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52 パーティーの始まり





 そんなこんなでいよいよ聖誕祭の本番がやってくる。

 あ、生誕&復活&大感謝祭を合わせて聖誕祭って呼ぶことにしたんだよ。わかりやすいだろ?


 そして、オープニングパレードの時間がやってきた。


「結局こうなったか……」


 演出用王冠は本気で落としそうなのでやめたけど、豪勢なマントというアマーリエの重課金装備で白馬にまたがるオレ。

 手綱を握るのは、相変わらず硬っ苦しい護衛騎士クライヴ。

 そのすぐ隣を、悠然と歩く銀白の神獣のシルヴァ。


 左右に高貴で強そうな存在を従えてる自分、めっちゃVIP感あるな。

 てかもう王様じゃない?


「いやぁ、愛されてるなぁ、オレ……」


 思わず呟くと、シルヴァが鼻を鳴らす。


「汝の威光を知らしめる機会、存分に活かすがよい」

「……ああ。もう、どうにでもなーれ」


 マントを軽くはためかせながら、オレは苦笑いと共に、白馬の上で背筋を伸ばした。


 ――セブンツリーの大通りにファンファーレが鳴り響く。


 沿道を埋め尽くす市民たちが歓声を上げ、花吹雪が舞う。

 オレは軽く手を挙げて応えた。顔は笑ってるけど、心の中は割と真顔だ。いやほんと、こういうの照れるんだって。


 馬の後ろでは、ホスト部隊&キャバ嬢部隊が色とりどりの衣装で行進している。

 笑顔で花を撒き、紙吹雪を舞わせ、時には通行人にウィンクを飛ばしては、黄色い歓声を浴びていた。


 ちなみにこの後もイベントが目白押しだ。


 聖なる森と神獣に感謝を捧げる丸太切り大会。参加者たちが汗と斧を振りまく、割と本気の肉体派神事。


 即興芝居『奇跡の復活王子』とか、夜は奇跡のシャンパンタワー点灯式も予定されている。

 タワーでオレが一番上に注ぎ入れて光り輝いてからの歓声&花火ってわけだ。


 ……な? なんでもありだろ。もうどうにでもなーれってやつだよ。


 あー、あと神聖術の無料施術ブースもある。奇跡を分け与える祭事の側面もあるからな。


 お祭り屋台ゾーンも当然ある。

 シルヴァ似の飴細工、スライムボールすくい、怪しい占い。チルチルの作ったシャボン玉マシンも稼働して、常にシャボン玉が飛んでいる。


 肖像画は複製を刷りまくってブラインドで販売して、百枚に一枚くらいの割合で、オレが直筆サインを入れている。


 まさに死角なし。


 ただ一つ懸念があるとすれば、聖女ジュリアがまだ到着していないってことだけ。

 あいつがいないと、メインイベントが始まらないんだよな。


 ……まあ、大丈夫だろう。

 たぶん、きっと。来るはず。


 ……多分。


 ――その時、大通りの歓声に混じって、ひときわ高く、甘ったるい声が響いた。


「ユーリくーん!!」


 視線を巡らせた先、パレードルートの一角――


 オレのホスト看板の前にいたのは、白を基調とした聖衣を纏い、金の刺繍がきらめく衣裳で、背筋をぴんと伸ばした女。


 ……ジュリア。


 オレは軽く手綱を引いて白馬を歩かせ、彼女のもとへと近づいていった。


「――ようこそ」


 馬上から目線を合わせ、微笑む。


「来てくれてありがとう。オレのお姫様」


 ジュリアの大きな瞳が、ぱっと輝いた。

 憧れと陶酔に満ちた目。


 ちゃんとわかってる。こういうのが好きなんだろ?

 王子と姫。特別扱い。――自分が本当に特別な存在なんだと思わせてくれることが。


 変わってないな。ホント。聖女になっても。逆に安心する。


「――今夜はキミをパーティに招待したいんだ。いいかな? オレの聖誕祭、祝ってくれる?」


 白馬にまたがったまま、手を差し出す。

 ジュリアはうっとりと頷いた。まるで劇の中の姫君のように。


「うん……もちろん」


 ――はい、特別VIP一名様ご案内。



◆◆◆



 陽が傾きはじめた頃、ベルモンドが中央広場の特設舞台の上に立つ。その手にはマイク。そして舞台の両サイドにはスピーカー。


 どちらも魔道具師チルチルの大発明だ。


 ちなみにこの舞台では昼間にオレをモデルにした劇が上演されている。


「さあ! ご来場の皆様、そして愛すべき市民の皆々様――! 本日この場をもちまして――ホストクラブ《アルタイル》、ついに開店ッ!!」


 歓声が上がる。無数の拍手。酒の瓶が打ち鳴らされ、火花が舞う。


「我らが聖王子・ユーリ様のご生誕、そして奇跡の復活祭を、盛大に祝わせていただきます―――ッ!」


 その瞬間、魔法の光が打ち上がり、天に咲いた。


「今宵は特別なお客様のみの招待制となりますが、後日の抽選予約も受け付けております! 皆様、奮って御応募」


 そしてオレは神殿横に建てられた――ホストクラブ・アルタイルで特別なお客様を待つ。


 オープン初日の今夜、オレが受ける指名はひとりからのものだけ。


 とはいえ、客はジュリア一人だけではない。


 貴族や有力商人、美貌のホステス、神官、貴族令嬢たちが店内にはずらりと並んでいる。そして、羨望の目でオレとジュリアを見ている。


 ――特別ってのはな、一人じゃ成立しないんだ。

 比較対象があってこそ、人は優越感に酔える。


 ジュリアは満足げに席に腰かけながら、周囲の視線を意識していた。表情を緩ませながら。


 人間の欲望ってのは、案外、種類が少ない。「認められたい」「羨ましがられたい」「特別扱いされたい」


 それさえ満たしてやれば、人は勝手に満足する。


 ま、オレが満たせるのはうわべだけだけどな。



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