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灼炎の転生魔女〜いじめ自殺から最強魔女の娘へ!前世の因縁、全部終わらせます〜  作者: 明鏡止水
3章 ゼスメリア生活・後編

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172.過去と未来、母と娘

 数日後の放課後、私はティナとノエルを中庭に呼び出した。

薄曇りの空の下、木々の隙間から漏れる柔らかな光が、地面に淡い模様を描いている。


「話って、何?」


ティナが首を傾げる。

ノエルは黙って隣に立ち、私の顔を見つめていた。


 私は息を整えて、ゆっくりと切り出した。


「・・・卒業したら、旅に出るつもりなんだ。“封印”の痕跡を探して。八つの封印と、“主”と呼ばれる存在を・・・邪神を追うために」


ティナの瞳が、少し揺れた。


「・・・やっぱり、行くんだね」


「うん。シルフィンたちには断られた。みんな、自分の道を見つけたから。でも私は──私自身の“答え”を探しに行くって決めたの」


 ノエルが、何も言わずに一歩、こちらへと近づいた。


「・・・私も、行く」


迷いのない声だった。


「ノエル・・・」


「違う。私はかつて、“伊原美紗”として、あなたを・・・鈴木三春をいじめてきた。それは一生許されないことだって、分かってる。でも、だからこそ・・・」


 ノエルは小さく拳を握りしめる。


「だからこそ、今の“ノエル”として・・・アリアのためにできることがあるなら、なんだってやる。苦しくても、怖くても、罪を償えるものなら、全部受け入れる。あなたが必要って言うなら、迷わずついていく」


私はその言葉を、ただまっすぐに受け止めた。


確かに、前世で私はノエル・・・いや、美紗に苦しめられていた。けれど今の彼女は、かつての美紗ではない。


 痛みを知り、苦しみを知り、向き合おうとしている。

それは、誰にでもできることじゃない。


「・・・ありがとう、ノエル。正直・・・驚いたけど、すごく嬉しい」


「こっちこそ、言ってくれてありがとう」


ノエルの声には、微かな震えが混じっていた。


 


 少し遅れて、ティナが静かに口を開いた。


「・・・私は、行けないよ。ごめんね」


「ううん。分かってたよ、なんとなく」


ティナは転生者ではない。けれど、その光の魔法で、幾度となく私たちを守ってくれた。

彼女にだって、大切にしたいものがある。自分の場所がある。


「・・・私は、進学して、光の魔法を極めたい。誰かの盾になるような、誰かの希望になるような、そんな魔法をもっと身につけたいと思ってるの」


「ティナらしいね。優しくて、強い」


「そんなことないよ。むしろ、怖いくらい。でも、アリアがどんな道を選んでも、私は・・・信じてる。きっと、帰ってくるって。笑って、また会えるって」


 私は頷いた。


「・・・私、たぶん、怖いんだと思う。あなたたちが向かう場所が、どんなに遠くて、危険なのか、分かってるから。でも・・・それでも、あなたが選んだ道を信じたい。だって、アリアだから」


「ええ。必ず、帰ってくる。だからそのときは・・・また、ここで話そう。光の魔法の話も、未来の話も」


「うん。約束だよ」


ティナは微笑み、そっと私の手を握ってきた。


 そして、ノエルと私の間にも静かな視線が交わされる。

過去を赦すわけではない。けれど、共に歩むという選択は、もう始まっていた。


 


──こうして、旅立ちの仲間がまたひとり、決まった。

静かに、確かに、運命の歯車が回っていく。


それは過去を越え、未来へ向かう小さな決意の連なり。


 封印の在処も、“主”・・・邪神ガラネルの復活の真相も、まだ何一つ分かってはいない。

けれど、私は進む。選んだから──“自分の道”を。



 木漏れ日の下、私たちはしばらく言葉少なに、風の音を聞いていた。

この日交わした沈黙は、きっといつまでも胸の奥に残る、静かな誓いだった。




 その夜の帰宅後、私は食卓を囲む母と向き合っていた。


夕食は温かいスープと香ばしいパン。

母の料理は、いつも変わらず優しい味がした。けれど今夜の私は、その味をほとんど覚えていない。


 スプーンを置き、私は深く息を吸い込む。


「・・・母さん、話があるの」


母・・・セリエナは、ゆったりとした動作で手を止め、私の瞳を見つめた。


「・・・顔を見れば、分かるわ。ずっと考えてたのね」


 私は頷いた。母の目は、全てを見通しているようだった。


「──卒業したら、旅に出ようと思ってる。“主”の封印を探して。八つの“封印”の痕跡を辿って、邪神ガラネルの復活を止めるために」


言葉にすることで、その決意が胸の奥で音を立てて定まっていく気がした。


「私が“扉”なら・・・きっと、その先に進まなきゃいけないんだと思う。誰かがやらなきゃいけないのなら──私は、それを選びたい」


 セリエナは一度まぶたを閉じ、静かに椅子にもたれかかるように背をあずけた。


「・・・そう」


その声は穏やかで、けれど深い水底のように重たかった。


私は続ける。


「サラは、ついてきてくれるって言ってくれた。ノエルも。・・・それで、母さんにも、来てほしい」


 言ってから、自分の中に震えがあることに気づく。


私はずっと、母が“炎の大魔女セリエナ”であることを意識してきた。けれど、それ以上に──一人の母親として、いつも私を支え続けてくれた人。


その人を、危険な旅へ誘うということが、私の中でどうしようもなく怖かった。


でも、それでも言いたかった。

私は、母と一緒に未来を見たいのだ。


 長い沈黙の後、セリエナは静かに笑った。


「・・・私に、“母”として答えてほしい?それとも、“大魔女”として?」


私は戸惑いながらも、正直に言った。


「どちらでもない。母さん・・・あなた自身の“意志”で決めてほしい」


 セリエナは瞳を細め、ふっと息を吐く。


「ずるいわね。あなた、もうすっかり一人前の魔女だわ」


立ち上がった母は、窓際に歩み寄る。

夜空に浮かぶ月を見つめ、独りごとのように言った。


「邪神の気配は、私にも届いている。かつて私たちが施した封印は、確実に軋み始めている。もはや、誰かが立ち向かわなければならない時期なのよ」


 私は、言葉を待った。


「──アリア。あなたが行くというのなら、私も行くわ。だってあなたは、私の“娘”だから」


 振り返ったセリエナの目は、静かに炎を宿していた。


「・・・ただし、“守るため”ではない。“共に戦う”ために。私も選ぶわ。魔女として、この時代に生きる者として。あなたと共に、封印の謎に挑む」


私は、まぶたが熱くなるのを感じた。


「・・・ありがとう、母さん」


 セリエナは微笑み、私の額に手を伸ばす。


「なにを言ってるの。感謝すべきは、私のほうよ。こんなにも強く、まっすぐに“運命に向かおうとする娘”を育てられたのだから」


母はほっと一息つき、改めて言い放つ。


「・・・私も、あなたと共に戦うわ、アリア」


 その声は、かつて邪神を焼き尽くし、封印した大魔女の威厳と、たった一人の娘を信じる母のぬくもりを、どちらも宿していた。


母の手が触れたとき、幼い頃から何度も感じてきた温もりが、今までとは少しだけ違って感じられた。


──これは、“仲間”の手だ。

共に歩む者としての、私の母の手だ。


 


 夜空には、星々が瞬いていた。

その光の奥に、“封印”へ続く道があるように思えた。


旅立ちの日は、もうそう遠くない。

私はそれを、恐れることなく迎えられる気がしていた。


 


 ──私はもう、ひとりじゃない。

家族と、仲間と、贖罪を背負う者たちと。

それぞれの想いが、やがてひとつの炎になる。


そしてその炎こそが、“扉”を開く鍵になる。




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