第8話:「胎動⑧」
教団内部、練兵場のほど近く、日の当たらない部屋へと転移した男二人。いらだち交じりに男は口火を切る。
「なぜ退却したんだ、まさかさっきのガキにびびっちまったなんていわねぇだろうだな」
もう一人の男は心ここにあらずといった様子で、虚空を見つめている。不意にふっと男の顔がほころんだ。
「おい、・・てめぇ・・何、わらってやがる」
現実世界に引き戻されたかのような男はえらく楽し気な様子だ。
「あぁ、いやなに、そうだな、だったらお前はあの場で握りつぶされてもよかったのか」
「そうはいわねぇよ、だがオレ達は任務に失敗した。いったいどんな処分がくだることやら」
「教団所属の戦闘員は貴重なはずだ、命までは取られないだろうよ」
「それに」
「それに?」
「それにな、今回の件は私の不手際として上に報告する。それなら文句はないだろう」
さっきまでしかめ面だった男は溜飲がさがっており、今は眉根をよせて、いぶかしんでいる。なぜそんなことをするのかと顔に書いてある。
「その代わりにお前に一つ頼みがある」
なんだと無言で催促する男。
「今日会った少年、彼については他言無用で頼む」
「なぜだ、それになんの意味が」
「さっきの少年、彼の瞳をみたか?」
「さあな、赤く色がかわったようには見えたが」
うぅんと咳払いをして男は続ける。
「彼の瞳の紋様、あれは五芒星だった。あの模様はな、かの高名なラー家の一族にごくまれに発現すると言われているんだ。なんでも瞳に五芒星を宿す者は聖剣を扱える稀有な存在だと」
「つまりなんだ、お前はさっきのガキが聖剣を所持していると」
「そこまではなんとも。まあもし仮にそうだとして、あの場で戦えば死ぬのは私たちだっただろうな」
納得がいかないといった男をしり目に興奮冷めやらぬといった様子の男はなおもつづける。
「これはすごい発見だ。行方知れずの聖剣とその保持者、教会がのどから手がでるほど欲している情報、その一端を私たちはつかんだんだ。うまくいけば出世のチャンスだ。潮目が変わるのをひしひしと感じる。これはきっと僥倖に違いない。お前もそうは思わないか」