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灼炎の転生魔女〜いじめ自殺から最強魔女の娘へ!前世の因縁、全部終わらせます〜  作者: 明鏡止水
3章 ゼスメリア生活・後編

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146.母の記憶、炎の記録

 帰り道、胸の奥はまだ熱を帯びたままだった。

クラリッサの残した言葉が、喉の奥でくすぶり続けている。


(母さんの“最後の罪”って、どういう意味だろう・・・?)


私は玄関を開け、家に入った。


 夕暮れの光が差し込むリビングでは、母がいつものように椅子に座っていた。

炎の大魔女──セリエナ・ベルナード。かつて“八大魔女”の一人としてこの世界を救った、偉大な魔女。


けれど、今こうして目の前にいるのは、ただの優しい“母”の顔をした女性だ。


 私の気配に気づいたのか、彼女が顔を上げた。


「おかえり、アリア。・・・今日の授業、どうだった?」


 私は一瞬、言うべきかどうか迷った。

でも、誤魔化せるような話じゃない。だから、正直に言った。


「・・・クラリッサ・アルバートって先生が来た。闇魔法の講師。覚えてるよね?」


母の微笑が、ほんのわずかに固まった。


「・・・ええ、覚えているわ」


「母さん・・・本当は、知ってたんじゃない?私の前に現れることを」


「予感はあったわ。まさか、教師として来るとは思わなかったけれど」


 母は椅子から立ち上がり、窓辺へ歩いていく。

その背中は、どこか昔の戦場を思わせるような、静かな緊張感を纏っていた。


私は口を開く。


「彼女、言ってた。『あの女にすべてを奪われた』って。・・・母さん、あの人と何があったの?」


 母は窓の外を見つめたまま、小さく息を吐いた。

そして静かに、過去を語り始めた。


「──私とクラリッサは、同い年でね。私はルージュ、彼女はヴィオレの組だった。最初から、何かと衝突していたわ。ゼスメリアに入学した時からずっとね」


「仲、悪かったの?」


「悪かったというより、火と氷みたいなものだったわ。彼女は冷静で理論的。私は感情で突き進むタイプ。魔力の発動から呪文の選び方まで、いちいち対照的だったもの。何かと張り合っては、口を利かない日が続く・・・そんな日常だった」


 母は懐かしむように笑ったけれど、その笑みの奥に、わずかな痛みがあった。


「五年生の春。ルージュに、彼が現れたの」


「彼・・・?」


 母は少しだけ目を細めた。


「──レオナール。レオナール・クレイヴァン。彼のことは、昔話したわよね?」


「うん。あまり詳しくは聞かなかったけど」


「彼は、アルフィーネからの転入生だった。

光魔法の使い手で、妙に気さくで・・・でも、芯はまっすぐな人だったわ。最初に出会ったのは、ルーン魔法の講義だった」


「レオナール・・・」


その名は、どこかで聞いたことがあるような、でも掴めない響きだった。


「彼は、すぐに私たちの間で話題になった。もちろん、クラリッサも興味を持った。・・・というか、最初に彼に好意を示したのは彼女だったのかもしれない。でも──」


 母の声が、すっと静かになる。


「彼が選んだのは、私だった」


「・・・」


「クラリッサは、あからさまに失望した表情を見せたことはなかった。でも、わかってはいたわ。彼女は、私を・・・ずっと許していなかった」


 窓の外、陽が沈みかけている。

母の横顔が、その光の中で少し寂しげに見えた。


「その後、私とレオナールは正式に交際を始めて、卒業後も一緒に行動することが増えた。私が“八大魔女”として邪神と戦った時も、彼はずっと私のそばにいた。・・・そして、私たちは夫婦になったの」


母は微笑んだ。

その目は、遠い記憶の中にいるようだった。


「あなたが生まれる前、私は・・・とても幸せだった。レオナールは、世界の誰よりも私を支えてくれた。私の炎を怖がらずに、ただそばにいてくれた」


 でも、と母は続ける。

その目に、僅かに涙がきらめく。


「私の出産が近づいたある日、彼は突然命を落とした。邪神の呪いだって、後でわかったけど・・・私は、彼の死とあなたの誕生を同時に迎えた」


私は言葉を失った。父のことは、以前少しだけ聞いたことがあったが・・・やはり、いつ聞いても悲しい話だ。


「クラリッサは・・・今でも、彼の死に“私が関わっていた”と思っているのかもしれない。自分から奪ったうえに、死まで招いた女だと。・・・だから、わざわざあなたに試練を与えに来たのよ」


「・・・じゃあ、私は“父の罪”の証人でもあるってこと?」


「違うわ、アリア。あなたは、愛から生まれた子よ。私と彼・・・レオナールが選び取った未来。誰に否定されようと、それは決して変わらない」


 母の手が、私の手にそっと触れる。


「クラリッサの目には、あなたの中に“私”が見えるのよ。だから、彼女はあなたを試す。でも・・・気をつけて。彼女の想いは、未だに炎のように燻っている。その炎は、あなたのものとは違う、“嫉妬”という名の火よ」


私は、母の目をまっすぐに見返した。


「母さん・・・私は、あの人に負けない。私の炎で、全部を照らしてみせる」


母は、静かに微笑んだ。


「ええ。あなたなら、きっとできるわ。私がそうだったように──いいえ、それ以上にね」


 そして、窓の外に目を向けながら、そっと呟いた。


「・・・レオナール。あなたの娘は、ちゃんと前に進んでる。安心して」



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