40 オレ、これから尋問されるみたいです
「ほう? 拒否権があると思ってるのか? 異端審問はな、泣いても笑っても始まる時は始まるんだよ。おい、椅子を用意してくれ」
おい、クライヴ。なんでそれっぽい椅子を用意してくるんだよ。足四本あって安定してそうな背もたれがあって固い椅子!
「いやいやいや、絶対ろくなことにならないやつだろそれ! オレ王子だから、そういうのNGなんで!」
「王子様だろうが誰だろうが、ここじゃただの容疑者だ」
「冗談じゃない!! アマーリエ~! クライヴ~! ダンさんが拷問しようとしてくる~!! てかなんでオレが実践されるの?! 納得いかねぇ!」
「身体で覚えるのが一番だからな」
「ヤダ!!!! 本気でヤダ!!!!」
ダンさん、クライヴから椅子を預かって壁際に置く。
「逃げんな。ほら、座れ」
「絶対ロクな目に遭わねぇってー!」
座らされ、足を椅子の足に縛られ、手を後ろで縛られる。前には簡易な机を置かれる。
これ、あれだろ?
尋問官の機嫌損ねると蹴られて腹に机が食い込むやつ。
オレ、王子様だよな?
自信なくなってきたぞ……
「いいか、尋問ってのは心理戦だ。話す前に、嘘ついても無駄って思わせるのがコツだ」
「まずは相手の左右を壁と仲間で固める。ドアは鍵かけとけ。水とパンは用意しても好きな時には飲ませない」
クライヴが無言でドアの前に立つ。
「包囲網じゃん!!」
その時ドアが開き、いつの間にか外に出ていたアマーリエがティーセットのワゴンを押して入ってきた。
「ユーリ様、現実からは逃げられませんよ?」
クライヴ、今度はドアに鍵をかける。
……え、何この状況。
「大丈夫だ。命まで取らん。せいぜい心臓がちょっともふもふになるだけだ」
「そのもふもふワード、全然安心できねぇ!!」
ダンさんは楽しそうにしながら、オレの前の机にダミーガラス瓶を置いた。
「――それじゃ、これがお前のものだと仮定する。お前はこれが自分のものだが、それを認めるわけにはいかない……わかったな?」
「……はい」
オレ、完全に尋問中です。される側です。
「まず、黙って睨む。無理に質問するな。相手が沈黙したら、こっちも何も言うな。沈黙の圧力だ」
ちょっ、視線の圧が強い。
思わず目を逸らす。
「いま何を考えている?」
声、低っ。怖っ。
「……ダンさんの圧が怖い」
「脅してるんだよ」
脅されてます。はい。効果抜群です。
ダンさん、指先でダミーガラス瓶をつつく。
「見覚えがあるだろ?」
もちろんあるけど、ないことにしないといけないんだよな。
知りませんって言わなきゃいけないのに、めっちゃ言いにくい。喉の奥が重い。
「……知りません」
そう絞り出すのがやっとだ。
「本当に知らないのか?」
「…………」
「……俺だって、お前を苦しめたいわけじゃない。俺はお前の味方だ。いま認めれば、罪も軽くなる」
ンなこと言われても。
「……誰かを守ってるのか?」
え、なんか急に声と目が優しくなった?
……ダンさん、本当にオレの味方なのかも。だってそうじゃなきゃこんなこと付き合ってくれないだろうし。
――って何ほだされかけてんの?!
怖っっ!!
「――ユーリ。お前がこの瓶を持っていた理由、説明してもらおうか」
「いや、偶然拾っただけっス……!」
あ、言っちゃった?
知らないことにしておかないといけないのに、自白してねぇ?
「偶然? 教会には神官が大勢いた。その中でなぜお前のポケットに?」
「……いやだから偶然……!」
「ちなみに、お前が一番好きなケーキは?」
「バスクチーズケーキ……」
……何普通に答えてんの、オレ。
いや答えやすい質問だったからさぁ!!
オレの心のガード、もうガバガバじゃね?
その時、アマーリエが用意している紅茶のいい匂いが漂う。
――あ、ケーキもある。さすがにバスクチーズケーキじゃないけど。美味しそう。
「正直に話したら、食べていい」
「わーっ! なんなんだよこの時間!!」
オレ、何を吐かされようとしてるの?!
「お前の夢は?」
「ホストクラブ作ること……」
正直に答えると、初めてダンさんの表情がちょっと変わった。
「なんだそれは」
「この前行ったキャバクラの男女逆バージョン。男が客の女性をもてなすとこ」
「……女がわざわざ男のところに金を払いに来るって? 馬鹿な」
「需要ありそうじゃない? オレとサシで話せるとかさ」
「いや、お前と話せるならそりゃ需要はあるだろうが……」
だろ? オレって最強の客引きパンダなんだよ。
パンダじゃ終わらねーけどな。
「弟のレオニスくんとオレがセットで接客しまーすとか言ったら、お嬢様方ドッキドキじゃない?」
「王子二人って……間違いなく行列になるだろうな」
そのスペシャルデーの入場券はオークション制な。
「ダンさんもどう? 意外と需要あるかもよ?」
「馬鹿言うな」
「そんなの、やってみないとわかんないでしょ? たとえばダンさんの人生相談席とか、異端審問バーとか……」
「……お前と話してると、調子が狂うな……」
手足のロープがほどかれる。
ん? これで終わり?
……まあ、学びの多い時間だったな。
「やっぱり素直な子は尋問しがいがないな」
素直バンザイ。
尋問タイムが終わり紅茶とケーキのティータイムがなごやかに始まる。
ケーキうめえ……甘いもの最高……尋問されるって、めっちゃストレスなんだな。
「センパイ、尋問のプロとして何か一言」
「尋問のプロは、やっていないことを認めさせる」
「それ冤罪!! アウト!!」
「自分で自分を疑い始めた瞬間が勝負だ。人間の記憶なんて曖昧なものなんだよ」
「レッドカード! 退場!!」




