真顔のお父さんは真剣な顔をして冗談を言ってきます
『私、ダリアはアラファト貴族魔法学園で第一王子の「平穏」で「安全」な暮らしを提供するため、いざ出陣(入学)致します。』
時を遡って1年前。私は平民として父と暮らしていた。お父さんはレギス・フロエス。毎日、太陽が昇る前に畑に出ていき、月が出る頃に新鮮な野菜を持ち帰り、料理を作ってくれる。畑仕事で一日中、外出する必要があるのか正直不思議だったが、稼ぎに出かけてくれることは感謝だった。髪は私と同じ黒髪で顔は整っており、多分平民一のイケメン、いや貴族の中でもイケメンと賞賛される顔であると言っても過言ではないのだが、表情差分が乏しく真顔なため、娘の私ですら何を考えているのか不明なのである。
コンコン。ドアのノック音が聞こえる。お父さんだ。
「ダリア、おはよう。部屋に入ってもいいかい?」
じゃあ、私はどんな奴か、だって⁇うーんと。ダリア・フロエス。黒髪で青い目。髪は常日頃ボサボサで、お前は女子力を磨きなさいと父に指摘されてます(笑)普段家で本を読み漁り、たまに部屋の掃除をして、また本を読むだけ。つまり本が恋人として一日中過ごしているのも同然だった。本から溢れる自分が知らなかった考え方や世界線が私にとっては宝石。特に偉大なる大魔女5人の話は何十回も読み返すほど大好き。私も魔女のように魔法が扱えたらなーって思ったこともたくさんあったけど、そもそも魔法は貴族しか持っていないから平民の私にとっては夢のような話。
それに加えて魔女のように膨大な魔力を持つ人間はごく僅かなので、ただ憧れの存在というだけだった。とにかく本が好きだから家を出ることはほとんど出たことないかも。
眠気に葛藤しながら私は答える。
「お父さん、おは、よ。うん。いいよ。」
母はというと、正直あまりその話はわからない。いや、分からないというか記憶が消えかけている。昔は鮮明に母のことも覚えていたのに、母の行方すら忘れてしまった。父に聞こうと思ったこともあったが、母の話題を出すと普段真顔の父が唯一落ち込んだような表情になるため、なかなかしっかり話すことはできない。
でも、私は母との思い出、一つだけ覚えてる。それは母の膝に頭をのせて、母の歌声を聞いていたピクニックの日。母の歌声はいつも優しくて綺麗だった。あの歌声は今も耳に残っていて歌詞も思い出せる。でも、どの本にも載ってない歌詞だったから、曲名はわからないのだけど。昔は父と母と私の3人で天気のいい日に森の中でピクニックしてたなぁと、私の中に残る幸せな思い出だった。
平民だけど、普通に家にいることは幸せだったし、家族もいたし、不便もなかったからこの生活が変わることは別に望みもしなかった。
そして、今日10歳の誕生日を迎えた私の体には異変が起きていた。妙な感覚がはしる。身体中に何かが回っているような、初めての感覚。お父さんが部屋に来たから、体を起こそうとすると激痛がはしった。
「いったい!?」
「大丈夫か!?ダリア!?」
私の痛みによる叫び声にお父さんは勢いよく扉を開け駆け込んできた。珍しく真顔な人間が心配そうにこちらを見てきた。真顔以外の表情差分があることにまず驚いた。お父さんは焦っていたが私をみた瞬間、いつもの顔に戻ってしまった。
「あぁ…ダリア。やっぱりお前はミランダと同じ血を引き継いだんだな」
「突然どうしたの?ミランダ…って、お母さんと…?」
「そうだ。ほら鏡を見てみなさい。」
お父さんは私の部屋にある全身鏡に指を指す。お父さんいつもと様子が違うから、どうしたんだろうと、鏡に映る自分の姿を確認すると私は開いた口が閉じなくなってしまった。
「え…髪先が青色に染まってる…?」
私は黒髪だった。それなのにグラデーションのように黒から青へと一部色が染まってしまっていた。私は髪を染めた覚えなんてない。
どういうことだ。確かに私のお母さんは白髪で毛先が青かった…気がする。記憶が薄れてきてるけど。でもいきなり私もお母さんのように髪色が変化するなんて信じられない。
「突然驚いただろう…これはダリアには隠していたんだが、ミランダが言っていたんだ。『ダリアは10歳の誕生日に第五魔女の中の1人、音の魔女になるだろう』と。」
「何言ってるの、父さん?私たち平民だよ?貴族の血も引いてないから魔法も使えないんだよ?何いきなり冗談言ってるの?!」
「冗談じゃない、真面目だ。至って真面目だ。見ろこの顔を。」
「いやいつも通りの真顔のイケメンですけど、普段との表情の違いがわからないよ?!」
あたふたしながら、お父さんを見る。いつものように真顔すぎる。
「ちょ、ちょっと待って!お父さんは普通の農家でしょ?毎日作業着泥だらけで家に帰ってくるじゃん。」
「ごめん、嘘ついてた。農家は嘘だり俺は『野菜作り』の『や』の字すらわからない。なんなら、花壇に植えた花だって1日で枯らしてしまうほどなんだ!だから、家に持ち帰ってきてた野菜は全部他の農家が育てた新鮮な野菜を俺が買い取って持ち帰ってきていただけだ。作業着は毎回近くの沼に入って汚してそれっぽく仕上げていた…一度本当に野菜作りしようとしたけど、才能の無さに断念したよ…」
「え?本当に何言ってるの?じゃあ普段何してたの?どうせ、その辺の雑貨屋さんの店員とか…でしょ…?」
手が震えてきた。なんだろう…全部冗談だと思うけど、真顔で言われると本当の話のように思えてきた。
「普段はな、皇帝の補佐として働いているよ。これでも私は国で唯一の公爵だからね」
10歳の誕生日を迎えた私、ダリア、突然お父さんが狂い出し、真顔で冗談を言い始め、戸惑っています。貴族の位を馬鹿にするような発言を多発、もはや不敬罪に当たりそう。
「え?冗談ですよね?お父さん。」
私の読書大好き人生はここで幕を閉じることになりそうです。
「お前はレギス・フロエーシス公爵と音の魔女のミランダ・フロエーシスの娘、公爵令嬢ダリア・フロエーシスだ。」