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灼炎の転生魔女〜いじめ自殺から最強魔女の娘へ!前世の因縁、全部終わらせます〜  作者: 明鏡止水
3章 ゼスメリア生活・後編

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105.白の季節、影の息吹

 雪の匂いがした。

朝の空気は乾いていて、息を吐くたびに白くほどける。

学院の石畳は凍りつき、窓の外には霜をまとった枯れ枝が、空を刺すように伸びていた。


冬が来た。

けれどそれは、ただの季節の移り変わりではないように感じられた。



 あれから、私は何度も母から渡された本を読み返した。

羊皮紙の走り書きも、もう暗唱できるほどに繰り返しなぞった。


──マティアは“すべて”を受け入れた。だが、世界はそれを拒んだ。


その言葉の意味が、少しずつ肌にしみ込むように広がっていく。



 私自身の中でも、魔力の“揺らぎ”が大きくなってきているのを感じる。

授業中に魔力がうまく制御できなかったり、触れていないのに炎が揺れたり──

シルフィンに指摘されたこともある。


「・・・最近、あなたの魔力の境界が曖昧になってる。ちょっと、普通じゃない」


 ──分かってる。分かってるけど、それを誰にも言えなかった。


“マティアと同じ”かもしれないという事実は、どこかで私を縛っている。

私自身が、まだそれを受け入れきれていないから。


 


 そんなある日、学院の講堂で冬季演習のための合同集会が行われた。その場に、久々に姿を見せたマシュルもいた。


彼は、どこか変わっていた。体調はまだ万全とは言えないのに、その目は以前よりもずっと深く澄んでいた。


演習後、ふたりで講堂裏の渡り廊下に出ると、マシュルがぽつりとつぶやいた。


「・・・夢、見たよ。また、あの“灰色の場所”で」


 私は思わず立ち止まる。


「マティア、だった?」


「うん。でも、今回は・・・こっちを見た。はっきりと。黒い瞳が、おれを見てた」


 マシュルの声は震えていなかった。むしろ、静かだった。

その背に積もった雪が、音もなく肩から落ちていく。


「“あなたも、まだ選べる”って言われた気がする。・・・あれは、たぶん俺に向けてじゃなくて、誰かの“記憶の中の声”だった。でも、届こうとしてた。ずっと、誰かに」


私は息を呑んだ。

それは──たぶん、私への言葉だったのかもしれない。


選ぶこと。どの魔力に染まるかではなく、どんな“あり方”を選ぶのか。


 


 夜、部屋の窓辺で一人、私はまた本を開いた。

羊皮紙はもう何度も触れたせいで、端が柔らかくなっている。


その隅に、小さく印された印章があることに私は初めて気づいた。


 ──Mの文字。それは、マティアの名の頭文字。

だとすれば、この羊皮紙は・・・彼女自身が書き残したもの?


ページの奥底で、何かが、確かに息をしている。


 私はそっと、目を閉じた。



(もし、この力が“拒絶”ではなく、“受容”のためにあったのなら──私は、それを・・・受け継いでいいのだろうか?)



 窓の外では、静かに雪が降り始めていた。


白はすべてを覆う。

けれど、白の中にも“影”は存在する。


私はその影の中に、マティアの記憶と、未来への小さな灯を見た気がした。





 寒さの厳しい雪の残る石畳を踏みながら、私は廊下を歩いていた。

冬の光は淡く、空は薄い雲に覆われていたけれど、その下を行き交う生徒たちの声は穏やかで、どこか緩やかだった。


朝の補講を終えたばかりで、私は少しだけ気を抜いていた。

マシュルとシルフィンは先に魔法薬学の実習室に向かっていて、私は一人で荷物を取りに戻る途中だった。


 ──そのときだった。


「魔物の反応多数、南西斜線上!」


 耳の奥に直接響いてくるような、魔力を帯びた伝声が鳴った。学院の全生徒と教師に届く、緊急通報。


「数は不明。いや・・・数百体規模!魔物の群れだ!魔物の群れが、学院に近づいている!」


私は足を止めた。背筋に、氷の棘のような冷たさが走る。


 次の瞬間、遠くで鳴り響いたのは爆音──魔法障壁の破砕音。

そして、空気そのものが震えたような感覚。空間が、歪んでいる。


生徒たちの悲鳴が、廊下を駆け抜ける。


「アリア!」


 駆け寄ってきたのはノエルだった。

その顔は蒼白で、肩で息をしている。


「南の森から、魔物が一斉に襲来してるって・・・!今、五年生と六年生、それから教師陣が応戦してる。でも、数が尋常じゃないって──」


私は無言で頷いた。


「避難誘導班に合流しよう。下級生たちがまだ、講堂に残ってるはず!」



 走り出したノエルの背を追いながら、私は握った拳に力を込めた。

冬の空気が、焼け焦げるような気配を孕んでいる。


何かが、来ている。

ただの襲撃じゃない──これは、何かもっと、大きな“意志”の気配だ。


(これは・・・何かの前兆だ、きっと)


 


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