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いきなりの初陣 後編

天文14年(1545年) 7月

丹波国 船井郡 園部 内藤国貞


「がっはっは!やはり波多野の猿どもは臆病よな!領内に入っても何も抵抗をしてこないとはな!」


儂は共に酒を飲んでいる側近たちにそう言うた。

家臣たちも儂に続き

「所詮は新参者よ」「この調子なら我らが丹波を全て治める日も近いな!」


とざわめき始めた。にしても全くその通りよ。ああ、楽しみでならんわい。いずれは殿を天下人に押し上げ、儂がその下で権勢を誇るのだ!


そんなことを考えていると、突然天幕の外が騒がしくなってきおった…皆も興奮するのはわかるが、もう少し自制して欲しいものよ。まあ、いずれ収まるじゃろう…



だがいつまで経っても騒ぎは収まらず、むしろ悪化していった。流石の国貞も痺れを切らし、声を上げて鎮めようとした。


その時だった…突然1人の若い家臣が天幕の中に駆け込んできて、報告を叫び出した。


「申し上げます!妙な格好をした隊にいきなり襲われ、被害甚大!何人も討ち死にした者と逃げ出した者が出ており、陣は混乱しております!!」


最初、国貞達はその家臣が何を言っているのかわからなかった。だが、状況を飲み込み、その家臣に詳しい話を聞こうとした。だが、その前に…


「うっ!……」


と呻き、その家臣は倒れた。よく見ると背には何本か矢が刺さっており、それがますます夜襲の現実味を帯びさせた。


そして、その死体の後ろから、何人か男が出て、こちらに近づいてきた。その男たちは武具は籠手と槍と大小の刀しか持っておらず、そこから先程まで生きていた家臣が言っていた『妙な格好をした隊』というのがこの男たちだということがわかる。やがてその中の内、もっとも背の高い男が口を開き、名乗りを上げた。


「拙者、波多野家家臣荒木山城守と申す者!内藤備前守殿とお見受けした!その首貰い受ける!」


その刹那、その男が持っていた太刀が一閃し、ここで儂の意識は途絶えた…




天文14年(1545年) 7月

丹波国 船井郡 園部 波多野千熊丸


ふう、やっと終わった…


俺は今、この園部で起きた戦の論功行賞をし終えたところだ。


結果を簡単に言うと、波多野の圧勝。まずはこの戦の推移を見ていこう。


まず、俺は出陣前に家臣たちに命令を下した。その命令を簡単にまとめると『絶対に甲冑や旗指をつけるな。武具は籠手と大小の刀、それと半弓と手槍のみとする。また、兵糧を持たず、馬には乗るな、徒歩で移動する』『敵と遭遇するまで松明を使うな』『国貞と幹部以外の首は取るな』『合印の白布を肩に巻け』という感じだ。


そう、俺はあの戦国三大夜戦、川越夜戦と厳島の戦いを参考にしたのだ。もっとも、川越夜戦は来年起こるのだが…


まず、鎧等を無くすことで身軽になり行軍が早くなるし、草摺等が擦れる音もしなくなる。馬も山だらけの丹波だとむしろ行軍が遅くなるので乗らない。また、松明を使わないことで察知されずに近づくことができ、逆に会敵した瞬間松明を使うことでいきなり敵が現れたと錯覚させることができる。首の打ち捨てについては言うこともないだろう。あとは肩に白布を巻かせることで同士討ちを防がせたな。


奴らは不用心なことに既に寝ているか酔いつぶれており、鎧も着ていなかったため、全く抵抗もできずにうちの兵に討ち取られていった


結果は上々、俺らはほぼ損害0なのに対して、死体の数を数えたところ、奴らは兵千二百人の内、五百人を失っている。どうやら暗くて夜目が効かず、同士討ちを起こした隊もあったようだ。現代だと軍隊の3割を失った時点で全滅ということになるので奴らはかなりの痛手を負った。


さらに首脳陣の内藤国貞を始め、細川氏綱派の多数の国衆の当主が首級となって俺の前に運ばれてきた。


何回も吐きそうになったし、なんならさっき吐いたが、これで後はゆっくりできる…なんてことはない…


むしろこれから、この首級になった奴らの家を潰しに行かなければならない。まずは数掛山城の与兵衛尉殿の所に留まって、八上城からの兵糧や武具を積んだ小荷駄の到着を待とう…





天文14年(1545年) 7月 

和泉国 大鳥郡 堺 波多野元秀


千熊丸が論功行賞を行っているとき、父の元秀は堺にいた…



「いやあ、筑前殿!まこと堺は目新しい物に溢れておるな!」


「そうでございましょう!ここはこの日の本だけでなく、唐や南蛮からも品がはいってきますからな!」


まことにここでは有意義な時間を過ごしたものよ。嫁や子らにも良い土産が買えたわい…この『こんふぇいと』という菓子、最初商人から勧められたときは何かと思ったが、食べてみれば美味いではないか……もっとも、その商人に『種子島』なる妙な鉄の棒と共に高値で売りつけられたが……まあ、千熊丸に預ければ何かの役に立つかもしれんから一応持って帰るが…


そのようなことを考えていると、目の端に一騎の騎馬武者が近づいてくるのが見えた。


思わず儂も家臣も筑前殿も身構えたが、その騎馬武者はよく見ると千熊丸の家臣の孫平太ではないか。孫平太の父の筑後守(酒井頼重)がどうしたのか聞こうとしたが、その前に孫平太が口を開いて叫び出した。


「御注進!丹波国世木城にて内藤備前守が挙兵!数掛山城の与兵衛尉様のもとに千二百人ほどを率いて向かっており、現在千熊丸様と美作守様が兵を率いて迎撃に向かっております!」


内藤国貞挙兵…その言葉で儂たちも筑前殿たちも凍りついた


「つきましては、千熊丸様から、大殿様と筑前守様にとこれを渡すようにと」


そう言って孫平太は書状を差し出してきた。儂はそれを引っ手繰るように取り、筑前殿と共に書状を読んだ。内容を簡単にまとめると『これから備前守を討ち取り、奴の領地を切り取るので、その城攻めのための援軍を筑前守殿に要請したい。また、儂が一刻も早く丹波に戻ってくることを家臣一同が望んでいる』とのことだった。


これは確かに一大事よ!となれば取る手段は…


「筑前殿、どうやら拙者は帰らねばならぬようじゃ…すまないがいずれまたゆるりと堺を案内してくだされ!」


そう言ってすぐさま丹波に引き返そうとしたが


「義兄殿!しばしお待ちあれ!」


と引き留められた。


「義兄殿!拙者も共に丹波に参ります!」


「おお!それはありがたい!」


本当にありがたい。これなら内藤めに負けることはあるまい。


「霜台(弾正台の唐名)!お主は先に越水城に戻り、兵を編成せよ!」


「はっ!承知しました!」


筑前殿は家臣の…確か松永久秀殿だったか…に兵の編成を命じて、自身はこの場にいる家臣たちを纏め始めた…儂もこうしてはおれん!


「皆の者!物見遊山は終わりじゃ!我らの領地は我らが守る!千熊丸たちを死なすな!」


「おうっ!!!!」


儂の檄に応じて五百名の家臣たちが、一斉に気炎を上げた…死ぬなよ、千熊丸!!



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