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灼炎の転生魔女〜いじめ自殺から最強魔女の娘へ!前世の因縁、全部終わらせます〜  作者: 明鏡止水
3章 ゼスメリア生活・後編

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153.記憶は眠らない

 扉の向こうは、夜の静寂に包まれていた。

月が高く昇り、雲間からこぼれる光が石畳を淡く照らしている。


学院の裏手にある管理区域。

書庫の秘密の出入り口は、人目につかぬよう囲まれた中庭の陰に隠されていた。


 私たちは誰も口を開かず、ただ無言で並び立っていた。

ようやく地上に出られたという安堵と、持ち出した一冊の重み。


そして、この先に何が待ち受けているのかという、言葉にできない予感。

それらが、胸の奥で渦を巻いていた。


「・・・ここからは、各自で帰ったほうがいいね。さすがに目立つ」


 最初に口を開いたのはティナだった。

その声は小さく、けれど確かな響きを持っていた。


時計塔の針は、すでに午後九時を回っている。

当然ながら、もうとっくに下校時刻は過ぎていた。


「じゃあ・・・ここで解散?」


「うん。あの本、アリアが持ってて。内容、ちゃんと調べてみて」


シルフィンが私を見て、静かに頷く。


「うん、わかった」


 私は本を胸に抱き直し、みんなの顔を順に見渡す。

ノエル、ティナ、マシュル、ライド、シルフィン──疲労がにじむ表情の奥には、それでも確かな覚悟が見えた。


 ──この本の中身次第で、私たちはもっと深く“何か”に関わることになる。

けれど、誰一人として、それを恐れていない。


「・・・気をつけて帰って」


私はそう言って、小さく手を振る。


「アリアもね。変なやつに尾けられたりするなよ?」


ライドが肩をすくめながら冗談交じりに言う。


「こら。そういうこと言うと、ほんとに変なやつが出るんだから」


ティナが眉をひそめ、それを聞いた皆が、ふっと笑った。


 そうして──私たちはそれぞれ、夜の街に溶けるように散っていった。






 月影が舗道に伸び、風が遠くで木々の葉を揺らしていた。


私は自宅の方角へと歩き出す。

夜の通りは静まり返っていた。

街灯の光が交互に足元を照らすたび、私は本の存在を確かめるように腕に力を込める。


(・・・誰にも見られてないよね)


 背後を振り返る。けれど、気配はない。

今夜の街は、ただひたすらに穏やかだった。


やがて、自宅の前にたどり着く。

時間的に、母はもう寝ているはずだった。

灯りは落とされ、家の中に気配はなかった。


 ──今日に限ったことではない。母は、私が遅く帰ることがあるのを知っている。

かつて母自身もゼスメリアで、先生に隠れていろいろやっていたらしい。

だから、そのあたりは理解してくれているのだろう。


 私は静かに扉を開け、そっと中へと足を踏み入れる。

靴を脱ぎ、息を整えてから自室へ。

そのまま机の前に座ると、私はあの本をそっと広げた。


 ──クラリッサの記録。


装丁は古びているが、ページはしっかりしていた。

おそらく、魔法的な補強が施されているのだろう。


 最初の見開き。

筆跡は不揃いで、ところどころ震えていた。

まるで、感情がそのまま文字に刻みつけられているかのようだった。


 どうやらこれは、元々はある研究者の極めて私的な手記だったらしい。

学術記録ではない。言うなれば──日記。誰にも見せるはずのなかったもの。


 私は静かに、ページをめくっていく。




> “この魔法は、視界の奥にある“輪郭”を操作する。

他者の記憶から自分の姿を消すのは理論上不可能だ。

だが、“見た”という実感を削れば、それに近い効果は得られる──”




 図式や式が乱雑に描かれたページ。

「視界操作」「記録の抹消」・・・確かに、それらの技術が並んでいた。


(やっぱり・・・これは、ただの魔導書じゃない)


──この魔法は、何のために生まれたのか。

クラリッサは何を隠そうとし、あるいは、何から消えようとしたのか。


 考えが渦を巻く中、私はあるページで手を止めた。


> “私は彼女に似ていた。能力も、顔も、感情の壊れ方も──

だからこそ、あの子を実験には使いたくなかった。

けれど私は、もう・・・“そういうこと”を躊躇できる立場じゃなかった。”



 「彼女」──誰のことだろう?

文脈は語らない。だが、そこには確かに、何かが越えてはならない境界線を越えていた痕跡があった。


 私は深く息を吐いた。


(クラリッサ・・・やっぱり、あんたは──)


 知るべきなのだ。

過去に何が起きたのか。誰が傷ついたのか。

そして、それでもクラリッサが今、教師としてゼスメリアに立っている理由を。


私は本のページを戻し、もう一度読み直しはじめた。


 ──夜はまだ、終わらない。

そして、私の問いもまた、まだ始まったばかりだった。




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