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灼炎の転生魔女〜いじめ自殺から最強魔女の娘へ!前世の因縁、全部終わらせます〜  作者: 明鏡止水
3章 ゼスメリア生活・後編

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145.罪の娘

 私は教壇の前に立ち、クラリッサと向かい合った。彼女は微笑を崩さず、優雅な所作で手を掲げる。


その指先から、黒紫の魔力が静かに広がった。まるで夜の帳のように、薄暗いヴェールが教室の床を覆っていく。


「──これは“視界干渉シャドウ・ビジョン”。心の深層に触れ、そこにある“真実”を炙り出す魔法です。怖がらなくて大丈夫。・・・抵抗しても、いいのよ?」


 私は一歩、前に出た。


「・・・抵抗するつもりなんて、最初からあります。全部、お見せします」


 クラリッサの眉が僅かに動いた。


「まあ・・・頼もしいこと。では、始めましょう」


 次の瞬間──視界が暗転した。

昼の教室が、闇に沈んでいく。

まるで光を奪われたように、周囲の景色が色を失っていった。


足元に、黒い波紋が広がる。


「・・・これは」


 闇の中、私の前に映し出されたのは──

燃え盛る屋敷。母が魔力を振るい、何者かと戦っている姿。

そして、その向こうで崩れ落ちる影。


(──これって)


それは、私の記憶ではない。

だけど、確かに“私の中”にあったものだ。


(これは・・・母の記憶・・・? それとも、“私の中の影”?)


 クラリッサの声が、闇の中で響いた。


「見えるかしら?──“あなたが何者か”を決めるのは、あなた自身ではない。血はすべてを縛るのよ。あなたの母が、何をしたか──その報いは、必ずあなたに降りかかる」


 その言葉に、私ははっきりと反論した。


「・・・だったら、私はその報いごと焼き尽くしてやる。母さんの過去も、あなたの恨みも、全部──私が終わらせる!」


叫ぶと同時に闇を貫き、魔力をほとばしらせた。

炎の奔流が視界を満たし、黒い霧を押し返す。


「『ブレイジング・ランス』!」


 火の槍が幾本も生み出され、闇の虚像を貫いていく。

それは、記憶でも、呪いでもない──私自身の意志が作った、“現実の光”だった。


すると空間が揺らぎ、周囲の“闇”が音もなく崩れ落ちるように消えていく。


 私の視界が元に戻ったとき、クラリッサはゆっくりと手を下ろしていた。 瞳の奥には──驚きと、かすかな警戒が宿っていた。


「・・・まあ。見事でしたわ、アリアさん。想像以上ね」


周囲の生徒たちはぽかんと口を開けている。 誰もが何が起きたのかわからない、といった顔だ。


 けれど、私たちだけはわかっていた── これは、“授業”なんかじゃない。

名もなき魔法の試合──否、“腹の探り合い”だった。


「これにて、本日の実技は終了です」


そう言って、クラリッサは一礼する。 だが、その微笑の裏にあったもの──それは、監視者の目だった。


(やっぱり・・・この人、ただの教師じゃない)


 私はそう確信していた。




クラリッサ・アルバート。 私に何かと絡んでくる、ジオルの母。

彼女はきっと、“何か”を確かめに来た。


そして、私はそれに“応えてしまった”。

だとすれば、もう後戻りはできない。





 ──放課後、誰もいない教室。


私は忘れ物を取りに戻ったつもりだったけれど、それはどこかでわかっていた。

クラリッサが、まだここにいることを。


窓辺に立つその姿は、まるで影の中に溶け込むようで──それでも、その瞳だけは、燃えるような深さを持っていた。


「来ると思っていましたわ。アリア・ベルナードさん」


 私は扉の前で立ち止まり、警戒を隠さずに言った。


「私に、何の用ですか?」


クラリッサは振り返らずに、淡々と答えた。


「用などないわ。ただ──少しだけ、あなたと話したくて。・・・あの女の娘と」


 その言葉に、私は息を呑む。


「・・・母さんのこと?」


「そう。セリエナ・ベルナード。かつて“八大魔女”と呼ばれた、炎の大魔女──あの女」


クラリッサは、ゆっくりと振り返る。


「優秀で、強くて、美しくて・・・そして、残酷だった。何もかも持っていた。人の心までも」


 私は、その言葉の奥にある“熱”に気づく。


「私とセリエナは、同じ男を愛した。私は、誰よりも・・・もちろんあの女よりも、あの人のことを想っていた」


クラリッサの目が鋭くなる。


「でも、彼が選んだのはセリエナだった。そして、彼女は躊躇なく彼を奪った。本来ならば、私と結ばれるはずだった男を」


「でも、それって──母さんは」


「私の気持ちも、彼の想いも・・・あの女は、全部自分のものにした。当然のように」


 声に、静かな怒りと痛みが混ざる。


「私の全てを否定したのよ。力でも、心でも、存在でも。だから私は、ずっと探していたの──セリエナの、弱点を。そしてようやく見つけたの・・・あなたという存在をね」


私は、胸の奥に冷たい針が刺さるのを感じた。


「別に、あなたを憎んでいるわけじゃないわ。あなたは、彼女“そのもの”ではないから。けれど──あなたの中には、確かにあいつの炎がある。あの炎を、私は一度も超えられなかった。だからこそ・・・私はあなたを試したの。今日の授業で」


 クラリッサは歩み寄り、私の頬に指先をそっと添える。


「でも──気をつけなさい、アリア。あなたがどれだけ強くなっても、“誰かを奪う炎”は、いつかあなた自身を焼き尽くすわ」


私はその手を振り払う。


「私は母さんじゃない。誰かの心を踏みにじるつもりなんてない。でも、誰かを守るために戦うことはやめない。あなたが何を見ても、それだけは変わらない」


 クラリッサの唇がわずかに歪む。


「・・・その瞳、あの人にそっくり。まったく、皮肉なものだわ」


そして、彼女は背を向けた。


「近いうちに・・・あなたは“真実”を知るでしょう。セリエナの残した“最後の罪”を。そのとき、あなたは──何を選ぶのかしらね、アリア・ベルナード」


 そう言い残して、クラリッサは静かに教室を去っていった。


私はただ、残された熱を感じながら、その背を見送ることしかできなかった。




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