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14 建築資材が足りない?とりあえず木を切ってくるわ






 ――数日後。


 オレの執務室に、アマーリエが真剣な顔でやってきた。


「ユーリ様、問題が発生しました」

「またぁ? 今度は何」


 移住者問題はアマーリエの奮闘で一応落ち着いている。

 水問題とか食料問題とか、まだ根本的な解決はしてないけど。


 治療希望者も初日以降は人数が減っているので、何とかなっている。

 嵐の前の静けさってやつだな。


「――建築資材の価格が高騰し、納入に遅れも出ています。木材に石材……木材は特に深刻です。このままでは都市再開発に多大な遅れが出ます」


 本当に嵐が来た。


「なんでそうなったの? 原因は?」


 アマーリエならあらかじめ建築用の資材の発注とかはしてるはずだ。なんかそういうこと言ってた気がする。


 なのになんで入ってこなくなるの?

 契約不履行? なんかの災害で入ってこなくなった?


「レオニス殿下の再開発なさっている軍事都市からの発注が影響しているようです」


 ――レオニス殿下?

 ああ、第二王子か。ユーリ王子の弟王子。


 軍事都市なんて作るぐらいだから、正義感の強い真面目な軍人系か?


「レオニス殿下は、軍事貴族の多くが支持しています。献金に熱心な方々が多いので、このような手段も取れるのでしょう」

「まー札束で顔叩かれたら、商人もそっちに売るわな」


 需要より供給が少なければ、当然値段は上がる。どうしても欲しければ、高い値段を払うしかない。


 契約はとっくに結んでるはずだけど、この世界、商取引のルールはまだ未熟なのか?


「ふぅーん……弟くんにケンカ売られたか……」


 そうだな。これは王位継承戦。王様レース。つまりは戦争だ。

 正々堂々勝負ってのはあり得ない。妨害工作も、暗殺もあり。前ユーリ様だって暗殺された疑惑がある。


 なら、こっちも手加減する理由はないよな。


「……とりあえず、発注は取り下げんな。適正価格で発注したまま、市場の高値を維持しろ」


 そうしておけば、弟くんの予算はじわじわ削られていくし、一般市民の不満は軍事都市の方に向く。


 国民に文句言われ続けたら、さすがに弟くん陣営にもプレッシャーになるだろ。


 それに、弟くんの都市再開発コンセプトは軍事都市。都市自体は金を生み出さない。どう考えても。国を守るには必要なんだろうけど。


 出費がかさめば、そのうち立ちいかなくなる

いまは献金があっても、いつまでもは続かねえだろ。


 そうすればこっちに資材が回ってくる。

 けどまあ、すぐには無理だろうな。長期戦になる。


 とりあえずいまは短期的な問題を解決しよう。

 つまり、水がない、食料がない、建築資材がないという三重苦を解決……


 ……どーしろって?

 無理じゃね? 詰んでね?


「水問題さぁ……井戸を増やせねーの……?」


 なんとこの街、水道がない。井戸水でまかなっている。近くに川もない。なので水分の多くはワインでまかなっている。これはなかなか美味い。


「この地域は地下水脈が深く、掘るだけで一ヶ月はかかります……以前に、無理に掘って地盤が崩れたことがあり、いまでは北区の半分が立入禁止区域になっています」


 下手に掘れないってことか。


 ……雨乞いでもするか?


 ――詰んでる。マジで詰んでる。


「――そうだ! チルチル、チルチルを呼んでこい! 魔道具で水作れないか確認しろ!」


 助けてドラ⚪️もん!

 ひねったらどこからともなく水がジャカジャカ出る蛇口作って!


「できるのはできるけどぉ」


 うおー、オレの机の下にいた! 気づかなかった!

 ワイン飲んでる!


「空気中の水分を取り出すだけだから、そんなに量はできないよぉ。一個で一日カップ一杯くらいかな」

「全然足りねえ!」

「味はいいよぉ。純度100%だから。調合にも水割りにも最適」

「わかったわかった。とりあえずそれ作っといて。オレは近くの森に木を切りにいってくるわ」


 逃げてるんじゃないから。

 現実的なところから始めるだけだから。木材問題の解決から。


 オレが買った奴隷の中にも肉体派が多いからな。

 特に元傷病兵とかには、戦場工作兵もいた。つまり戦場の大工さん。木を切るのも得意だろ、たぶん。


「切ったとしてもすぐには使えません。一年は乾燥させないと……」


 そういうもん?

 ふーん、知らなかった。


「なら、いま動くのが一番早いだろ? それに、薪にもなるだろーし」


 なんとこの世界、主燃料はガスでも石油でも太陽光でもなく、薪である。

 キャンプで使うあれ。あれで煮炊きしている。


 木を切れば薪も手に入る。一石二鳥だよな。

 さて行くか、王子様は山へ柴刈りに。



◆◆◆



 木こり部隊、結成――ってノリで来たけど。


 ――はい。いま、オレ、迷子です。


 この森、子どもでも安全って言われたんだが?

 安全って、何?

 何がどうしてこうなった?


 いつも背後にいるクライヴどこ行った?!


「クライヴーー!! 助けてーー!!」


 返事がない。ただの迷子のようだ。


 GPS、GPSはないのか? あるわけねえ!!

 助けてグー●ルマップ!! あったらいいね!!


 そもそもなんでこうなったんだ。

 屈強な男連中引き連れて近くの森に来ただけなのに。

 適当によさそうな木、切ってただけなのに。


 なんか出発前に村の長老みたいなジイさんに、「あの森は神域の森……近づくではないぞ」とか昔のRPGのNPCみたいなこと言われたけど、まさかこんなに早くフラグ回収するか?


 道がわからん。てか道がない。全部木。どこを見ても木。緑。森。自然。


 いや、自然て……なんでこんなに怖いんだ?

 めちゃくちゃ静かで、雰囲気が重い。なんか飲まれそう。


 自然を守ろうなんて人間の思い上がりだわ。オレいま自然に殺されようとしてる。


 文明が恋しい。アマーリエの作った書類の束でさえ、いまなら優しく抱きしめられる。


 大自然の中でサバイブは現代っ子にはさすがにきつい。

 あー、やばい。オレまた死ぬのか。

 ふざけんなファンタジー。誰かオレを迎えに来てくれー。


 ――その時、空気の感じが変わる。

 耳が痛くなるほどの静寂を踏みしめるように、木々の向こうから、それは現れた。


 銀色に輝く、美しい鹿が。





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