表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灼炎の転生魔女〜いじめ自殺から最強魔女の娘へ!前世の因縁、全部終わらせます〜  作者: 明鏡止水
3章 ゼスメリア生活・後編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

178/698

178.灼炎と白雪の間

 朝の光が、雪を照らしていた。


空は晴れ、前夜の黒い塵が嘘だったかのように、世界は静けさを取り戻していた。

けれど、私の胸の奥では、まだ熱が燻っている。


 キッチンからは、いつものようにパンの香りが漂ってくる。


私はゆっくりと椅子に腰を下ろした。

母は黙って鍋をかき混ぜている。炎は穏やかに揺れ、その音が妙に心地よかった。


「・・・眠れた?」


 母が、背を向けたまま言った。

私は頷く。


「・・・うん、少しだけ。でも、ずっと“アンフェール”のこと、考えてた」


「そう。なら、見せた甲斐があったわ」


母は鍋の火を止め、スープを器に注ぎながら続ける。


「“極意”はね。力でねじ伏せる魔法じゃないの。信念が魔力に形を与えた、最も純粋な答えよ」


「信念・・・」


「そう。“こうありたい”という強い想いがなければ、極意は目覚めない。だから、アリア──昨日のあなたの魔法も、十分立派だったわ」


 私は、スープを一口すする。

少し熱くて、でもどこか沁みる味だった。


「・・・私、まだ怖い。昨日も、自分の魔法が効かなかったとき、一瞬すごく怖かった」


「当然よ」


母はにこりと笑った。


「怖くない者なんていないわ。私だって、あれを初めて使ったときは、震えが止まらなかった。世界を焼くって、そういうことよ」


「・・・でも」


 私はスプーンを置き、そっと言った。


「それでも、私は“答え”を見つけたい。母さんのように。自分の力で、誰かを守れるようになりたい」


母はしばらく何も言わなかった。けれど次の瞬間、私の頭をぽんと優しく撫でた。


「その言葉が、いちばん大切。・・・アリア、あなたはもう、十分強いわ」


「母さん・・・」


 胸が、じんと熱くなる。


「でもね」


母は一つ、息をついてから私の目を見つめる。


「これから先、もっと強大な“闇”に出会うわ。昨夜のようなものは、ほんの序章。あなたが“鍵”である限り、邪なる者たちは何度でも手を伸ばしてくる」


その声は、決して脅しではなかった。

ただ、母の知る“現実”を、まっすぐに伝えてくれているだけ。


「わかってる。・・・でも、負けない。サラも、ノエルも、母さんもいてくれるから。私は──私の答えを、見つけるために旅に出る」


 私はもう一度、しっかりと頷いた。


母の瞳がわずかに細められ、優しく、けれど力強い声が返ってくる。


「その覚悟があれば、どこへ行っても大丈夫。たとえどんな絶望に触れても、必ず戻ってこられるわ」


 窓の外では、光が雪を照らしていた。

まだ、あと四カ月あるが──白く輝く世界の中に、旅の始まりが、確かに見えた気がした。





 雪は、まだ降り続いていた。

けれど、それはもう不穏な闇ではなく、冬本来の柔らかな雪だった。


白い吐息を繋ぎながら、私はゼスメリアへと足を運ぶ。


 学院の門をくぐると、すぐに明るい声が聞こえてきた。


「アリアさん!」


振り返ると、サラが手袋をはめた手をぶんぶん振って駆け寄ってくる。

制服の裾がふわりと舞い、頬は寒さで赤く染まっていた。


「おはよう、サラ。・・・早いね」


「今日は・・・ちょっとだけ眠れなかったんです。・・・変な夢を見たから」


 そう言いながらも、サラの瞳は落ち着いている。昨夜の“何か”を、どこかで感じ取っていたのかもしれない。


けれど彼女は、それを言葉にしなかった。ただ、隣を歩くことで安心をくれる。そういう優しさを、彼女は持っている。


 そこへ、ノエルが小走りで近づいてきた。


「やっと来た!二人とも、いつも早いんだから・・・! 寒くて、耳が取れるかと思ったわよ」


「そんなに大げさな・・・」


私は笑いながら言うと、ノエルはぷいとそっぽを向いてからすぐ笑みをこぼす。


「ま、でもよかった。今朝は顔を見て、ちょっと安心したっていうかさ」


言葉の裏に、きっと彼女なりの“何か”を感じていたんだと思った。

言葉にはしなくても、皆どこかで、昨夜の気配に気づいている。




 学院のホールに着くと、シルフィンとティナが肩を並べていた。

二人ともいつものように静かに、けれどしっかりとこちらに気づく。


「おはよう、アリア。寒くなったね」


「おはよう。・・・って、ノエル、また手袋忘れてきたでしょ」


「うっ、なんでバレた!?」


ティナに指摘され、ノエルがそそくさとコートに手を引っ込めた。


「まったく・・・そんなんじゃ、旅に出たら凍え死ぬわよ?いくらアリアとサラがいるとは言え」


 呆れたように言うティナの隣で、シルフィンが小さく笑う。


「でも・・・こうやって集まって話してる時間も、もうそう長くはないんだなって思うと、ちょっと寂しいね」


「・・・うん」


誰もが、それを感じている。

卒業、そしてその先に待つそれぞれの道。

私たちは、その分岐点に立っている。


そんな空気を破るように、明るい声が響いた。


「やあ、お嬢様方!今朝も見事に凍ってるな、校舎の裏の池!」


 ライドが大股で歩いてくる。その後ろには、眠そうな顔のマシュル。


「・・・なんで池の話なんだよ、朝から」


「いや~、なんとなく。凍ってる水面ってテンション上がらない? 割りたくなるというか──って、マシュル!寝てたな!」


「・・・寝てたさ。朝が嫌いなだけだ」


 いつも通りのふたりのやり取りに、皆が自然と笑った。


──ああ、こういう時間・・・やっぱり好きだ。


 不安も、恐怖もあるけど。

でも私は、確かに守りたいと思ってる。

この人たちと過ごす日々を。このぬくもりを。


いつか終わるものだとしても、今はこの瞬間に、胸を張っていたい。


「アリア、どうしたんだ?しんみりして」


 ライドが肩を軽く叩く。


「いや・・・なんでもない。ただ・・・ううん、“今”をちゃんと覚えておきたいだけ」


「ふーん。でもまあ、忘れたくないってのはわかるよ」


彼の笑顔に、私は小さく頷いた。


──鐘の音が鳴る。今日も、授業が始まる。


 だけど、それは終わりではない。

この日常の続きに、私たちの“冒険”があるのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ