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31/55

31 始まり。そして終わり。





 キャバクラ《ミラージュ》初日営業、最後のお客様を送り出して、無事終了。


 裏口の扉を開けると、夜明けの風が気持ちよかった。

 空が白み始めていている。


 あー、楽しかった。

 なんていうか、ほんと、いい夜だった。


 タバコでも吸いたい気分だ。

 けど、異世界にはまだそんな文化がない。シーシャもない。残念。


 ちなみに、酔いつぶれた第二王子レオニスは、ちゃんと護衛たちが高級ホテルまで送り届けてくれた。

 護衛たち自身もそれなりに飲んでたが、まあ大丈夫だろ。セブンツリーは治安がいいからな。


 路地の交差することごとに警備の詰め所も設置している。名前は交番。わかりやすいだろ?


 とりあえず建築資材の借りは返したので満足だ。


 そしてオレは、後ろにいるクライヴの方を向く。


「どうだ? ちょっとはオレのこと認めたか?」


 オレが前ユーリ様ではないことを確信している唯一の男。


 なのにずっとオレを守り続けている男。

 理不尽な命令にも耐えて、オレの無茶を見届け続けている男。


 いまこいつは何を考えてるんだろうな。

 この歓楽都市セブンツリーを、どんな思いで見てるんだろ。


「――あなたは、殿下ではない。それは、私が一番よくわかっている」


 かたーい。

 やっぱりこいつ、チョロくねーなぁ。


 あーでも、前はもっと殺気立ってたな。まあ葬式からの復活直後だったしな。最初はすげー重苦しい感じだったよな。それを思えば随分と――……


「だが……あなたを見ていると、思うことがある。殿下が……あなたに、この国の未来を託したのではないかと」

「…………は?」


 目が合う。

 その表情は驚くぐらい真剣で、こいつのすべてが詰まっているぐらいのレベルで。


「――だから私は、『殿下の願い』をお守りする」


 まっすぐだ。

 あまりにも。


 どうしてオレの周りには、こんなにまっすぐなやつばっかりなんだろうな。


 なんでか、笑いたくなった。嬉しいんだか、苦しいんだか、よくわからない。

 ああ、そうだよ。嬉しいよ。


 クライヴは前ユーリ様とオレを完全に別物としてみている。忠誠は前ユーリ様に残している。そのうえで、ここにいるオレを認めている。


 ――なるほど。これがこいつなりの答えってわけか。


「めんどくせーやつだなぁ。オレのこと好きなら好きって言えばいいだろ」


 ――お、表情がちょっと変わった気がする。図星か。


「ま、お前自身が納得してるならいーよ。これからも守ってくれよ」

「……承知しました」


 ……ありがとな。

 オレ、誰かの助けがなけりゃ何もできねーし、誰かに守ってもらわなきゃこの世界で生きていけないし。

 でも、やりたいことをあきらめるつもりもないんだ。


 だからまあ、覚悟しておいてくれ。


 ――さて。


「……次は、ホストクラブだな」


 そう決めて、明けていく空を――そこに輝く星を見上げていると――どこかから、声が聞こえてきた。


「ユーリくん……ジュリア、きちゃったぁ……!」



 ――第一部、完!!



 って終わってねえ!

 どーする、どーすんだよオレ!


 なんかめちゃくちゃ聞きたくない台詞聞こえたんだけど?!

 聞きたくない名前聞こえちゃったんだけど?!


 意を決してぎこちなく振り返えると、そこには手を振りながらこちらへ走ってくる白い衣の女。


「なあ、クライヴ、あれって――」

「……聖女様です」


 クライヴが無慈悲なことを言う。


 どーすんの。どーすんのよオレ!!


 聖女ジュリア?! マジ?! あの樹利亜と同じ名前の、前ユーリ王子に好意を示していた聖女?!


 えーと、とりあえず「ホストのユーリくん」の対応しちゃだめだ。だからって「聖王子ユーリ様」の対応もわかんねぇ。


 その間にも、聖女ジュリアが近づいてくる。なんだか神官の一団を引き連れて。何お前ら。夜通し歩いてセブンツリーにまで来たの?!


 パニックになってるオレの前に、すっとクライヴが出てくる。


「――お客様、申し訳ございませんが、クラブ『ミラージュ』は本日の営業を終了しています。またのお越しをお待ちしております」


 おお、営業風。聖女を聖女としないでただのお客様扱い。でもなんかめっちゃ圧がある。


「……やだ、やだやだやだっ。やっと会えたのに……!」


 目元にいっぱい涙をためて、瞳をうるうるさせながらオレを見てくる。


「ユーリくん、ずっと待ってたのに……ジュリアのこと、嫌いになっちゃったの……?」


 なんだよそのどう答えても地雷踏みそうな質問。

 下手に流すこともできねぇじゃん。


 ――つーかお前、マジで樹利亜なの? 自分のこと名前で呼ぶとこマジ樹利亜。

 ――なわけねーよなぁ。異世界に転生して、同じ名前で活動してるなんて、しかも聖女とか笑える――笑えねえよ。オレも同じ名前で聖王子だよ。


 その時――


「ジュリア様、ご機嫌麗しく。本日は公式なご訪問ではないようですね?」


 出てきたのはアマーリエだった。

 しかもめちゃくちゃ頼もしい。


「王子の婚約者として申し上げます。……お引き取りを」


 ――ん? わざわざ婚約者とか言うの、正妻ムーブ? 何かの牽制?


「アマーリエちゃん! やっぱり、ユーリくん復活したでしょ? ジュリアの言ったとおりだったでしょ?」


 は? 何お前、オレが復活するの予言してたの?

 中身変わってるけど?


「ジュリアのこと、忘れちゃってるみたいだけどぉ……すぐに思い出すよぉ。だいじょうぶ。これからジュリアが毎日癒してあげるから」


 勝手に怖いこと言うなよ。お前がいたら癒されるどころか逆効果だよ。頼むからこのまま回れ右して帰ってくれよ。オレお前のこと忘れるから、お前もオレのこと忘れてくれ。


「――聖女様、審査官はひとつの都市に長く滞在せず、という決まりがあります」


 審査官?

 ああ、王位継承戦の票を握っているやつらだったっけ。

 五人いて、国王、王妃、聖女、宰相、神官長だったはず。


 そいつらは長期間一つの都市に滞在できないだと……?

 なんていいルールだ。神!


「むー、なら、『審査官』として少しの間ここにいるのはいいんでしょう?」


 ダメです。

 ああくそ、頭が回らねぇよ。とりあえず逃げよう。そーっと、そーーっと。


 そっと場を離れようとしたオレの腕に、聖女ジュリアが抱き着いてくる。


「ところでぇ、なんでユーリくん、黒服の格好してるの? ホストじゃないのぉ? ユーリくんの白スーツ、ジュリアすっごい好きなのに。いまのユーリくんでもきっとすっごく似合うよぉ」


 腕に手を絡ませながら、見上げてくる。

 全部わかってるんだよ、と言わんばかりの目で。


「それにしても、この都市を全部歓楽街にするって……ほんとに、ユーリくんらしいね!」


 ――ああ、やっぱり。


 こいつは樹利亜だ。

 オレを刺して、ネオン街に消えていった、オレの姫(客)。




 ――第一部、完。





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