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44 白馬の王子様、初日で限界





「いやほんと、神輿とかマジで無理。落とされそうだし! 恥ずかしいってレベルじゃない!」


 その時、クライヴがすっとルカの前に出る。


「――神輿より騎馬行進のほうが威厳があるかと」


 お前まで何言ってんの?!


「なるほど。ユーリ様が白い神馬に騎乗してパレードを!」

「そもそも馬に乗れねぇよ! 他人事だと思って好き勝手言いやがって……」


 その時、執務室のドアがバァンと開く。


「――話は聞かせてもらった」

「シルヴァ?!」


 うわっ。またドアノック無しで普通に入ってきた!!

 しかも角が引っかかってる!!


 シルヴァはおじぎするように頭を下げて、角の引っかりを外して部屋に入ってくる。

 そして、堂々と胸を張った。


「我が背に乗ればよい」


 ……は?


「いやいやいや、お前さ、人を乗せるタイプじゃないだろ? いやオレ一回乗せてもらったけど、あれは死にかけていた時だし」

「我は神の御使い。聖王子がその背に乗るは、必然にして当然」

「オレ、馬にも乗れないのに?」

「ならば我が尾で支えよう。安心せよ。しっぽは伸びる」

「やめろ! しっぽホールドとか前代未聞すぎる!!」


 なんか想像するだけで恥ずかしい。ふわふわ短め尻尾を伸ばすのも怖い。


「そもそもお前足細いし……あんまり無理させたくないんだよ」

「安心せよ。身体は鍛えられる。足が気になるのであれば熊のごとく。背が気になるのであれば獅子のごとく。尾が気になるのであれば蛇のごとく」

「それじゃキメラだよ!! そこまでしなくていいってば!!」


 このままじゃシルヴァが変形しかねない。


「普通に歩こう? な? みんなで。パレードってそういうやつだろ? な? 皆で歩いて、踊って、花とか撒いてさ。楽しそうじゃん?」


 平和平和。

 そこでアマーリエが口を開く。


「それですと視認性が……沿道からでもユーリ様の御姿が見られるようにするべきです。そうです。パレード用馬車を作りましょう!」

「重課金やめて?!」


 ただでさえ王冠とかマントとかスーツとか作ってもらってるのに、特注馬車とかマジでヤバイ。

 ここを治めるには……


「わかったわかった。オレが馬に乗るよ……」


 これが多分一番丸く収まる。

 オレが馬に乗れないことさえ目をつむれば。

 ……いや致命的な問題じゃね?


「クライヴ、いざって時は助けてくれよな」

「御意。我が命に代えても」

「いや、もっと軽く返してくれてもよくね?」

「では……任せてください、殿下」


 ……やっぱ重いな。なんかもう、決意が。



◆◆◆



 翌日、朝早くからクライヴに神殿の奥庭に連れていかれる。

 そこは厩舎になっていて、柵に囲われている中では馬が何匹もうろついていた。


「――殿下にパレードで乗っていただくのは、こちらの白馬となります」

「……でっっっっか!!」


 連れてこられた白馬を見て、思わず声が漏れた。

 いやいやいや、想像してたより何倍もでかいんだけど?!


 これ、オレほんとにまたがるの? 間違ってない? 騎士専用とかじゃないの?

 意思疎通とか乗って操るとかできそうにないんだけど?

 騎士とかみんな特殊能力者だろ? そうだろ?


 隣でクライヴが静かに言う。


「この子は大変賢いので、乗せた荷は落としません」

「いま荷物って言ったな?」


 ひくひくと馬の耳が揺れる。なんかごめん。


 近づいてみると、馬の顔がぐっとこちらに寄ってくる。

 思わず後ずさる。いや、こいつマジででかいな?! 顔を間近で見ると、なんか魂まで覗かれそうな気がする。


「てか目デカいな……睨まれてる? ……あ、違う、見つめられてる……ドキッとした……なにこの圧……」


 毛並みもつやっつやで、横顔なんかめっちゃイケメンだ。

 王子キャラ枠、完全に食われてる気がするんだけど?!

 もういいじゃん、こいつがユーリ王子で。オレ乗せなくてもこいつがパレードで歩くだけで観客拍手喝采だよ。オレいないこと気づかないよみんな。


「クライヴ。こいつの脚、筋肉やばくね?」


 後ろ脚から肩にかけてのライン、どう考えても人間の比じゃない。

 蹴られたらもう即死。


「撫でてあげてください」

「大丈夫? 失礼じゃない?」

「勿論です。馬は、人を見ていますから」


 ますます不安なんだけど?

 外見は聖王子でも中身はクズホストなんだけど?


 ――でもまあ、やるしかない。乗せていただく前に挨拶をするのは礼儀ってもんだよな。


 頭を撫でようと手を伸ばすと、ゆっくりと首を傾けてくる。


「うお……」


 なんだかそれだけで感動しながら、真っ白な毛並みをそっと撫でる。シルヴァを撫でる時と同じように。


 うわ……生きてる。生きてるよ……

 呼吸してる。体温がある。


「……いや、マジで、馬って生きてるんだな」


 動物って感じじゃない。

 なんか、尊い。器がでかいってたぶんこういうこと。


「この子、名前はあるの?」

「アルディアスと申します」

「ごつい……アルって呼ぶわ。よろしくな、アル」


 呼びかけると、なんかちょっと通じた気がした。

 オレは覚悟を決めて、馬の横に置かれた踏み台に足をかけ、クライヴの手や肩を借りる。


「……よいしょ、と……」


 ――うん、乗せていただきました。

 完全にお乗せいただく気分だ。

 馬の背に座った途端、その圧倒的な生命力とスケール感に呑まれて、なんか畏敬の念すら湧いてきた、けど……


「高っ……?!」


 馬の背にまたがった瞬間、思わず小声が漏れる。いや、想像の三倍は高い。

 これ、落ちたら絶対死ぬやつじゃん――!

 そんなオレの不安をよそに、白馬がゆるやかに歩き出す。


「やべ、動いた……?! え、止め方知らねえ!」


 思わず背筋がこわばる。

 その瞬間、後ろからクライヴがすっと手綱を引いて、馬がピタリと止まった。


「ご安心ください。私が手綱で歩かせますので、殿下は落ちないようにあぶみに足を乗せ、太ももで馬を挟んで身体を固定して、背筋を伸ばしてください」

「いや、簡単に言うけどなぁ……」


 ぶつぶつ言いながらも、言われた通りに足をあぶみにかけ、ぎゅっと太ももで馬の胴体を挟む。思ったより筋肉を使うし、背筋もビシッと伸ばさないとバランスが取れない。


「お上手です」


 クライヴが穏やかに声をかけてくる。

 その言葉にちょっとだけ自信が出てきて、もう一度、前を向いてみる。


「……いやマジで、これ慣れるの? みんなすげえな……」


 馬の背の高さと、そのゆるやかな揺れを感じながら、オレはそっと深呼吸した。

 その瞬間、ぽとっと後ろで何かが落ちた音がする。


 振り返ると、黒い落し物が芝生の上に落ちていた。


「……ちょ、いま歩きながら普通に落としたよ?!」

「生き物ですから」


 クライヴ、めっちゃ平然としている。

 え、いや、そーですよね……生き物だもんな。出すもん出すよな。

 ……いままで馬車に何回も乗ってたのに、気づいてなかったわ、オレ。


「パレード中の係も手配してあります。ご心配なく」


 つまり後ろで掃除係がスタンバイしてるってこと?

 煌びやかに乗馬している後ろで落し物拾い係が陰で頑張ってるってこと?


 ……世界って、深いな。

 そしてなんか急に、馬に親近感がわいてきた。


 しばらく柵の中をパカパカと歩いていると、高さも段々慣れてくる。


「……なあ、クライヴ。ケツが痛え……」

「姿勢が崩れています」

「知ってるよ!」


 弱音を吐いた瞬間口出ししてきやがって。

 その間も馬はパカパカとマイペースに進む。


「姿勢を崩すと体力を消耗します。胸を張って堂々としてください」


 ……こいつ、スパルタだな。

 それにしてもケツが鞍と当たって痛い。太ももも力が入らなくなってきてるし、足がつりそう。


「……これマジで騎士とか変態じゃね?」

「……………」


 クライヴの無言が突き刺さる。


「いやマジで、白馬の王子って拷問職じゃん……イメージ詐欺……」


 白馬の王子様ってなんか優雅に馬に乗って軽やかに笑って手振ってるイメージじゃん。

 無理。

 そんな余裕ない。笑顔も引きつる。


 ……でも、皆が求めてるのはそんなおとぎ話のイメージ通りの聖王子様なんだろうなぁ。


 ――無理。


「そろそろマジでケツが限界……休ませて……」

「ではまた午後に」


 こいつ、やっぱりドSだわ。







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― 新着の感想 ―
ユーリ殿下…馬は最初のうちは内股が擦れてエライことになるそうですよ。それこそお尻が痛くて「アッ──!」な疑いをかけられる恐れすらあるそうですよ。お尻は大切にしたいものですね(意味深)
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