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灼炎の転生魔女〜いじめ自殺から最強魔女の娘へ!前世の因縁、全部終わらせます〜  作者: 明鏡止水
3章 ゼスメリア生活・後編

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118.リーヴァと影の羽

 夏の朝は、いつもより早く空を明るく染める。


今日は、いよいよやってきた試験本番。

ゼスメリアの中央演習場は、まるで一国の祭礼でも始まるかのような熱気に包まれていた。


白い幕で囲まれた広場の奥には、試験官用の高台が設けられ、その周囲には見学に訪れた生徒たちの姿もちらほら見える。


「緊張してるか?」


 控え区画のテントで、マシュルが腕を組んで立っていた。だがその口元は少しひきつっている。


「・・・正直、おれ、さっきから三回深呼吸した」


「それで落ち着いたの?」


「まったく。今ので四回目」


 思わず私は吹き出しそうになりかけるが、ぐっとこらえた。笑うには、まだ早すぎる。


「アリア、こっち」


シルフィンが呼ぶと、ティナとノエルもすでに集合していた。彼女たちの装備は軽装ながら、各自の属性に合わせた補助結晶が備えられていて、まさに“実戦”の構えだ。


「改めて確認。今回の試験、内容は“複合遺跡における調査と討伐”。時間内に拠点へ到達し、指定魔物を討伐して帰還するのが目標」


 ライドが端末を見ながら説明を始める。彼は冷静だ。緊張もあるはずなのに、いつも通りのトーンで話すその姿に、私たちは自然と安心する。


「地図は支給されるけど、魔力干渉のせいで視認は限定的。索敵は僕とティナに任せて。アリアとシルフィンは攻撃担当、ノエルは援護と結界展開だ」


「了解」


それぞれが頷いた。


 私の手の中で、リーヴァが微かに震えた。これは恐れじゃない。むしろ、期待──私の中の炎が、扉の向こうで待つ“未知”にうずうずしているのだ。


「あと十分で出発ね」


ティナが時計を確認する。その瞬間、空に鐘の音が鳴り響いた。


 試験、開始の合図。


控え区画の幕が開き、陽の光が差し込んだ。蒸した夏の匂い、遠くの鳥の鳴き声、そして観覧席からのざわめき。それらすべてが、現実の重みとして私たちの肩にのしかかる。


「さあ、行こうか。燃やしに行こう、今年の夏」


 私がそう言うと、マシュルが大きく手を叩いた。


「いいぞ、アリア!やる気出てきた!よっしゃ、燃やすぞぉぉぉ!!」


「・・・マシュル、それ違う意味になってるわよ」


 ノエルがため息をつき、皆が少しだけ笑う。 それでも、その笑顔は確かだった。


恐れではなく、自信。自分の力を信じ、仲間を信じることでしか生まれない、静かな決意。


「じゃ、行こう。これが、私たちの第一歩になる」


 私は、仲間たちと共に試験場への扉をくぐった。

眩しい夏の光の向こうに、私たちの答えがある。



 演習場の外れにある遺跡エリア──今回の試験の舞台は、過去に別の場所で発掘された「魔力汚染区域」を魔法で再現したエリアだった。


苔むした石壁と、今にも崩れそうな古い塔。そこに漂う、わずかに刺すような魔力の気配。

時間とともに沈殿した“濁り”の中を、私たちは進んでいく。


「空気が重い・・・魔力の流れが乱れてるわね」


 ノエルが結界用の水晶を手に、顔をしかめる。


「進行方向、微かに熱反応。魔物の痕跡があるよ」


ティナが索敵用の光結晶をかざすと、淡い光が前方を照らした。

そこに浮かび上がったのは、地に染みついた焦げ跡と、乾いた羽根のような黒い破片。


「・・・火属性の痕跡。最近、誰か戦った?」


 シルフィンが私の方を見る。


「わからない。でも、進むしかない」


私たちは、警戒しながら奥へ進んだ。


 ──やがて、開けた広間に出た。

そこには、濁った魔力の中心があった。


「出るぞ!」


マシュルが叫ぶと同時に、足元の魔方陣が淡く輝き、煙のような影が地面から立ち上る。

それは形を取るごとに、大型の羽虫のような外殻をまとい──まるで“影の羽獣”だった。


「討伐対象──『ワルム・フォッサ』!距離、十五!」


 ライドが叫ぶ。即座に全員が展開へと移る。


「ノエル、結界!」


「張った!」


ティナの前に展開された光の盾が、羽獣の衝撃波を受け止める。

その間に、ノエルが土の塊を召喚し、地面から杭を突き出した。


「足止めする──!」


 杭が命中し、羽獣の動きが一瞬鈍る。


「今よ、アリア!」


「よし!・・・燃え上がれ!」


私は杖を振り上げ、リーヴァに魔力を集中させる。

炎は直線となり、杭に縛られた羽獣の胸部に一直線に叩き込まれた。


だが──それは難なく跳ね返された。


「っ・・・固い!」


 黒い羽がうねり、反撃の風圧が襲いかかる。

ティナが素早く結界で受け止め、次の瞬間──


「アリア、交代!私が行く!」


シルフィンが滑り込む。

彼女の手から放たれたのは、低温で舞う“拘束炎”。

それは足元を円を描くように走り、羽獣の動きを封じていく。


「マシュル、頭を叩ける?」


「やってやるよ!」


 マシュルが跳躍し、拳に圧縮した水塊を纏わせる。

そして、羽獣の頭部に一撃。


粉塵が舞い、羽が砕け飛ぶ。


「今度こそ──リーヴァ、行くよ!」


私は全魔力をこめて炎を放った。

今度は、跳ね返されない。砕けた羽の隙間をすり抜け、炎が核心へ届く──!


「──撃破、確認!」


 ライドの声と同時に、羽獣は魔力の塊を残して崩れ落ちた。


静寂が戻る。


息を呑んで、私は杖を下ろした。

まだ、鼓動が速い。でも──怖くなかった。


「・・・全員、無事?」


「問題なし。おれはちょっと、腹が減ったけど」


「マシュル、それはいつものことでしょ」


ティナがあきれたように言い、シルフィンが静かに微笑む。


「──でも、うまくいったね」


「うん。誰も欠けずに、勝てた」


その瞬間、持たされていた端末が同時に点滅した。


《試験成功──拠点帰還可能》


「・・・終わった、のか」


ノエルが小さく息をつく。


「いや、始まったんだろ」


ライドが言う。


「ここからが、“次のステージ”だよ」


私たちは顔を見合わせ──そして、笑った。


 この夏、私たちは確かにひとつになった。

名前を持った炎、支え合う風、響き合う光、護りの水、揺るがぬ大地。

全ての力が重なり合って、一つの“勝利”を手にした。


 ──これは、始まりにすぎない。

でもきっと、何年経っても忘れない。

この夏の、輝きだけは。



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