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灼炎の転生魔女〜いじめ自殺から最強魔女の娘へ!前世の因縁、全部終わらせます〜  作者: 明鏡止水
3章 ゼスメリア生活・後編

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129.灼き尽くすもの

 学院長室の奥、闇に包まれていた空間は、意外なほど整然としていた。

書棚や文書の山、封印された魔道具が秩序立てて並んでいる。


「・・・なんて量の書類なの」


ティナが息を飲み、足早に机の上に積まれた文書へと向かう。

その指先が、いくつものファイルを素早くめくっていくたび、彼女の表情が険しくなっていった。


「これは・・・“適性選抜試験計画案”、それに“儀式候補生の洗い出し”・・・生徒一人ひとりの魔力量、精神的脆弱性、家庭環境まで、全部記録されてる・・・!」


 机の奥には、ヴァルグスの直筆と見られるメモが挟まっていた。


『──有望な者ほど、より強い神意に反応する傾向。選抜試験を儀式の前哨とすることで、効率的な素材の抽出が可能』


ティナの顔から血の気が引いた。


「これは・・・完全に黒よ。あの女、やっぱり生徒を“育ててた”んじゃない。”選別してた”のよ、邪神の生贄として、ふさわしいかどうかを・・・!」


「・・・っ!」


ライドが思わず壁を殴りつけた。

石材に小さくひびが入るが、彼の怒りはそれでは収まらない。


「ティナ、これを使って」


 私はポーチから取り出した小型の魔法結晶を差し出した。

これは俗に記録機と呼ばれるものの一種で、その場の写真を撮ったり、書類などを中に収納し、保存できる。


前世で言うところのカメラなどに近いか。

まあ、この世界にもカメラはあるのだが。


「ありがとう。これなら、外部に記録を送れるはず・・・!」


 ティナはすぐに魔力を集中し、浮かび上がらせた術式を文書の上に展開する。

浮遊する光のレンズが、山積みの書類を次々と記録しはじめた。


──だが、次の瞬間。


「・・・!?おかしい、魔力が・・・逆流して──!」


ティナの術式が歪む。まるで、何かに“呪われて”いるかのように。


「ティナ、下がって!」


 ノエルがとっさに土の障壁を展開し、ティナを庇う。だが、文書の山から黒い鎖のような魔力が伸び、レンズごと術式を破壊した。


「記録妨害の封呪・・・!情報を、持ち出すことを封じる魔法が施されてる・・・!」


ティナが歯噛みする。


「なんて周到なの・・・記録機さえ使えないなんて」


 私はリーヴァを構えながら言った。


「なら、現物を持ち出すしかない。処分される前に!」


「でも、全部は・・・!」


マシュルが、慌てて周囲を見回す。


「重要そうなものは、何点かこっちで選ぶ!」


ティナがすぐに切り替え、書類の中から重点的な記録を選びはじめる。


 そのとき、空間がわずかに揺れた。

微細な魔力の振動──誰かが、こちらに向かっている。


「・・・急ごう。結界を破ったから、向こうにも気づかれたかもしれない」


シルフィンが、静かに言った。


「まだ証拠は足りない。でも、ここまでの記録だけでも、十分告発はできる。あと少し・・・!」


 ティナが集中し、選んだファイルを魔導晶に収納する。

そのときだった。部屋の奥、何もなかったはずの空間に、ゆらりと揺れる影が生まれた。


「・・・何か来る!」


その影は、黒い触手のように揺れながら、空中に蠢き始める。


「アリア!止めるわよ!」


 母が前に出ようとするが、私は一足先に前に出た。


「ええ・・・言われるまでもないよ、母さん」


 誰かの命を喰らうように嗤うその影に、私はリーヴァを向けた。



 その黒い影は、ただの魔物ではなかった。

まるで意思を持つように空間を這いまわり、文書の山や魔導具の上を這うたびに、あたりの魔力を濁らせ、腐蝕させていく。


「・・・これ、ただの魔物じゃない・・・!」


ノエルが怯えたように呟く。

その視線の先、黒い影がずるりと壁を這い、歪んだ顔のような“何か”が浮かび上がった。


 私は息を呑み、その気配を見つめる。


「──“黒い塵”!」


 私が言うと、母もすぐに頷いた。


「ええ、間違いないわ。“黒い塵”・・・邪神の力が、思念として染み出して魔物化したもの」


その言葉に、ティナたちがざわめく。


「邪神の・・・思念体!?そんなの、どうやって・・・!」


「ここの学院長が、それを“飼ってる”のよ。邪神の忠実な下僕、邪なる者(ダークマース)として」


 母の言葉に、皆が一斉に背筋を正した。


邪神ガラネル、そして邪なる者(ダークマース)のことは、この場にいる誰もが知っている。

だが、彼らがこのような存在を使役していることは、私と母以外知らなかっただろう。


「だから記録が妨害されたんだ・・・こいつが、邪魔してたんだ」


 私はリーヴァを構え直す。


黒い塵は、気づいたようにこちらへと目を向け──いや、目のような“裂けた穴”を向け、ぞぶり、と音を立てて近づいてきた。


「気をつけて。あれに触れたら、ただでは済まないわ」


 母が言い、赤く燃え上がる魔力をその手に灯した。


「なら──燃やそう。焼き尽くそう」


私は同じく、掌に炎を灯す。母の赤と、私の紅が、空中で共鳴するように揺らめいた。


「アリア、合わせましょう」


「うん・・・!」


 私と母の魔力が、一点に集中していく。部屋の空気が熱を帯び、黒い塵の動きが鈍る。


「──『紅焔連弾(クリムゾンブレイズ)』!」


二人同時に放った炎の奔流が、黒い塵に襲いかかる。


 轟音が響き、空間が軋み、灼熱が走る。

黒い塵は悲鳴のような音を立てながら焼かれ、その形を崩していく。


だが──黒い塵は、なおも抗う。

焼かれながらも、触手のような影を伸ばし、母の足元を狙った。


「させない!」


 私は即座にリーヴァで薙ぎ払い、残った炎を集中させて叩きつける。

灼熱の斬撃が黒い塵を裂き、中心核を貫いた。


その瞬間、黒い塵は甲高い金属音のような叫び声を残し──崩れ、黒い煤となって床に散った。




 しばらくの静寂。

母と私は、火の名残の中で視線を交わす。


「・・・よくやったわ、アリア」


母が微笑みながら、私の肩に手を置いた。


「ありがとう、母さん。でも・・・まだ終わりじゃないよね、本命は、ヴァルグスだもの」


「ええ。あの女を倒さないことには、終わったとは言えないわ」


 私たちは改めて前を向く。

まだ、奪われた生徒たちは取り戻せていない。この学院を、そしてこの世界を蝕む“黒い意志”は、まだ根を張っている。


「行こう、みんな。ここからが・・・本当の地獄よ」


そう言って、私は奥の扉──結界の奥の奥へと続く扉に、手をかけた。



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