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灼炎の転生魔女〜いじめ自殺から最強魔女の娘へ!前世の因縁、全部終わらせます〜  作者: 明鏡止水
3章 ゼスメリア生活・後編

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171.旅路を選ぶ時

 それから数日が過ぎた。

学院は、徐々にいつもの喧騒を取り戻しつつあった。倒壊した西棟の修復も進み、授業も再開された。


生徒たちの間では、あの魔物の襲撃は、学院を包む結界に何らかの理由で異常が起きたことによるもの・・・すなわち偶然の『事故』と説明され、事件の真相を知る者はごく限られている。


 ──そして私は今、自宅の窓辺で一人、夜の空を見上げていた。


星々の瞬きが、どこか遠くの呼び声のように感じられる。

サラは、既に眠っているだろう。それとも、今日も遅くまで訓練をしているのだろうか。


 私は胸の奥で、ある“決意”をかたちにしようとしていた。


 ──卒業まで、あと半年。

学院での日々は、思えばあっという間だった。 最初はただ、母に言われるがまま通い、言われるがままに魔法を学んでいた。


だけど、いまの私は違う。

私はこの学院で、前世から続く因縁を断ち切り、“鍵”と出会い、“封印”と“扉”の存在を知り、“選ぶ者”として歩き始めた。


「・・・卒業したら、旅に出ようかな」


 つぶやいた声は小さかったけれど、自分の中では、もうずっと前から決まっていたことだった。


この学院では得られないものが、外の世界にはある。

母すら知らない、八つの“封印”の在処。

そして“主”──目覚めを待つ、災厄の邪神。


 私はそれを、自分の足で探したい。

他でもない、自分の意志で。


 


 炎の魔力が私に訴えかけているように感じる。

私の中に眠る「深紅の焔(インフェルナルージュ)」が、もう静かにしていられない、と言っているように。


「終わり」は、静かに迫っているのではなく、むしろこちらに向かって呼びかけてくる。


 だけど、それでも私は・・・“選ぶ”。

私の未来を、私自身で。


それは、決して抗えない運命への反抗ではない。運命に“飲み込まれない”という意思。

そして、運命に“抗うのではなく寄り添う”という選択だ。


 



 翌朝・・・私は決意した。卒業までの残り半年、この学院で学べることはすべて学び尽くそうと。

魔法も、歴史も、そして“生き方”も。


そして学院を卒業したら、旅に出る。

世界のどこかにある、封印の痕跡を探して。


 その時は、サラと・・・できれば母さんも連れて行きたい。

それが、この“扉”としての役目ならば──私はそれを、使命としてではなく、“希望”として背負いたいと思った。



静かな秋の風が、校舎の窓を揺らしている。

あの日、記録庫で戦った魔物が残した言葉。


──目覚めは始まっている。


でも、それと同時に──私たちの旅も、もう始まっているのかもしれない。


 


 だから私は、焦らない。泣かない。

そして、迷わない。


すべては、未来を“選ぶ”ために。


 




 週明けの昼休み、私は三人を中庭のテーブルに呼び出した。


陽射しは柔らかく、木漏れ日がテーブルを斑に照らしている。

この場所も、私たちにとっては思い出の一つだ。


 シルフィン、ライド、マシュル。

いずれもこの学院で出会い、ともに魔法を学び、ともに戦った仲間たち。


──だからこそ、今、話しておきたかった。



「・・・卒業したら、私、旅に出るつもりなの」


 そう言った瞬間、三人の手が止まった。

スープのスプーンを握ったままのマシュルが、目を瞬く。


「旅・・・って、封印の?」


私は頷いた。


「うん。記録庫の本には、はっきりとは場所は書かれてなかったけど・・・世界のどこかに、八つの“邪神の封印”が隠されてる。その封印の痕跡を探してみたいの」


「・・・きっと命がけになるぞ、それ」


 ライドが、眉を寄せながらも真っ直ぐに言った。

だけど、否定ではなかった。むしろ、真剣に向き合ってくれている証だった。


私は三人の顔を順に見た。


「だから・・・もし、よかったら、一緒に来てほしいって、思って。でも・・・」


 シルフィンが、先に静かに口を開いた。


「ごめん、アリア。私・・・卒業したら、魔法薬剤師になるために地方の錬金術院に進む予定なの。今、先生に推薦の話ももらってて」


彼女はどこか申し訳なさそうに目を伏せたが、私は首を振った。


「ううん、謝らないで。シルフィンらしいって思った。魔法薬の研究がしたいって、前から言ってたもんね」


 そうだ、彼女は昔から魔法薬や薬草、占星術が好きで、将来的は魔法薬剤師になりたいと言っていた。

その夢を、今も追い続けているんだろう。


「・・・ありがとう」


 続いて、ライドがうなずく。


「僕もね、シルフィンの助手をやることにした。彼女の研究は、僕の魔法とも相性がいいと思う。・・・何より、支えたいって思ったから」


「・・・そうなんだ。うん、ライドも“選んだ”んだね」


最後にマシュルが、苦笑交じりに肩をすくめた。


「おれは、王都の魔法大学に行くよ。水魔法をもっと研究してみたいんだ。・・・アリアの旅には、きっと直接役に立てないと思う」


「そうか・・・ううん、違うよ。立派に“役に立ってる”。私にこうして、進む勇気をくれたのは、みんななんだから」


 私は、はっきりと言った。


少しの沈黙があった後──シルフィンが静かに言った。


「・・・アリア。私たちは一緒には行けないけど、応援してる。あなたの選んだ道が、どんなに険しくても、必ず意味があるって、そう信じてる」


「うん、ありがとう」


 私は笑った。そして、心のどこかで覚悟していた“別れ”を、少しだけ受け入れた。


 



 ──そして、放課後。

私は、裏庭の訓練場で杖を振るうサラのもとへ向かった。


彼女は、汗に濡れた前髪をかき上げながら、こちらに気づくと小さく手を振った。


「アリアさん。どうかしたんですか?」


「ううん。ちょっと、話があって」



 私は傍に腰を下ろし、しばらく無言で風の音を聞いていた。

サラも、何も言わずにそれに寄り添ってくれた。


やがて、私はぽつりとつぶやく。


「・・・卒業したら、旅に出ようと思う。邪神の封印を探す旅。まだ何があるかも分からないけど、行かなきゃいけないって、思ってる」


 サラは、ゆっくりとこちらに向き直った。


「・・・一人で、行くんですか?」


「本当は、みんなと行きたかった。でも、それぞれにやりたいことがあって・・・」


私は静かに笑う。


「だから、最後に・・・サラにも、聞いておきたいと思ったの」


 一息つき、意を決して・・・告白するように言う。


「──私と一緒に、来てくれる?」


 


 風が、ふたりの間を吹き抜けた。

サラは、少し驚いたように目を瞬き、そして目を閉じた。


やがて、小さく頷いた。


「・・・はい。私も、行きます。だって、私も“鍵”として生まれたから。きっと、それには意味があるはずだから」


 私は、思わず彼女の手を取っていた。


「・・・アリアさんがどこへ行こうと、私はついていきます。だって・・・私はあなたを信じてますから」


「ありがとう、サラ。私、あなたが一緒なら、きっとどこまでも行ける気がする」


「・・・はい。私も、そう思います」


 夕焼けが、訓練場を赤く染めていた。

深紅の空が、私たちの決意を照らしていた。


──旅立ちの日は、静かに近づいている。

でも、もう怖くない。

“ひとりじゃない”と、思えるから。


 遠くで瞬く星々が、私たちの旅を導くように輝いている。

それは、誰かが呼んでいる声。

私たちは、その声に応えるように歩き出す。

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