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灼炎の転生魔女〜いじめ自殺から最強魔女の娘へ!前世の因縁、全部終わらせます〜  作者: 明鏡止水
3章 ゼスメリア生活・後編

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120.小さな約束

 試験が終わって数日。学院は、短いけれど確かな「夏休み」に入った。


ゼスメリア魔法学院には寮がないから、生徒たちは皆、各自の家に戻ることになる。

でも──私たちは、どうしてもこの節目を“みんなで”過ごしたかった。


 行き先に選ばれたのは、学院から少し離れた森の外れにある、リラエル湖。

木々に囲まれたその場所は、夏でも水が透き通っていて、小鳥のさえずりと涼しい風が心地よい。


「アリア、のんびりしすぎー!先に行くよ!」


湖の浅瀬から、ティナが元気に手を振っている。


私はというと、まだ水際で足を止めていた。


「・・・うーん、やっぱり泳ぎって、ちょっと苦手かも」


 水着の肩紐をぎゅっと引き上げながら、独り言をこぼす。


前世──鈴木三春だったころも、あまり泳げなかった。

顔をつけるのすらちょっと怖くて、プールの授業が嫌いだったのをよく覚えてる。


「無理しなくていいよ、アリア。水に足をつけてるだけでも、気持ちいいし」


 隣にいたシルフィンが、柔らかく笑った。

白い水着の上から羽織った薄布が風に揺れていて、なんだか大人っぽい。


「もし怖かったら、僕が浮かせ魔法かけてあげようか?」


 ライドが浮き輪の代わりに、簡易の魔導浮遊石を差し出してくれた。

水の上にふわりと浮かぶ、魔法で編まれた安全帯。


「おれはもう行くぞー!」


マシュルが水辺を走って、そのままバシャーン!と飛び込んだ。

大きなしぶきに、ティナがきゃっと悲鳴を上げる。


「マシュル! 水、かけすぎ!」


「へへっ、夏はこうじゃないと!」


 そんな賑やかな声を聞きながら、私はそっと湖に足を入れてみた。

ひんやりしてて、でも・・・悪くない。


「ね、アリア。ほら、手。行こっ?」


ティナがいつの間にか戻ってきて、私に手を差し伸べていた。

ためらっていた気持ちが、するりと溶けていく。


「うん・・・ちょっとだけ、ね」


 私は頷いて、その手を取った。

リーヴァは今日は持ってきていない。母さんと一緒に、再調整のために魔力工房へ預けてきた。


あの杖──私と一緒に、生まれ変わってくれたリーヴァ。

きっと今も、静かに私の魔力を感じてくれている。


「ふふっ、なんかアリア、ちょっと嬉しそう」


「・・・うん。たぶん、嬉しいんだと思う」


 前世では、こういう時間ってあまりなかった。

遊びの最中も、どこか“正しくいなきゃ”って思ってた。


でも今は──そうじゃない。


「アリアー、こっちまでおいでよー!」


先に泳ぎ出したシルフィンが、湖の真ん中あたりで手を振っていた。


「・・・よしっ」


 私は小さく息を吐いて、一歩、また一歩と湖の中へ入っていく。

水の中は冷たくて、でもそれ以上に、心の奥がじんわりあたたかかった。


湖の向こうには青い空が広がっていて、雲が少しだけ、秋を感じさせる形をしていた。




 ひとしきり遊んだあとは、みんな湖畔の木陰に集まって、それぞれ思い思いにくつろいでいた。昼寝したり、持ち寄った果物をかじったり、夏の空気をのんびりと楽しんでいる。


私はそっとその輪を抜け出し、湖の反対側にある小さな岩場に腰を下ろした。


水面は夕陽を映して、金と青が混ざりあったように揺れている。足をそっと水に浸すと、冷たさが心地よかった。


「アリア、ここにいたんだ」


 振り返ると、シルフィンがタオルを肩にかけたまま歩いてきた。濡れた髪を無造作に後ろで束ね直して、私の隣に腰を下ろす。


「うん。ちょっと静かにしてたくなって」


「分かる。ここ、風の音と水の音が心に優しいから」


 二人並んで湖を見つめていると、不思議なくらい言葉が自然に浮かぶ。


「今日、すごく楽しかったね」


「うん。・・・こういうの、ずっと続いてくれたらいいのにって思っちゃう」


 そう言って、シルフィンが小さく笑った。風が白い羽織を揺らし、彼女の横顔をやわらかく照らしていた。


「・・・ねえ、アリア」


「ん?」


「私ね、将来は魔法薬剤師になりたいの」


その声は湖のさざ波よりも静かで、でも芯の通った響きを持っていた。


「薬草を育てたり、調合したりするのがずっと好きだったんだ。小さい頃に母からもらった占星盤で星の流れを見るようになって・・・それが今でも続いてる」


「占星術と薬草って、なんか似合うね。シルフィンらしい」


「ふふ、ありがとう。どっちも、魔力の流れや人の気持ちとつながってるから好きなの。薬ってね、ただ効くだけじゃないんだ。使う人の心に寄り添えるものを作りたいって思ってる」


「・・・それ、すごくいいね」


 私は頷いた。

彼女の魔法は、時折誰かにやさしく届いているような気がしていたが、その理由がようやく分かった気がした。


「アリアは・・・どうしたいの?」


その問いに、私は少しだけ黙った。


母さんと過ごした時間。試験の日に交わした想い。壊れかけたリーヴァが、もう一度応えてくれたこと。


「まだはっきりとは言えないけど・・・でも、守れる人になりたい。誰かの『大事なもの』を、失わせない力がほしいって思う」


 シルフィンがそっと微笑んだ。


「・・・アリアらしい」


「そうかな」


「うん。ね、もし私が薬を調合して、どこか遠くへ届ける仕事をしてたら──」


「うん?」


「そのとき、アリアが護衛になってくれたら安心かも。すっごく、頼りになるし」


 私は思わず吹き出した。


「そっかぁ。じゃあ、契約料は高めに設定しておこうかな?」


「ええっ、値引きなし? 友達割とか・・・」


「ふふ、気が向いたら考えるよ」


 二人で笑いあった。


日差しは少しずつ傾いて、湖面がきらきらと黄金色に染まっていく。

遠くからティナの笑い声と、マシュルの「焚き火できたぞー!」という声が届いた。


「・・・そろそろ戻ろっか」


「うん。ありがとう、アリア。今日、一緒にいてくれて」


「こちらこそ。楽しかった」


 二人で立ち上がり、濡れた足をタオルでぬぐいながら、シルフィンがふとつぶやいた。


「未来って、たぶんこういうふうにできていくんだろうね。誰かと話して、少しずつ、気持ちを重ねて」


「うん。そう思う」


 そよ風が私たちの髪をやさしく撫でる。  その手触りは、あの日リーヴァが揺れた時と同じ──静かで、でも確かに“今”に繋がっているものだった。



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