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16 ここ撫でられるのが好きなんだろ?






 銀鹿シルヴァの背に揺られていたオレは、やがて見覚えのある人影を見つけた。


「――殿下!」


 血相を変えたクライヴが駆け寄ってくる。


「おー、クライヴ。水ある?」


 まずはそれが先。オレの喉はもうカラッカラだ。


 駆け寄ってきたクライヴが即座に水筒を差し出し、オレはそれを受け取ってごくごく飲む。

 うまっ。常温なのに天国の味。


「ご無事で……よかった……」


 低く押し殺した声が、重い。

 なんかめっちゃ顔が暗いな。そりゃ、護衛対象が森の中で迷子になったら責任感じるか。


「殿下を危険にさらすなど、私の不徳の致すところ。いかなる罰も受けましょう」

「ちょ、重い重い」

「しかし私は、一度ならず二度までも……」


 そういや前ユーリ王子、毒殺されてんだよな。

 こいつ、気に病んでるのか。そりゃそうだよな。


「いやさぁ、なんかきれいな蝶がいた気がしてさ。ちょっと追いかけたら迷子になってたわ。森って怖いな。つーことでオレが悪いの。責任感じるなよ」

「違う。我が呼んだのだ」


 シルヴァが話し出すと、その場にいた全員がぴくりと反応した。クライヴも目を見開いている。


「あ? そうだったのか、シルヴァ」

「うむ。我が声に応えるものをずっと呼んでいた」

「なるほどねー。つーことで、お前らに責任はなし! 神様がオレを召喚しただけだから」


 屈強な男連中も、さすがに動揺してるな。オレも聖人男子が行方不明になってなんか神々しい鹿に乗って帰ってきたら驚くわ。

 オレが逆の立場でも、たぶん何かのイベントが始まったと思う。


「クライヴ、おろして」

「――はい」


 クライヴに下ろしてもらって地面に立つ。

 そのまま森を歩いて伐採予定地まで戻った。正直、すぐそこだった。

 作業は途中で止まっていた。どうやら王子様が行方不明になって、みんなで捜索していたらしい。悪いね、ほんと。


「んじゃ、伐採再開な。早く終わらせて帰ろうぜ――って、シルヴァ、いいか?」


 いちおうお伺いを立てておく。シルヴァはここに住む神様だしな。


「構わぬ。またすぐに再生する。切られることでまた新たな始まりを迎えるのだ」

「ふーん、そういうわけみたいだからじゃんじゃん切っちゃって」


 そうしてどんどん木が切り倒されていって、整然と並んでいく。


「さーてと」


 オレは伐採された場所に神聖術をかけてみる。

 ぱあっと周囲に光が満ちて、切り株から枝がすくすく伸びたり、新しい芽が生えて育っていったりして、あっという間に若い森の姿を取り戻す。


「成功成功」


 これでまたすぐ育った木材が手に入るってわけ。オレ天才じゃね?


「おっけー、とりあえず木材ゲットだな」


 オレは笑いながら伐採された木の方にいく。

 これの枝を落として一年かけて乾燥させるらしい。

 気が長い話だぜ。木だけに。ってやかましいわ。


 さて今度はこれをセブンツリーまで運ぶわけだが。


「なあシルヴァ。この木、家を建てるのにいいぐらいに乾かしてもらうことってできる?」


 オレの隣から離れないシルヴァに聞いてみる。

 そうしたらすぐ使えるし、水分が抜けたら軽くなって運びやすくなるし。

 地下水脈移動させられるぐらいの神様ならそれぐらいできそう。


「代償が必要だ」

「わかってるってー」


 オレは自然に手を伸ばし、シルヴァの背中を撫でる。ふわふわであったかい。まじ癒し。ついでに首の下も撫でてやる。


「……よい。もっとだ……そのあたりが……ん……」


 猫みたいだな。可愛いやつ。飼いたいな。

 鹿って何食べるんだ? その辺の草でいいのか?


 そんなことを考えているうちに、木材からふわりと香ばしい匂いが漂ってきた。木肌を撫でると、ほんのりと温かい。

 完全に乾いてる。すげぇ。


「いい香り……ヒノキ風呂みてぇ」


 これで風呂作ったらどれだけ癒されるだろう。


「名前つけて売り出したいな……ユーリウッドとか」


 おー、なんか高貴な名前じゃね?


 響きだけで三割増しの高級感。やっぱり、名前って大事だよな。



◆◆◆



 セブンツリーに戻ったオレは、シルヴァといっしょに神殿に入る。


「アマーリエ、動物飼っていい?! 喋る銀の鹿!!」


 出迎えに来てくれていたアマーリエは、しばし絶句していた。


「ユーリ様、そちらは神獣では……」

「なんか懐かれちゃってさぁ。撫でたらついてきた。名前はシルヴァだってさ」


 アマーリエはこめかみに手を当て、長く深いため息をついた。


「…………ユーリ様、それはきっと神の使いです」

「だよな~。でもオレといたいって言うからさ、うちのペットってことで」

「………………はあぁ……」


 シルヴァの首の下を撫でる。うーん、もふもふ。


「ところで、水問題はどうなっている?」


 アマーリエははっと息を呑み、真剣な顔になった。


「そ、それなんですが、井戸から綺麗な水がたくさん湧いてくるようになりまして……」

「水問題、解決しそう?」

「はい」

「よかったよかった」


 シルヴァの背中をよく撫でてやる。やっぱりすごいな神様。


「ユーリ様、もしかして……ユーリ様のお力ですか?」

「んー? オレは何もしてねーよ。こいつのおかげ」


 耳の付け根をくすぐるように撫でてやると、気持ちよさそうにうっとりと目を細める。

 これからもよろしくなー。




 そんなこんなで水問題と建築資材問題は解決した。

 水と木材に金を回さなくていいので、食料問題も解決しそう。


 とりあえず農業もしようぜ。あと花な。歓楽街に花は必須だ。店飾るのにも、贈り物用に用意しておくのにもな。


 しかも日を追うごとに寄付も増えてきた。神聖術で奇跡的に治療された人たちからのお礼らしい。


 そうして、セブンツリーは――急速に都市としての形を整えはじめた。


 道路が整備され、商店が立ち並び、宿屋が増えていく。そして……オレが本当に作りたかった娯楽施設たちも、ひとつずつ、現実になっていく。


 この調子なら、夜の店も――そう、キャバクラだって、夢じゃない。


 オレは膝でくつろぐシルヴァを撫でながら、ニヤリと笑った。


「――始まるぜ。聖なるエンタメ都市、セブンツリーの伝説が……!」





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