拝謁
天文16年(1547年) 9月
山城国 愛宕、葛野郡 京都御所
どうも、波多野孫四郎です。俺は今、この時代において、最も名誉あることの一つをその身に味わっています。そして猛烈に胃が痛い…その理由は…
「波多野孫四郎よ、顔を上げよ」
『主上(天皇の尊称)!?』
そう、このお方、後奈良天皇だ…
事の発端は上洛のパレードの後まで遡る…
天文16年(1547年) 9月
山城国 葛野郡 妙顕寺
俺は今、この妙顕寺を宿舎にさせてもらっている。
ここは史実では秀吉が宿舎にしていた寺で本当だったら今はまだ堺にあったはずだけど、何故かこの世界だともう京に再建されてるんだよね。
「殿!一大事に御座います!」
そう言って書院に駆け込んできたのは、毎度お馴染みの酒井孫平太だ。なんだなんだ?この京に軍でも攻め込んできたのか?
「如何した孫平太?変事か?」
「それどころではありませぬ!勅使の方がお見えに御座る!」
「…は?」
え?勅使?俺に?義藤にじゃなくて?
「兎にも角にも、直ぐに装束をお整えくださ『その必要はないぞ』!?」
突然書院の入り口付近から声がしたのでそこを見たら、そこには明らかにお高そうな直垂をした公家風の男がいた。
「…貴方様は…」
「おお、申し遅れたな。麿は近衛稙家。ただの隠居故礼は無用よ」
え?近衛稙家?なんでそんな大物が?というか隠居だとしても勅使相手に礼無しは流石に駄目だろ…
とりあえず一回正座をして姿勢を整える…
そうして俺が落ち着いたのを見やると、近衛稙家はいきなり真剣な顔をして要件を伝えてきた。
めちゃくちゃ内容が回りくどかった簡単に要約すると
『帝が俺に会いたいらしいので特例で昇殿を認めるので絶対来いよ』とのことだった…
そうして要件を言い終わると近衛稙家は嵐のように去っていった…
そうして話は現在に戻る。
「波多野孫四郎よ、顔を上げよ」
『主上(天皇の尊称)!?』
うん、周りにいる公家どもが驚くのも無理はない。この時代は目上の人間に謁見するときは目を合わせてはいけないというルールがあるのだ。つまり顔を上げるということはそれを破るということになる。
「主上。宜しいのですか?」
そう言うのは上座の方で控えている近衛稙家。
やっぱりこの人隠居じゃないじゃん!
「良い。これは朕(天皇の一人称)の意思ぞ。遠慮はいらぬ」
「…されば…」
そうして恐る恐る顔を上げると、目に入ってきたのは壮年の男性の顔だった。後奈良天皇は今年で五十歳。この時代なら十分高齢だ。
「うむ、確かに太閤や公方が言っておったように良き面構えをしておる」
…やっぱり俺、初対面の人から一番最初に顔について褒められるんだな…
「では、本題に入ろう………孫四郎よ、京を…守ってくれぬか?」
そう言う後奈良天皇の顔には、俺に対する懇願と、これまでの苦労が浮かんでいた…
ご感想等、お待ちしています…




