波多野の決断
天文16年(1547年) 10月
山城国 愛宕郡 妙覚寺
「義兄殿、孫四郎殿。これでおわかりでしょう?全て準備は整っているのです。どうか与力願いまする」
…どうやら、もう外堀は埋まってきているらしい…
だが、一つ気になることがあった。
「叔父上、もし事がなったとして、公方様は、朝廷はお認めになられますか?」
「っ……」
俺にそう問われると、筑前殿が押し黙った。
まさか根回しとかをせずにする気だったのか?
「叔父上、拙者には一つ腹案が浮かんで御座る。お聞きになられますか?」
「おおっ?流石は内藤や遊佐を破った者よ、なんぞあるのか?」
おっ、氏綱は食いついてきた。そしてその様子を見てか、筑前殿も首を縦に振った。
「まず、晴元は我が家で始末致します」
「孫四郎!!??」
「父上、落ち着いてくだされ。始末するのは私の手の者。始末する場は……篠村八幡にでもご招待し、その道中で野盗に襲われたようにでも見せます」
「孫四郎殿、左様な事が叶うのか?」
「ええ、ただし、唯一の懸念が御座る」
「と、いうと?」
「…管領代殿に御座る」
その名前を出した瞬間、三人からも唸り声が聞こえてきた。
それもそうだ。六角家は定頼が英傑な上に甲賀衆まで抱えている。上手くやらないと勘づかれるだろう。
「しかし叶った暁には、晴元の首は叔父上にお贈りします。如何様にもなされませ」
「……それは有難いが…見返りは?何が望みなのだ?」
見返りか……そうだな…
「では、丹波国内の晴元に与力する小名どもの領地と一色氏の丹後を攻めることをお許しを」
俺がそう言うと、敬長は拍子抜けしたような顔で
「孫四郎殿、真にそれで良いのか?」
と返してきた。
「逆にこれ以上何を望みましょうや。私は官位などには興味はありませんし、領地だって晴元を倒したところでさして増えませんぞ」
そう、実は晴元自身の領地はそこまで多くはない。ほとんどが家臣の領地で、その家臣というのが俺たちだからだ。
そもそも晴元が持っている領地の内、和泉国は飛地になるし山城国は面倒事を抱えそうだから、丹波しか要らないのだ。
「左様か…それで良いのなら別に構わぬが…」
「それよりも孫四郎よ、一体如何様に晴元を討ち取るのじゃ。おそらく多くの護衛が付いておる筈じゃぞ」
おっ、父上そこ聞いちゃう?まあ良いか…
「では、私の策はこうです………………」
俺たちの秘密会議は夜が明けても続いていたのであった…
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