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43 オレを担ぐな神輿で担ぐな






 普段の仕事の合間に、ホストクラブの計画を詰めていく。事業計画ってほどじゃないけど、計画を詰めておくのは大事。


 執務机で採用ホストの数を考えながら、いつも近くにいるクライヴに声をかけてみる。


「なあクライヴ。お前もホストやってみない?」

「ご命令でも拒否します」

「お前なら黙って座ってるだけでも売れるぜ?」


 いやホントはそんな簡単なものじゃないけど。

 ホストにはそのホストなりの営業方法がある。顔と雰囲気と第一王子の護衛ってだけでも売れるかも。

 寡黙な男が好きなタイプもいるしな。


「私の時間は殿下のためだけに存在します。他のことに費やすわけにはいきません」

「重っ……」


 この重さ、ちょっとやそっとじゃ揺らぎそうにないな。

 まあ、オレがホストクラブにいる時はこいつも一緒だし、勝手にセット売りしとこう。


 ――さて、ホストクラブの内装は基本的にはキャバクラと同じにするとして、もうちょっと設備を充実させたいな。


「なあクライヴ。チルチル呼んで」

「かしこまりました」


 クライヴが部下に声をかけて、数分後――伝令だけが戻ってくる。


「飲酒中で動けないそうです」

「酒クズ……もういい、オレが行く」


 何もかも放り出して執務室を出る。ちょうどいい休憩だ。

 チルチルの研究室は神殿の別棟にある。もし爆発でも起こしたら大変だから、と本人の希望だったが、オレは監視の目ができるだけ届かないところで集中したり酔っぱらったりゴロゴロしたいからだと思ってる。

 そして好きにしたらいいと思ってる。あいつはなんだかんだで天才だからな。


 研究室に入ると、まずは酒のにおい。

 そしてなんだか酸っぱいにおい。


 散らかりまくってカオスな薄暗い部屋の中、隅っこの方に布団だまりがある。

 その周辺には大量の空き瓶。

 ……ま、よくある光景だ。


「おーい、チルチル。起きろ」


 とりあえずドアのところから声をかける。下手に踏み込んでヤバいもん踏んだら困るからな。

 ちょっとだけ待つと、布団だまりがゆらっと動いた。


 そして中から、髪ぼさぼさの天才酒クズ魔道具師様が顔を出す。


「うぃ~、ひっく、なんのよう~~?」

「あー、チルチル。マイク作ってもらいたいんだけど、できる?」

「マイク?」

「それに話しかけたら、音がでっかくなって離れたところの機材から響き渡るやつ」

「ふーん。演説でもするのー?」

「ま、そんな感じ」


 コールしたり、イベントでMCしたり、ラストオーダー告げたり、色々。


「んー、たぶんできるよ。音系と共鳴系の素材が必要だから、あれとあれを合わせた魔道具をさらに連動させて――あとお酒~」

「さすがチルチル様。任せる」


 持つべきものは天才。



◆◆◆



 ――午後、また執務室でアマーリエと仕事をする。


「……アマーリエ、こう思うことはないか? 自動でサインできるような魔道具があったら便利だなって」

「思いません。サインする前に中身を精査していますから」

「ですよねぇ~」

「ユーリ様のサインする書類はわたくしがすべて事前に精査していますが、気になることがありましたら何でも聞いてくださいね」


 ンなこと言われても、何を聞いたらいいかもわかんねぇよ。

 オレは全部アマーリエに任せているからいいの。これでいいの。


 そうこうしているところに、神官ルカくんがやってくる。なんだか慌てた顔で。


「――殿下。このままでは、聖教内の派閥争いが大きくなっていくばかりです」

「どしたのいきなり」

「神殿内で、聖女派が増えていっているんです」

「へー」


 聖女はセブンツリーを出ていったのに、まだ勢力拡大してるのか。すげえなー、と完全に他人事のように思う。

 いやだって他人事だ。オレは聖教内で勢力を拡大するつもりなんて微塵もない。勝手にやってって感じ。


「ですので、ここは大きなイベントを開催して、ユーリ様の御威光を知らしめましょう!」


 ルカくんめっちゃやる気だな……


「イベントって、どんな?」

「そうですね……聖王子復活祭とかいかがでしょうか?!」

「冗談じゃねぇんだけど?」


 復活のお祝いなんて、完全に神事系イベントじゃん。なんだったっけ、イースター? あれそんな感じのイベントじゃなかった? ホスト関係にはまったくメジャーじゃないイベントだからあんまり覚えてないけど。


「そもそも復活してまだ一年も経ってないし」


 三か月ぐらいか? オレがこの世界で目を覚ましてから。

 なんかめちゃくちゃ濃かった気がするけど、たぶんそんぐらい。


「時間なんて関係ありません! 皆の心がひとつになるような――奇跡の夜を演出しましょう!」


 演出って言ったないま……それもう宗教じゃなくてプロダクションだろ。


「誕生祭ではダメなのですか? ユーリ様のお誕生日がもうすぐですし」


 アマーリエが言う。

 誕生日をイベント化して街を上げて大々的に祝われるのも嫌だなぁ。クラブ内のイベントならともかく。


「それでは奇跡感が薄れます!」


 ルカくん、もう完全にプロデューサー目線だよ。


「んじゃ、遅れてごめんね復活祭&誕生祭でいいんじゃね? 簡単にさ」


 もうどうでもいいんじゃね?


 正直、街を発展させるのはともかく、オレ自身を神格化させるとか冗談じゃない。担ぎ上げられるのはごめんだ。だからルカくんが満足するぐらいで簡単に済ませておきたい。


「とても素晴らしいご提案です!」


 ルカくん、すごく乗り気。


「んじゃ、一週間後ぐらいにやるか――」

「だめです!」


 アマーリエが勢いよく割り込んでくる。


「せめて三週間はいただかないと。招待状を二週間前には各所に届くようにしなければなりませんし、千通の作成にかかる時間を考えると――」

「千通……ってマジかよ」

「ユーリ様主催の、生誕祭と復活祭です。王族、貴族、教団、友好商人、各地の代表……あらゆる関係各所に通知せねばなりません」


 なんかオレの想定しているパーティーと違うんだけど?

 関係者を神殿の一室に集めて、ケーキ食べて料理食べて、酒飲んで歌って踊ってシャンパンタワーして、そういうイベントじゃないの?


 ……てかオレ、自分で自分の誕生日パーティー主催するの?


「できたら一か月はいただきたいです。王冠の作成にそれぐらい時間がかかりますので。クライヴ、警備計画の方は一か月あれば整いますか?」

「――承知しました」


 オレは内心冷や汗をかく。

 なんだかめっちゃ大掛かりになってきてない?


「いや、いいの? 復活祭ってそんな大々的にやって……聖教的には死者復活ってタブーなんだろ?」

「だからこそです。ユーリ様が復活されたのは紛れもない事実なのですから」


 アマーリエの言葉に、ルカくんもうんうんと頷いている。


「そうです、ユーリ殿下は神なのですから!」

「神じゃねぇって」

「ですが、教義では……」

「ややこしいな宗教……何でもかんでも教義に当てはめようとせずに、目の前のことを信じろよ……」

「た、確かに……さすがユーリ殿下。僕はユーリ殿下だけを信じてついていきます」

「いやもう……お前がそう思うならそれでいいや……」


 なんだか疲れる。

 アマーリエが満足そうに微笑んでいた。


「これは試金石にもなるのです。不参加の方ももちろんいるでしょう。ですが参加者が増えれば増えるほど、ユーリ様の御威光が広まるのです。大変盛り上がりそうですね」


 ……なんか、気軽にオーケーしたイベントが一大宗教行事、国家行事みたいになってきてるぞ……

 だから、あんまり担ぎ上げられるのは嫌なんだけど?


 でもいまさらやめるとも言えない。


「じゃあ、一か月後で……いっそ、ホストクラブのオープン記念イベントも一緒にやろうぜ。何もかも合わせてめでたいめでたいってな」

「そうなればオープニングはパレードですね!」


 ルカくんのプロデューサー化が止まらない。なんだってこんなに熱いんだ?


「どんなパレードにいたしましょう。ユーリ殿下の御威光が大陸の端々にまで届くような素晴らしいものにしたいですね……」

「あんまり人を担ぎ上げるなって……」

「素晴らしい! 神輿を作って屈強な神官たちで担ぎましょう。もちろん上にはユーリ様が!」

「絶対ヤダ! マジで担ぎ上げようとするな!」


 お前ら、人を何だと思ってんの?





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