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灼炎の転生魔女〜いじめ自殺から最強魔女の娘へ!前世の因縁、全部終わらせます〜  作者: 明鏡止水
3章 ゼスメリア生活・後編

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188.星霊災、再来の兆し

 王城の広間は、かつての荘厳さを微塵も残していなかった。

砕けた石柱、煤けた壁、崩れた天井──あの日、ここで何があったのか、ただその痕跡だけが静かに語っていた。


それでも、人々は残っていた。

騎士団の看護兵たちが負傷者を診て、残りの団員は復旧作業にあたっている。


 そして、その中心にいたのが──母だった。

燃えるような赤のローブを翻し、矢継ぎ早に指示を飛ばすその姿は、まるでこの地に新たな指導者が立ったかのようだった。


「・・・母さん、私たちも残ろうか?」


 私がそう問いかけると、母はちらりと私に目を向け、しかしすぐに首を横に振った。


「あなたたちはゼスメリアへ戻りなさい。今はその方がいい」


「でも、まだ“あれ”の正体も──」


「えて、わからないわ」

母は静かに、でもはっきりと言った。


「私にも、あの“塵の怪物”が何なのかは分からない。今までのどんな魔物とも違っていた。・・・けれど、一つ言えるのは、あれは恐らく、“何かの兆し”だということ」


「兆し・・・?」


「ええ。あの魔物、昨日の夜空に浮かんでいた“脈動する星”と何か、関係がありそうな気がする。もしかしたら、“星霊災”とも・・・」


 私は喉の奥が詰まるような感覚を覚えた。

昨日の夜、私だけでなく多くの人が見た星──異様なまでに輝き、どこか呼びかけてくるような、あの星。

その存在を、母も感じていたのだ。


でも、母は言う。


「それを調べるには、ここよりもゼスメリアのほうが適している。あなたたちには、そこから真実を探ってきてほしいの」


「・・・わかった。絶対に何か掴んでくる」


 私が頷くと、母は満足そうに微笑んだ。


「信じてるわ。アリア。あなたたちならできる」


 


 こうして私たちは、母を王城に残し、ゼスメリアへと戻ることになった。

メンバーは私、シルフィン、ノエル、サラの四人。王都から学院への道を急ぎ、数十分後には再び学院の正門をくぐることとなった。


 


 しかし、学院の空気もまた──異変に気づいていた。


噂はすでに広まっていたらしい。王城が襲撃され、大魔女セリエナが現地で対応にあたっていること。未確認の魔物が現れたこと。

そして、昨日の夜空に現れた異様な“星”の話も。


 占星術の塔では、早くも空の観測が強化されていた。それでも、未だ誰も“あれ”の正体にはたどり着けていなかった。


 ──ただ、一人を除いて。


 


「星の脈動、ガラネルの塵、魔力の共振・・・そういうことだったのか」


 占星術の塔の一室、「天文の部屋」。

そこで、シルフィンは机いっぱいに資料を広げていた。


星図、魔力周期の記録、古代術式、過去の天変の観測記録・・・彼女が集めた文献は、私でも読むのが億劫になるほど難解なものばかりだった。


「シルフィン・・・もしかして、あの魔物の正体がわかったの?」


「ええ。まずは、これを見て」


 シルフィンが見せてくれたのは、一枚の文献。

映画とかに出てくる昔の地図のように色あせており、かなり古いもののようだ。


「これは?」


「星霊に関する文献。はるか昔・・・邪神がこの世界に現れるよりも前、彼らはこの世界に現れていたのよ」


 いまいちピンとこない私のために、シルフィンは該当箇所を指でなぞりながら読んでくれた。


「“脈動する星の落ちた夜、世界の魔力が狂い、邪悪な生物が生まれた。それはまるで、腹を好かせた猛獣のように人々を食らい、町を飲み込んだ。後に封じられたその怪物は、星霊と名付けられた”」


「・・・つまり、王城を襲ったのもその星霊ってやつなの?」


シルフィンは頷き、もう一枚の文献を手に取った。

こちらは、そこまで色あせてはいない。


「こっちは、あの変な星の光の波長の記録。“あれ”が現れた昨日の深夜の時間帯には、普段にはない波形が記録されてたの。それと、これも文献を調べてわかったことなんだけど・・・彼らの出現は、月の満ち欠けとも連動してるみたい」


「・・・月と?」


「うん。だからね、あの怪物──昔の人々に”星霊”と呼ばれていたあれは、あの脈動する星だけじゃなく、月とも関係があるんだと思う」


 シルフィンは、次は一冊のノートを開いた。


何度か見たことがある・・・彼女の愛用しているもので、普段の授業の内容から彼女の独自の研究まで、あらゆることが書き込んであるノートだ。


何気に、シルフィンはすごい勉強家だと思う。でなければ、占星術やら魔法薬やらの道を目指そうなどとは思わないだろうが。


「私の考えが正しければ、星霊はあの星と月がある限りまた現れる。記録を読んだ限り、彼らは新月の夜には現れないけど、それ以外の夜、特に満月の夜には多く現れる。そして、昨日の夜は半月だった」


 私は息をのんだ。

ならば・・・次の奴らの標的は、どこになると言うのか。


「まさかとは思うけど・・・ゼスメリア?」


 シルフィンは静かに頷いた。


「星霊は、人や魔力の多いところを狙うらしいから、ほぼ確実だと思う。あの星も、恐らくまだ空にあるだろうし」


──今度は、この学院が狙われる。

そう思うと、体が芯から震えた。



 私は専属魔導書を取り出し、表紙を眺めた。

「サンフレア」──表紙に書かれた文字が、目に染みる。


やはり、近いうちにまたこれを使う日が来るかもしれない。

だからこそ、準備だけはしておかなければならない。


リーヴァと共にこれを携え、どんな時でも立ち向かえるように。


 


 これは、私たちに課せられた戦い。

星が語る声を、私は聞かなければならない。


──次に来る“夜”に、備えるために。



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