び用、的な? ママったら世に出さないクセに、気に入った曲は本気で歌い込んで収録までするんだよ。パパや私にミックスまでさせてさ」
「え……」
スケールの違う趣味話で、ついに冴姫は完全にフリーズ。
崇子母が食器洗いしつつ話に入った。
「ミックスは自分でもするし、崇子がパパのマネしたくてやりたがったんでしょう?」
「いつの話してるの。今の私は忙しいんだよ?」
「練習させてあげてるの。プロの声を好きにできるなんて贅沢──」
「──元でしょ、元。それにいつも仕上がりに文句ばっかりだし」
「文句じゃなくて指導。はぁ、こんな反抗的な子になったのはきっとパパの影響ね。やっぱりバンドマンの反骨精神が──」
「──正当な抵抗ですぅ! あとどちらかと言えば性格はママ似だと~~」
娘の話を最後まで聞かず、洗い物を終えた崇子母はカラオケ機器を起動。冴姫の腕を引いてテレビ前に立たせ、マイクを持たせる。
「~~それじゃあ冴姫ちゃんいってみよー。当然、歌えるわね?」
「あのっ、この曲は……」
選曲用子機の画面に映る楽曲タイトルを見て、冴姫はまごついた。
反応を見て崇子母はケロリと白々しい表情。
「どうせ特別な曲だから特別な場面に~とか、歌う資格が~とか思ってるんでしょ? いいじゃない。たまには好きな曲を好きなように歌って。テレビでもお店でもないから、誰に知られることもなし」
「でも……」
「事務所は飛び出せるのにこういうのはためらうのねぇ。それじゃあ茉佑ちゃん歌っちゃいなさい」
「!」
もう一つマイクを持ってきて、崇子母が茉佑に渡す。歌えそうだと見当をつけたのは、冴姫がライブ映像を見せた際に茉佑がリップシンクしていたから。
「はいっ。あ、でも、冴姫ちゃん本当にいいの?」
マイクを素直に受け取っておきながら、困った調子の茉佑。
テレビ画面が遷移しタイトルが出たくらいで、冴姫は自身のマイクのスイッチを入れた。
「ごめん、良くない」
「うん! じゃあわたしは──」
「──パート分けしようね。冴姫ちゃんがメインで、茉佑ちゃんと私でサブ。ハモリは私がやるよー」
茉佑がマイクを置こうとするのを崇子が止めた。崇子の手にもマイクがある。
曲が始まってしまったので冴姫は、了承のアイコンタクトと頷きを茉佑と崇子へ返した。
「(まさかこんな形で歌うことになるなんて……)」
いつもと違い、長い髪をハーフツインに結ばずストレート。常在アイドルも今だけはお休み。ここにいるのはただの女子高生、龍ケ江冴姫。心のままに歌うのは、ずいぶんと久しぶりだった。
「(やっぱり好きだな、アイドル)」
目を閉じて曲を感じる。イメージするステージとは音も場所も何もかも違って、追いかけ始めた時よりもずっと遠く離れているように思えた。
けれども。
「(ワタシもアレをやるんだ、絶対に……!)」
見えなくなったわけじゃない。見えているのなら手を伸ばすのみ。
間奏に入るなり冴姫は、茉佑と崇子に宣言する。
「アンタ達っ、今日は歌って歌って歌うわよ! ばっちりハマる曲、見つけなきゃいけないからねっ!!」
今日は今日のやるべきことを。
カラオケ遊びは楽しくとも、それで一日を終われないのが冴姫である。




