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灼炎の転生魔女〜いじめ自殺から最強魔女の娘へ!前世の因縁、全部終わらせます〜  作者: 明鏡止水
3章 ゼスメリア生活・後編

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182.忘却を拒む魂の灯

 影が、音もなく迫る。

その数は、増えていく一方だった。


彼らには意志がない。名前もない。

ただ、“存在を否定する”という命令だけが刻まれているようだった。


(こんなものに・・・シルフィンを渡せるものですか!)


私の掌の炎は、音を立てるように膨れ上がる。

だがそれに比例するように、心の奥で鋭い痛みが走った。


 まるで魂が削られていくような苦しみ。

“深紅の火”は、使えば使うほど、持ち主の記憶と感情を燃やしていく。


──それは、かつて彼女が、誰かを守るために払った代償。

そして今、私が受け継いだ痛み。


でも──。


「構わない・・・私はもう、怖くない!」


 叫びと共に、私は炎を放つ。


火線が奔り、番人たちを貫いた。

無音の空間に、はじめて“拒絶”のような波動が走る。


影の輪郭が、炎に触れて揺らぎ──だが、すぐに再生する。

まるで時間そのものを巻き戻すように、元の姿を取り戻していく。


(効いている・・・でも、足りない)


 私は奥歯を噛みしめた。

棺の中のシルフィンは、まだ目を覚まさない。


(もっと・・・もっと、届かせなくちゃ・・・!)


力だけじゃ、届かない。

必要なのは、“想い”。


 私は炎に、私自身の記憶を重ねていく。


入学当日出会った時のこと。抱きしめられた温もり。

一緒に笑った午後の光。

「アリアなら、大丈夫だよ」と囁いてくれた、あの声。


私は、その全てを──“深紅の火”に込めた。


「私は・・・忘れない。絶対に!」


 叫びが響く。

その声が空間を震わせ、番人たちの影に裂け目を生じさせた。


一体が崩れ──音もなく、消える。


私は思わず、息を呑んだ。

今の一撃。力ではなく、“記憶”で撃ち抜いた。


「そうか・・・これが、“魂の火”・・・!」


ただ、燃やすだけではない。

ただ、破壊するだけでもない。

「想いを灯す」ための炎。


それこそが、フィアが本当に伝えたかった“炎の在り方”。


 私は、もう一度炎を掲げた。

涙が滲む。でも、不思議と、笑みがこぼれていた。


「あなたたちが何者でも、私には関係ない。私は──友達を助けに来ただけ!」


その瞬間、炎が変わる。


紅でもない。

金でもない。

澄んだ橙色の、新しい光。


──それは、私だけの“魂の色”。


その炎が灯ったとき、“沈黙の檻”が鳴いた。


番人たちが一斉に震え、後退する。

世界の“修正”が揺らいだ証。


 それでも、私は前に出た。

誰もいない。誰も助けてくれない。

でも──私は、ひとりで抗う。


“忘れられた友”を救うために。

“失われる運命”に抗うために。


孤独な戦いの炎は、沈黙の闇を確かに照らしていた。




 私は進む。

番人たちは、波のように立ちはだかる。


けれど、もう私は恐れなかった。

この橙の炎は、“私のための力”だと知っている。


私は──“想いを灯す魔女”。

忘れられた存在を、私の記憶で照らすために、ここにいる。


「どいて・・・!」


 掌を突き出す。

炎が広がり、静寂を焼き尽くしてゆく。


番人たちは抗うように前へ出る。

けれど、私の炎に触れるたび、その輪郭は曇り、滲み、ひび割れていく。


胸の奥に、響くものがあった。

もっと深く──もっと昔から、私を見ていた何か。


(これは、私だけの力じゃない)


 私の“記憶”に共鳴するように、誰かの“祈り”が重なっていく。


(フィア・・・)


──いいえ、違う。彼女だけじゃない。


この世界で、“消された誰か”たちの痛みと願いが、名もなく、声もなく──

私の炎に、集まってきていた。


「・・・そうだよね。私も、あなたたちも・・・誰にも忘れられたくなかったよね」


 その言葉に、番人たちの足が止まった。


ひとつ、またひとつ。

静かに、炎に包まれて消えていく。


彼らは、戦っていたのではなかった。

ただ、“役割”を遂行していただけ。


だが、その根源に触れたとき──炎は、破壊ではなく、赦しをもたらした。


(もう・・・いいんだよ)


 私の中の炎が、そう語るようだった。


この場所も、番人たちも、“存在を消された者”さえも──

否定するためにあるのではない。


「私は、灯したい。全部、忘れたくない・・・!」


最後の番人が、静かに炎の中に溶けていく。

黒い外套が、空気にほどけて、灰となって消えた。


 ──そして、“沈黙の檻”が崩れ始めた。


「・・・!」


空間が軋み、回廊が崩れ、記憶の残滓が空の狭間へと吸い込まれていく。




 私は、走った。

棺──彼女のもとへ。


光が、眠る彼女を照らしていた。

その顔は穏やかで、色を取り戻しつつあった。


「シルフィン・・・!」


 名前を呼ぶ。

震える手で、硝子の面に触れる。


──トクン、と。

私の胸の炎と、彼女の胸の奥にある何かが、重なった。


確かに、鼓動が返ってくる。


(・・・生きてる)


涙があふれそうだった。


「・・・ごめん。遅くなって、ごめんね」


 そのとき。

シルフィンのまぶたが、わずかに揺れた。


薄く開いた瞳が、ぼんやりと私を映す。

その瞳に、涙が浮かんでいた気がした。


「・・・アリア・・・?」


「うん・・・私だよ」


私の炎が、彼女の中にも灯る。


もう、世界がどう言おうと関係ない。

私が、彼女を“知っている”。

それだけで、彼女は、ここに“在る”。


 ──“沈黙の檻”は崩れ去る。


だがその中心には、確かに。

“ふたりの炎”が、静かに、寄り添っていた。




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