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灼炎の転生魔女〜いじめ自殺から最強魔女の娘へ!前世の因縁、全部終わらせます〜  作者: 明鏡止水
3章 ゼスメリア生活・後編

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110.春を越えて

 試験当日の朝。空は澄みわたり、まだ冷たい空気が、肌をぴりりと刺した。


学院の演習場には、四年生たちの緊張が張り詰めていた。

それぞれのペアが、指定された番号のエリアに立ち、試験官の先生の合図を待っている。


「次、第六班。アリア・ベルナード、ノエル・ルシリス。前へ」


 名前を呼ばれた瞬間、心臓がひとつ大きく跳ねた。


「・・・行こう」


ノエルが、私の横で言った。私はうなずき、ふたり並んで前に進む。


周囲の視線が刺さる。

“灼炎の女皇”の娘の出番とあって、みんなの注目はひとしおだ。


 多くの生徒は、私が属性の異なるノエルと組んだことを意外に思っているだろう。シルフィンたちにさえ、最初はそう言われたのだから。


けれど、別にいい。

私たちは、お互いの間にあったわだかまりを超えて、ここに立っているのだから。


「準備が整い次第、始めろ」


 試験官の静かな声。

すでに魔力の流れを整えていた私は、ノエルと軽く目を合わせる。


「──行くよ」


「うん、任せて」


演習エリアに、魔物型の試験標的が次々と展開される。鋼の体、素早い脚、簡単な魔法耐性を備えた擬似戦闘体。


まずはノエルが地に手をつけ、即座に地脈を探る。

数秒後、標的の周囲にいくつもの石柱と地盤トラップが出現し、封じと誘導の準備をする。


「アリア、今!」


 私は右手を掲げ、魔力を集中させる。

喉の奥が熱を帯び、胸の奥の炎が、静かに燃え始める。


(母さん・・・私は、私の火で進む)


「──『緋葬ノ華(インフェリスロザリア)』!」


 灼熱の炎が、石柱の導線を通じて一気に奔った。

ノエルの作った地脈が、熱の流れを正確に操り、炎はまるで花のように標的を包み込む。


魔物型標的は、逃げる間もなく崩れ落ちた。

続いて現れた第二波、第三波。標的の動きは速く、連携が狂えば突破される。


「後ろ!回り込まれる!」


「任せてっ!」


ノエルが咄嗟に足元を崩し、標的の足を止めた。その瞬間、私は跳躍し、魔力を集中させる。


 ──熱とともに、心が燃えた。


自分のためでも、誰かを焼くためでもない。

これは、「守る」ための火。


「『焔の槍(ブレイラムス)』!」


炎の槍が、光の尾を引いて標的の胸を貫いた。  


地と火の連携。まるで何度も重ねた舞台のように、ふたりの呼吸はぴたりと合っていた。


 数分後、最後の標的が崩れ落ち、演習場に静けさが戻る。


「──終了だ」


試験官の声が響いた瞬間、私たちはようやく肩の力を抜いた。


「・・・やった、ね」


ノエルが、小さく息を吐いて笑った。私も、自然と笑みを浮かべる。


 観覧席の生徒たちが、ざわついているのが見えた。

これまであまり注目されてこなかった私たちのペアが、ここまでの連携と威力を見せたのだ。当然だろう。


でも、それが誇らしかった。


「第六班──アリア・ベルナード、ノエル・ルシリス。合格。成績、上位通過」


 試験官の無機質な声に、数人の教官が頷き、ひそひそと何かを話しているのが見えた。


けれど、そんなことはどうでもよかった。


「ノエル」


「ん?」


「ありがとう。あなたと組めて、よかった」


「・・・ううん、こっちこそ。アリアが、私を信じてくれて・・・本当に、嬉しかったよ」


 手を伸ばすと、ノエルがその手を握った。

あの頃と違う。これは、過去から生まれた赦しではなく、いまの私たちが築いた“信頼”だ。


私はもう、“三春”じゃない。

ノエルも、“美紗”ではない。


 私たちは──ここから、先へ進む。






 夜、私は小さく炎を灯して、その揺らぎを見つめていた。

燃え尽きたわけではない。でも、確かにひとつの区切りを越えた手応えがあった。


 ──けれど、それだけで終わりではない。


 今日やったのは、あくまで一次試験。

二次試験は、個人での実技と筆記、そして魔導理論と応用制御の応答面接。

一次のような派手さはないが、実力と理解の真価が問われる“本当の選抜”だ。


「一緒に勉強しようか」


そう言ってくれたのは、もちろんノエルだった。


 図書室の上階、静かな書架の合間にふたりで並び、魔導理論書に向き合った日々。

時に煮詰まり、時に笑い、時に無言でうなずき合う──そんな時間が、以前より自然に感じられるようになっていた。


「意外と地属性の魔力って、“緩やか”なようで、急激な集中点を持つのね」


「うん。炎みたいな爆発系魔法と合わせると、“集中破砕”に向いてるんだって。・・・だからね、あなたの扱う炎魔法とは、本当はすごく相性がいいのよ」


「・・・ふふ、今さら気づいたの?」


「気づかせてくれたの、アリアだから」


 そんな言葉を交わせる自分たちを、ふと“あの頃”の自分たちが見たらどう思うだろう──そう思って、私は小さく笑ってしまった。


 


 ──そして、試験は過ぎていった。


思っていたより筆記の難易度は高く、実技の制御でも冷や汗をかいた。

それでも私は、逃げなかった。誰のためでもない、自分のために。未来のために。


 


 数日後。

春の風が学院の塔を吹き抜けた朝。


正門の掲示板には、二次試験合格者の名簿が張り出されていた。

いつもより早く登校した学生たちがざわつきながら、その文字を追っていた。


「・・・あった」


 思わず声に出していた。

──第六班:アリア・ベルナード、ノエル・ルシリス。

一次・二次試験通過。五年生進級認可。


肩の力が抜けた。その瞬間だった。


「アリア!」


 後ろから駆けてきたノエルが、掲示板の自分の名前を見つけた瞬間、ぱっと表情を明るくした。


「やった、やったね!本当に・・・!」


「・・・うん。私たち、五年生になれるんだね」


お互い、目を見合わせて、ただ言葉が出てこなかった。

胸の奥がじんわりと熱くなる。


 そして、ふとノエルが腕を広げた。


「・・・抱きしめていい?」


私は一瞬驚いたけれど、すぐに笑って、うなずいた。


「うん」


 ノエルがそっと抱きついてきて、私も静かにその背を抱き返した。

苦い過去を越えたその腕は、温かくて、確かな未来をつかむように強かった。


「ありがとう、アリア。あなたが信じてくれたから、私・・・ここにいられる」


「違うよ、ノエル。あなたが、自分でここまで来たの」


私の声は静かだったけれど、心からだった。


「・・・ふたりで、ちゃんと、ここまで来たんだね」


目を閉じると、春の風が、制服の裾をふわりと揺らした。




 冬を越えて、私たちは歩き出す。

──もう逃げない。もう過去に引きずられない。


私は、“アリア”として、“灼炎の女皇”の娘として。

そして、“鈴木三春”だったすべても背負って、未来を選んでいく。


 隣には、あの日見捨てた美紗ではない、いまを生きる“ノエル・ルシリス”がいる。


ふたりの影が、朝の光の中、静かに並んで伸びていた。

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