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灼炎の転生魔女〜いじめ自殺から最強魔女の娘へ!前世の因縁、全部終わらせます〜  作者: 明鏡止水
3章 ゼスメリア生活・後編

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135.白炎、我を赦す

 柵の前に立つ“私”は、誰の声も届かない場所にいた。

周囲は、まるで音を吸い込むように静まり返っている。


風が吹く。夕暮れが影を伸ばす。

私はその後ろ姿に、言葉を投げかけようとして──息を飲んだ。


 その瞬間、視界がぶれる。

──落ちる。


私は、“あのときの私”の中にいた。

足元の感覚が消え、重力だけがすべてを支配する。


「やめ──っ」


 叫びは風に呑まれ、誰にも届かない。

視界に、空が。校舎の屋上が。遠ざかっていく。


風を切る音。急降下する重力。胃がひっくり返る感覚。

そして──激突。


 世界がひび割れた。

骨が砕ける音が、自分の中から響いた。

痛い、痛い、痛い──


でも、一番痛かったのは、胸だった。


(ああ・・・私、本当に・・・終わったんだ)


血の味。冷たくなる指。

目は開いているのに、空が遠くなっていく。

私は、自分の死を感じていた。確かに──。


・・・怖い。誰か・・・助けて・・・。


遅すぎる後悔が、ようやく溢れ出してきた。


本当は、生きたかった。どうして、あのとき・・・誰にも、言えなかったんだろう。


・・・なんで、私だけが。


誰か、誰か──。


 

 そのときだった。

焼け焦げた空の向こうから──声がした。 


「なら、立て。今度はもう、逃がさない」

 

「・・・え?」


 重力が消える。痛みが引いていく。

私は、柵の前に立っていた“私”の身体から、意識を抜かれるように抜けて、再び現在の“私”へと戻っていた。


手が、震えていた。

足が、すくんでいた。


 でも──


「私は・・・今度こそ、乗り越える」


 拳を握る。胸の奥から、熱が灯る。


泣き叫びたいほどの痛みも、孤独も、絶望も──今の私が受け止める。


「ごめんね、こんなに弱くて」


「いいの。私はもう、あなたを責めない。だって・・・あなたがいたから、今の私がいる」


 目の前の私は、静かに涙をこぼした。


「今の私には、仲間がいる。力がある。母の背中がある。そして、私は──私自身を許す」




 その瞬間だった。

内側から、何かがはじけた。


 

──ズン、と地が鳴った。

焼け焦げた世界の空が、割れたように音を立てる。


私の身体から、炎があふれ出す。

赤ではなく、朱でもない。


 それは──白炎。

空気を震わせ、現実すらも焼き変える、純粋な意志の炎。

すべてを焼き尽くし、なお残る“生きたい”という、燃えたぎる意志の炎だった。


「・・・これが・・・母を超える炎──!」


 髪が宙に舞い、瞳が紅蓮よりも深く、静かに燃えていく。

足元の大地が裂けるように、私の内面から現れた炎が世界を侵食していく。


白炎が空を染めた瞬間、封域の地がわずかに震え、焼け焦げた空に初めて風が吹いた。


 焼け焦げた空に浮かぶ校舎が白炎に包まれ、灰となって風に溶ける。

それを見送る私の目に、涙が一粒だけこぼれる。


過去を焼き、記憶を焼き、それでも残った“私自身”が──そこに立っていた。



“精神の扉”が、静かに音を立てて閉じていく。

そして、世界は崩れた。


 


 ──私は、次の瞬間、封域の石床の上に立っていた。


背後では、ルシウス先生が黙って佇んでいた。


「・・・おかえり、アリア。君は、超えたようだな」


 私は頷いた。


「はい。母の背中を・・・少しだけ、追い越せたような気がします」


 空を見上げる。

それは、かつてないほど透き通っていた。


 


まだ、試練は終わっていない。

けれど確かに、私はあの日の私を乗り越えた。


燃やし尽くして、それでも残った“今の”私を──信じて。


 




 封域から戻った直後。

学院の結界が、突如として不穏な震動を発した。


「・・・外で、戦闘が起きている!」


ルシウス先生の声に重なるように、警鐘が鳴り響く。

轟音。炎。空を切り裂く雷撃。


 学院の周囲を囲む森が、燃えていた。

そして──その中心に立つのは、一人の仮面の魔法使い。


「・・・久しいな、セリエナの娘よ」


くぐもった声が私の耳を刺す。

とは言え、面識のある声ではない。


「誰?」


「名乗るほどの者ではない。ただ、君を“壊す”ために来た」 


 強い・・・というか尋常ではないほどの魔力が、世界を圧迫する。

封域に入る前の私なら、気圧されただけで膝をついていただろう。


だが、今は──。


「面白いことを言うね。私を壊すって?・・・ごめん、それはもう、私がやったの」

 


 風が止まり、空が沈黙する。

次の瞬間、私の周囲に白炎が広がる。


赤でも朱でもない、光に近い“純白の炎”。

それは、あらゆる属性の干渉を拒み、空間さえも燃やす力。


「なっ・・・この魔力、まさか・・・!」


仮面の魔法使いは、一歩引いた。


 私は静かに両手を掲げる。

その手のひらから、白炎が剣のような形に凝固していく。


「これは私の意志。私の誓い。誰にも、何にも──踏みにじらせたりしない!」


仮面の魔法使いが詠唱を始め、雷が空から奔る。


「『雷槍・黒月(ドナル・シュピス)』!」


だが、私は臆することなく炎の剣を振るった。


「『煌炎陣(フラマクリス)』──!」 


 白炎が空を切り裂き、雷の槍を飲み込み、真っ二つにする。

重なった魔力がぶつかり合い、世界が軋むような音を立てた。


──そんな中、最後に立っていたのは、私だった。



「信じられん・・・我が雷を、消し去った・・・?」


 仮面がひび割れる。

中の男が膝をつきながら、私を見上げた。

十中八九、この男は邪神に心を奪われた者。邪な魔法使い(ダークマース)だろう。


「まだ、終わってない。これは始まり。あなたのような者がいる限り──私は、立ち続ける」


私が剣を掲げると、白炎が舞い、空に紋章を描く。


「──『白炎封印(ブランフラム)』」



仮面の男が悲鳴をあげ、空間ごと白炎に呑み込まれていく。

数秒後にはただの灰と化して、風に溶けた。


 


 戦いの後、私は静かに剣を消す。


「もう二度と、私は私を殺させない」


その言葉は、自分への誓いだった。

かつて自ら死を選んだ少女ではなく、“今”を生きるアリア・ベルナードとしての、魂の宣言だった。

 

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