196.卒業の光
卒業式を前にした日、私たちは再び講堂に集められた。
静かな春の陽が窓辺に差し込む。
私たちは、今日だけは制服ではなく、式典用のローブを身にまとっている。
「それでは皆さん──六年間の軌跡を、ひとつにしましょう」
学院長の穏やかな声が、講堂に響いた。
その言葉と同時に、私たちはそれぞれ手にしていた「年次修了証」を取り出す。
一年生から六年生まで──進級のたびに授与されてきた、六枚の証書。
どれも魔法加工された羊皮紙で、属性の色に応じた紋章が刻まれている。
炎属性の私のものは、どれも赤い魔紋と金の縁取りがあしらわれていた。
「これ、全部・・・」
私の隣で、サラが呟いた。
彼女も静かに、自分の修了証を見つめている。
「長かったようで、あっという間だったね」
ノエルが小さく笑う。
学院長が壇上に両手を広げると、空中に魔法陣が浮かび上がる。
七芒星の光が回転し始め、それに呼応するように、生徒たちの手元から修了証が一枚ずつ、ゆっくりと浮かび上がった。
「『アカディア・シンセシス』・・・皆さんの六年間は、ここで一つの証となるのです」
優美な声と共に魔力が編まれ、光が集束していく。
六枚の修了証は、淡い虹色の輝きを帯びながら、ひとつに重なり始めた。
光が強くなり、講堂が真昼のように照らされる。
「・・・!」
私は思わず息を飲んだ。
それはただの紙でも記録でもない──私たちの歩み、そのものだった。
やがて光が収束すると、宙に浮かぶのは一枚の証書。
真紅の縁取りに金の炎が揺れる、見たこともない荘厳な魔法文書。
そこには、私の名前が中央にくっきりと記されていた。
「これが・・・ゼスメリアの卒業証書・・・」
「卒業証書・・・!」
周囲から感嘆の声が漏れる。
続いて、次々と他の生徒たちの修了証も同様に合成され、講堂に浮かぶたくさんの卒業証書が、きらめくように並んでいった。
「証は揃いました。これより、卒業式典に移ります」
学院長が静かに告げると、空気が一段引き締まった。
そうして始まった、卒業式。
講堂内は厳粛な雰囲気に包まれ、窓から差し込む陽の光が、ちょうどいい感じに壇上の学院長先生を照らし出す。
いつの間にやら、後方には保護者たちが並んでいた。
その中には、もちろん私の母・・・セリエナの姿もあった。
黒い服を着て髪を結び、いつもとは大きく違う雰囲気になっていたからか、周りは“炎の大魔女”が近くにいることに気づいていないようだった。
ちなみに、卒業証書の受け取り方は前世の学校と同じ。つまり、生徒一人一人が名前を呼ばれていき、自分の証書を学院長先生から受け取る形式だ。
・・・自分の番が来るまで暇なのも、前世の学校のそれと同じである。
そしてそうなると、やはりと言うべきか眠気が襲ってくる。
私は手をつねり、足の指をぎゅっと握り、唇を噛み、とにかく絶対寝ないようにした。
前世の卒業式とはわけが違う。私は今日、大陸屈指の名門校を卒業するのだ。
それも、偉大な大魔女である母の見ている前で。
「・・・アリア・ベルナード」
「はいぃ!」
半ば眠りかけていたところで呼ばれたので、やや間抜けな声を出してしまった。
恥ずかしいが、ここで焦ったら恥の上塗りだ。私は心臓の音を聞きながら、一歩ずつ壇上へと歩いた。
──卒業とは、ただの通過点ではない。
ここで得たものすべてを、抱えて進むための「始まり」だ。
急に、そんなことを思った。
「──卒業、おめでとうございます」
学院長が微笑み、私の手に卒業証書が渡された。
──その瞬間、胸の奥が熱くなった。
涙は出なかった。けれど、心のどこかで何かが音を立ててほどけていくのを、私は確かに感じた。
続いて、仲間たちも次々と名前を呼ばれ、証書を手にしていく。
ライド、ノエル、マシュル、ティナ、シルフィン。そして──サラ。
彼女が証書を受け取った瞬間、講堂の窓から春の風がそっと吹き込んだ。
光に透けたその横顔は、もうかつてのような「不安に震える少女」ではなかった。
「サラ・・・よかったね」
私は、心からそう思った。
──卒業の日は、確かに訪れた。
けれど、私たちの物語は、まだ続いていく。
次に描くべきは、この先の「未来」だ。




