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丹波の鬼と本物の鬼

天文14年(1545年) 11月 

丹波国 氷上郡 後屋城


「高砂や、この浦舟に帆を上げて、この浦舟に帆を上げて、月もろともに出で潮の、波の淡路の島影や、遠く鳴尾の沖過ぎて、はや住吉に着きにけり、はや住吉に着きにけり」


祝言の席で猿楽師が高砂を謡っている…正直言って歌詞の意味がよくわからんが、なんか目出度い曲なのは確からしい。


そんな俺は今、赤井氏の居城、後屋城に居る。目的は姉である鶴の祝言を見届けることなのだが……どうやら問題は無さそうだと確認すると、俺も宴席に加わり…と言っても酒は飲めないが…宴を楽しんでいた。


「いやぁ!義弟殿!これからよろしくお願いし申すぞ!」


そう言いながら酒を飲んでいるのは俺の義兄になった荻野右衛門直正…そう、あの丹波の赤鬼こと赤井直正だ。今は萩野氏に養子入りしてるから萩野姓らしい…ところで赤井直正の仮名は悪右衛門だった気がするんだけどな…


「ええ!義兄殿!こちらこそ以後良しなに!」


「ははっ!こちらも武勇の誉れ高い千熊丸殿を頼りにさせてもらいますぞ!ハッハッハ!」


「いえいえ、家清義兄様(にいさま)の武勇には遠く及びませぬ」


今度は今日の主役、鶴姉さんと夫婦になった赤井家清殿が話しかけてきた。家清殿はかなりの美男で優男だから鶴姉さんもすごい顔を赤らめてうっとりしてる。


でもこの義兄殿、見かけによらず実はかなりの猛将なんだよね。……まあ、そのせいで戦で負った怪我が元で死んじゃったんだけど…


そうしてその後、恙無く祝言は終わり、俺たちは翌日、自分達の領地に戻るべく、後屋城を出立した…




天文14年(1545年) 11月 

丹波国 氷上郡、多紀郡の境界付近



「………ん…」


夜営中、急に目が覚めた…なんか気配というか…違和感が………野盗?いや、赤井の領地は知らないが、波多野の領地に居た野盗は粗方狩った筈…


とりあえず横に置いておいた脇差を抱いて身構えた…


「…ほう…妾のことに気づくとは中々見事なモノですな…」


何処からか突然、そんな声がしてきた。男じゃない、女…それも若い声だ…


「何用かな?俺を波多野千熊丸と知ってのことか?」


そう毅然と問うてみた。


「ええ、我々は貴方様に御用がありまして…」


御用?なんだ?どっかから暗殺の依頼でも受けたか?


「用…とは?」


そう問うた俺に対し、その()


「ええ、我ら大江山衆三百名、貴方様にお雇いしてもらいたく存じます…」


そう、感情の籠っていないような声で言ってきたのだった…



赤井直正の仮名、悪右衛門は元々「右衛門」だったが、天文23年(1554年)に年賀の席で直正は外叔父・荻野秋清を殺害してその居城の黒井城を奪っており、これ以後「悪右衛門」と称したらしいです。

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