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50 お客様たちがやってきた




 祭り三日前。

 オレはセブンツリーの街の入り口で、弟王子レオニスを迎えることになった。


「おー、レオ。来てくれてありがとな」


 手を挙げて近づくと、弟王子レオニスはぴしりと背筋を伸ばしたまま、きっちりと礼を返す。


「ご招待、感謝します。兄上」


 相変わらず堅苦しい。けど逆にこの堅苦しさが安心するようになってきた。

 と思ったのも束の間、後ろに控える黒い軍装の一団に視線が向かう。


「ところでさぁ、お前の連れてきた一軍なに?」

「警備のためです」


 即答。想定質問として準備してたレベル。


「いまここには兄上と私がいるのです。兄上の生誕祭と復活祭ともなれば外から入ってくる人間も増えますし、熱狂に駆られた民衆が暴走を起こしかねません。警備を強化するのは当然でしょう」

「いや、警備は割と力入れてるし……」

「勿論、普段は街の外に待機させておきます」


 さらりと事務的に言い切る弟。

 うん、もうツッコミどころが多すぎる。


「えーと……こんなに連れてきて、お前んとこの都市は大丈夫なの?」

「半数は残してきています。防衛に徹すれば一週間は持ちこたえられます」

「半分も連れてきてんのかよ?!」


 こいつがその気になればセブンツリー制圧できない?

 ……いや、されたところで、みんなに迷惑かけなきゃそれでいいけどさ。


 オレのことは放っておいてくれればいい。ごろごろしながら余生を過ごすんで。もしくはあちこち旅行したり。継承権は返上するから。


 レオニスが宿泊場所に案内されていったあと、隣でじっと無言だったクライヴの顔をふと見ると――めっちゃ顔色が悪かった。


「クライヴ、顔色悪いぞ」

「……ご安心ください。副官に街の全域警戒を指示し、兵士の動線を把握します。非常口の確保もしておりますので……」


 軽口のつもりで言ったのに、返ってきた答えはめちゃくちゃ重たい。


 なんで一人だけ臨戦態勢なの?

 戦争前夜の顔してるの?


 やめて、オレ戦争とか脱出劇とか希望してない。


 つか、映画俳優みたいな顔で映画みたいなこと言うの似合うな。

 はい、完全に他人事です。警備頑張ってくれ。オレは当事者になるまでモブでいい。


 なんだかどっと疲れながら神殿に戻ると、アマーリエが出迎えてくれる。どこか緊張した顔で。


「ユーリ様、先ほど到着されたエリオット・リデル様が謁見を希望されています。いかがなされますか?」


 なんかどっかで聞いた名前だな。

 それにアマーリエのこの表情。


 ――あ。アマーリエの元婚約者か!


「――ん。わかった。会うよ」


 すぐに謁見の準備が整えられる。オレは王様みたいな椅子に座らされる。


 ほどなく謁見室の扉が開いて、優等生っぽい貴公子が入ってくる。


 すらっとした長身に、整った顔立ち。漂う、箱入りエリート的なオーラ。礼服は皺ひとつなく、歩き方すら完璧で、マニュアル感すらある。


 ……ふーん、こいつがアマーリエに恥をかかせた張本人か。


 夜会の場で、アマーリエをエスコートすらせず、王女ミレイユと現れて、婚約破棄を宣言したってやつ。


 ――で、前ユーリ様はその場でアマーリエに堂々とプロポーズしたらしい。


 ……王子様ってすごいよな……。


 っと、感心してる場合じゃねぇ。


「殿下、このたびはご招待いただき、まことに光栄に存じます。王女殿下の名代として、失礼のないよう努めさせていただきます」


 ぴしっとした挨拶に、なんかこっちが気後れしそうになる。


「――ん。遠いところご苦労様」


 ……やばいな。

 どういう態度したらいいかわかんねぇ。


 ムカつくって気持ちがあるのも事実だし、でも大人の対応はしないといけない気もするし。

 そもそも王侯貴族の礼儀なんて知らねぇんだよ。


 誰か横から適当な台詞囁いてくれない?

 それかカンペ出して。


「――殿下は、ずいぶんと変わられましたね」

「うん、オレもう別人みたいなもんだからさ。お互い昔のことは忘れようぜ」


 エリオットはわずかに眉をひそめて、しかしすぐ整った顔で微笑んだ。


「そうそう、妹は元気?」

「……はい。公務でお忙しいご様子ですが、お変わりなく」

「そっか。頑張れって言っといて」


 にしても、前ユーリ様を知ってる貴族と話すのって、なんだか綱渡りでもしてるような気分になるな。


 ま、オレには再臨設定って最強のカードがあるからあんまり気にしないことにする。


 ……それにしても、こいつが大勢の前で婚約破棄とか、そんな大胆なことするような度胸があるように見えねーんだけど。


 ……あるとしたら、女に唆されたとか?

 顔も知らない我が妹に――。


 もうちょっと深堀りしたいところだけど、オレがいくら腹を割ったところで、このお坊ちゃんはちょっとやそっとじゃ口を開かないだろう。


 ……変装するか。


 変装して、飲ませまくって前後不覚にして話を聞き出す。これしかない。酔わせてしまえばこっちのもんだ。







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