55 朝焼け
ストリートには、祭りの名残が散らばっていた。
ゴミ、空き瓶、花びら、そして――誰かの落とした帽子や、羽根飾り。
まるで熱狂の亡霊みたいに、そこかしこに転がっている。
住人たちが、朝焼けのなかでせっせと掃き集めていた。
あれほどの騒ぎがあったというのに、セブンツリーはちゃんと生きてる。
――こういうところ、ちょっと好きかもな。
神殿のいちばん高い場所に立って、オレは静かに朝日を浴びる。
まぶしい。
目を細めながら、呟く。
「終わった、終わった……」
すべてが片付いた。祭りも、事件も、因縁も。
――いや、終わったんだよな? 本当に?
なんとなく、この勢いで元の世界に帰れるんじゃないか――
そんな、根拠のない気がした。でも。
「……ムリだな」
オレの身体は、この世界にがっつり根を張ってる。
風の匂いも、肌に触れる光も、温かい。
生きてる。ちゃんと、生きてるって感じがする。
「さーて、これからどうすっかな……」
王位継承レース? そんなの、正直どうでもいい。
なんだかんだ楽しく、のらりくらりと暮らしていけたら、それでいい。
背負うもんなんか、もう充分すぎるほど背負った。
ふと思い浮かんだのは、弟や妹たちがいる街のこと。
視察って言うと堅苦しいけど、観光なら悪くないだろ。
そうやってしばらくのんびり過ごすことに決める。
足元にあったワインの瓶を拾い、栓を開ける。
一口。
「……うま」
この世界の酒はそれなりにうまい。
そしてこれは前ユーリ様も好きだった酒だってクライヴから聞いているから、きっと口に合うんだろう。どこか懐かしい香りがする。
ぐび、と喉を鳴らし、あとは神殿の床に捧げた。
「お疲れ様。仇は討ったぜ……ま、根っこをたどれば、全部オレのせいかもしんないけどな」
そう思うと、苦笑しか出てこないけど。
「けどまあ、これからは――もっと、オレの好きにやらせてもらうぜ」
あんたが守ろうとしたもん。
オレも、大事にするよ。
どうせ他にやることもない。
たとえばアマーリエとか。
クライヴとか。
セブンツリーとか、ここで生きてる人たちとか。
オレに取られるみたいで嫌かもしんないけど、でも――泣かせねぇように頑張るから。
「許してくれとは言わねぇよ……祟るなら、好きにしてくれ」
視線を感じて振り返ると、アマーリエとクライヴの姿が見えた。
オレは空になったワインの瓶を掲げ、笑って二人のもとへ歩き出した。
「……さ、やることは山積みだ」




