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47 復活とか再臨とか、何がなんだか





「落ち着いて、伯爵。これは演出用。コスプレコスプレ」


 この王冠もこのマントもコスプレです。ガチじゃありません。


「演出用を本物以上作ってどうする?! 勝手に王を名乗ってるようなものではないか!!」

「そんな大げさなぁ」

「ではそのマントは何だ!! 陛下が式典で使用される御召物とほぼ同格の布ではないか!!」

「アマーリエが張り切っちゃって……」


 その瞬間、伯爵の顔がアマーリエの方に向く。


「アマーリエ嬢ーー!!」

「はい。ご来訪ありがとうございます、伯爵」


 澄まし顔で一礼するアマーリエに、伯爵の眉がピクリと跳ねる。

 ……そういやガルナード伯爵、アマーリエを黒幕かとか疑ってたな。聖王子が死んだからオレを影武者として聖王子に仕立て上げて、王位を狙ってるとか。そんなわけないのにな。……ないよな?


「まさかとは思うが、この茶番の共犯者ではあるまいな……?」

「ご安心ください。これはあくまで式典演出用の衣装です。ユーリ様ご自身も『王にはならぬ』と常々仰っております」

「で、では何故こんな王冠とマントを……」

「わたくしの趣味です。ユーリ様に中途半端なものは用意いたしません」


 アマーリエ、めっちゃしれっとしてる。

 なんかめっちゃ政治的な駆け引きの匂いがする。


 オレはへらっと笑った。


「そうそう。これはあくまで看板用の小道具だからさぁ。祭りのときにちょっと身に着けるかもしれないけど、そんくらい」

「……それだけのために、ここまでのものを?」

「はい。ユーリ様に中途半端なものは似つかわしくありませんので」


 アマーリエ、堂々と言い切る。


 いやオレ、中途半端なものでいいよ……王冠とか、紙製でもいいよ……『本日の主役』ってタスキかけてくれてもいいよ……


 それにしても……オレこれと白スーツ着て、ホスト看板で「今夜はキミがお姫様」とか決め顔で言うのか。


 …………はっず。


 ちょっと待って。なんかむずむずする。顔が熱くなってきた。

 ホス看ってそういうものと認識してたし、何回か出してもらったけど、なんか急に恥ずかしくなってきたぞ?


 ダメだオレ。正気に戻るな。


「えーと、伯爵、何しに来たの? ワインバーの打ち合わせ?」


 ガルナード伯爵、懐から招待状をばーんと突き出してくる。


「こんなふざけた招待状が届いたからに決まっておるだろう!」

「えー、みんな真面目に頑張って書いてくれたんだけど……」


 アマーリエが監修してくれてるから、形式も整っているはずだし。

 ちなみにオレは全部お任せしてるので読んでません。サインはした。


「何だこの生誕祭はともかく……復活祭とはどういうつもりか! こんなものを大々的にやって聖教本部が黙っていると思っておるのか!」

「どういうつもりって……えーと……ルカくん、バトンタッチ!」

「――はい! きっかけは、聖教内で聖王子派と聖女派に分裂し始めたことです。このままでは聖教が真っ二つに割れて、取り返しのつかないことになってしまいます。そこで、聖王子ユーリ様の御威光を世に示すため、祭りを執り行うこととなりました。これにて聖教は聖王子が本流となって未来永劫安泰です!」


 長セリフをめっちゃ堂々と言う。そんでもって……なんかめっちゃ不穏なこと言ってない?

 伯爵の顔、真っ赤になった。


「ばっかもーーん!!!! いまからでもいいから中止せい!! こんな真似、教義への反逆でしかない!!」

「でも、招待状1000通出しちゃったし……」

「貴様ら、何を考えているのだーー!!」


 絶叫が神殿を揺らす。そんなに怒ったら血圧上がっちゃうよ。


「復活祭? 聖王子派の威光? この者を『蘇った聖王子』として称え、神の奇跡を演出しようというのか?! そもそも聖教は復活を公式に認めとらんというのに……! これは冒涜だ!! 周囲はそう受け取る! 1000通の招待状に、王冠とマントが本物同然……それでただお祭りと申すか!!」


 やばい、完全に怒らせてるやつだ。

 でも、心配してくれてるのもわかる。

 アマーリエが慌てたように身を乗り出す。


「お、落ち着いてください、伯爵。ユーリ様は本当にご本人です! 奇跡のような経緯でしたが、神の導きが――わたくしたちがこの目で見たのですから!」

「貴様もだ、アマーリエ嬢!! なぜ止めぬ!? まさかとは思うが、聖王子の名を利用して、王位を狙っているのではあるまいな!?」


 アマーリエにまで火の粉が飛んだ瞬間、オレはさすがに口を挟んだ。


「ちょ、ちょっと待って! オレ、王位なんか欲しくねぇし、アマーリエもそんな腹黒くないから!」

「では、なぜ――このような王冠を被せ、陛下の式典服と同等のマントを着せるのだ!! 王を演じるつもりがないならば、なぜ王の記号で飾る!?」

「え……だって王子様っぽいから……」

「『っぽい』で王を騙るなあああああああああああ!!!!」


 でっかい雷が落ちた。

 アマーリエが隣でふっと小さく笑った気がしたけど、見なかったことにする。


「貴様! 私の忠告を聞いておらんかったのか! 教義を破る存在は異端とされると!! このままでは聖教から排斥されるぞ!!」

「でももう異端裁判はしてないんでしょ?」


 元異端審問官のダンさんが言ってた。


「世が世なら異端審問にかけられてるって話だけど、本当に神聖術を使えるオレを誰が裁くんだよ」


 伯爵、ちょっとたじろいでる。

 オレは神様扱いされたくないけど、火あぶりにされそうになるんだったら神様でもなんでも名乗るよ。死ぬ方が嫌。


 その時、部屋のドアがバァンと開いた。


「――うむ」


 やたら仰々しくシルヴァが入ってきかけて、また角が引っかかってる。おじぎするように角をくぐらせ、堂々と中に入ってくる。


「神の使いたる我が保障する。聖王子の魂に、一片の悪意も揺らぎもないことを」


 うおい、人間性のハードル上げんなシルヴァ!!


 オレだって悪いことも考えるし、サボったりするし、揺らぎまくってるんだ。


「――し、神獣だと……?」


 伯爵、ビビってる。そりゃ言葉をしゃべる銀色のでっかい鹿とか普通ビビるよな……


 そのタイミングを見計らって、アマーリエが再び毅然と前に出る。


「ここで中止や変更をすれば、それこそユーリ様が『正しくない』ことを証明してしまいます。ユーリ様は間違いなく復活されました。そのことを証明できるものは大勢います。神獣シルヴァ様も、聖女様も――」

「いやしかし、聖教では……」


 伯爵、めっちゃ押されてる。


「――皆様、誤解をされております」


 静かに声を響かせたのは、ルカくんだった。


「――ユーリ殿下は神の試練を超え、再びこの地に立たれたのです」


 ルカくん、拳を胸に当てて、真剣な顔で宣言する。

 なんかめっちゃ後光が見えてきた。


「魂は同じ、されど御姿も御言葉も、より輝きを増されて……これは、まさしく再臨です……! ……神により鍛えられた魂が、新たな使命をもって帰ってこられたのです! その際に記憶を失われたかもしれませんが、それもまた聖なる試練……!」


 ん……?

 つまり、別人みたいになって言葉遣いが変わったのも、記憶を失っているのも、神の試練によるものって言ってるのか?


「聖王子ユーリ様は、過去に囚われることなく、新しき聖王子として我らを導くために――いま、この地に再び降り立たれたのです!」


 ──感極まって、涙がぽろぽろ流れてる。


 いやいやそれ詭弁だろ。それで伯爵が納得するわけないだろ。

 オレ神様じゃないし、神に鍛えられたわけないし。


「なんと……そういうことだったのか……」


 納得してる――――?!


 なんなの? 甦って復活じゃなくて、再臨ならいいの……?


 えーっ……、宗教って、筋が通ってりゃなんでもいいの……?

 詭弁にしか聞こえないんだけど……神官のルカくんがそう言うなら、それでいいのか。


 つまりこれでオレの「記憶がない(本当は別人)問題」も筋が通るようになるわけ……?


 堂々と人に言えるのか?「死んで三日経ってから復活したから頭腐って記憶ないんですー☆」ってもう言わなくてもいいのか?


 なんかすげえな……宗教……


 オレはある意味感心しながら、アマーリエにこそっと声をかけた。


「ルカくんって何者なの……?」

「神学校をトップで卒業した、若手のエリートですわ」

「……は?」

「でなければ、ユーリ様の側付きにはなれません。未来の大司祭と期待されています」

「大司祭……? えーと、王様に冠かぶせる人だったっけ?」

「はい、それも務めの一つです」

「じゃあ神官長は?」

「教団をまとめる行政的な役職ですわ」


 ……なんか、ややっこしい。


「大司祭は儀式を司り、神官長は教団を取りまとめます。組織的には神官長の方が上ですが、実態はどちらが上ということはありません」


 ほへー、としか言えない。

 ルカくん、超エリートだったのか……大丈夫か、聖教。




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