彩芭葵の心日記
彩芭葵〔いろはあおい〕が心に刻んだ思い出。
〇第一章 葵
彩芭 葵。十七歳。好きなものは、可愛いものと綺麗なもの。
嫌いなもの、嫌いなことは…葵自信を否定されること。恐怖を与えてくるもの。
そして一人称は...僕でもなく私でもなく‘‘葵‘‘
葵は、好きなことに対してはとことん追求して極め突き詰めるタイプ。
葵をどの様な人と見るか...どの様に捉えるかはあなたにお任せします。
だって葵自身は葵の事を…葵だとしか認識していないから。
葵は、必ず会ったみんなからあることを聞かれる。
それは...性別の事。
葵って自身を男の子だとか女の子だとかって認識したことが一度もないんだよね。
だって、葵は性別‘‘葵‘‘って認識なんだよね。
世の中から見たら何それって思われるかもしれないけど、それが葵という一人の人間。
両性?無性別?不定性?葵はどれになるんだろう?
葵は、学校の制服もスカートを履く日もあれば、スラックスを履くときもある。
葵の通う学校は、ある程度は自由が利いていて...ネクタイを付けたければネクタイ。リボンを付けたければリボンをつけていいことになっているんだよね。
そこでは、‘‘性別‘‘というモノに縛られることなくいれる。
葵は、自分らしく生きることが一番と言っても過言ではないくらいに、幸せを感じる時なんだよね。
今、葵が話せる全てがこれなんだけど...そんな葵にも色々と試練や苦難が待っていたんだよね。それをみんなにも見てもらいたいかな?
〇第二章 葵の心情
これは、葵が実際に体験した話です。それは、葵が高校へと入学してから半年が過ぎた頃のとある日に起きた事です。
葵は中々クラスの雰囲気に馴染めなくて一人孤独で毎日を過ごしていたある日…ある一人の生徒から声を掛けられました。
それは、葵が入学してから初めて学校案内をしてくれた一学年上の先輩の戸崎日向さん。
戸崎さんは、葵がいつも一人で昼休みの時間に図書室に居ることを何故か知っていて、気になって声を掛けてくれたみたいなんだよね。
「ねえ。あなた新入生よね。いつもここに居るけど...仲が良い友達はいないの?」
これが、葵が戸崎さんに聞かれたことなんだけど…。葵はクラスにはおろか同学年にも仲が良い友達が居なくて...
「ごめんなさい。葵はいつも一人なんです。」
そう答えてしまったけど、戸崎さんは驚く様子もなく
「そうなんだね。いきなりごめんね。話しかけちゃって…。ほら一応心配になったんよね。私さいつも一人でいるあなたがもしかしてクラスでいじめられてるんじゃないかって…。心配になったんだよね。あ、自己紹介忘れてた。私は、戸崎日向。よろしくね。」
そう言って周りには誰もいない図書室で二人話し合っていたんだよね。
葵も勿論自己紹介したよ。
「ごめんなさいこちらも自己紹介忘れてました。一年の彩芭葵と申します。宜しくお願い致します。」
なんて葵が挨拶をするものだから、戸崎さん慌てて
「あ~。大丈夫よ。そこまで堅苦しく挨拶しなくても…まぁ先輩を前にしたらそう言っちゃうよね。もう少し柔らかく話しても大丈夫だから...」
そんな感じで戸崎さんの前では少し柔らかく話していいよとアドバイスを貰って話をしていきました。
そして、何時の間にか昼休みが終わる二分前になっていることにお互いが気が付き話の続きは翌日の昼休みに同じくこの図書室でするという約束をしてお互いに教室へと戻りました。
教室に戻ってからは慌ただしく次の授業の準備を進めて無事に授業に間に合いその日は、その授業で最後だったので何時もの様に一人寂しく帰路につきました。
次の日、約束通り葵が昼休みの時間に図書室へ向かうと...
そこには、一昨日とは違い髪を高めのポニーテールをした戸崎さんの姿がありました。
そして戸崎さんは葵に気が付くなり、手招きをして葵を自身が座る隣の席へと案内してくれて、葵が座って戸崎さんの方を向いて顔を見るのを確認してから戸崎さんは、葵に話しかけてくれました。
「葵さん。ちょっといい?もしダメって言うなら言及はしないんだけど…もしかしてあなたって自身の事で悩んでたりする?ごめんねいきなり重ための話しちゃって。」
戸崎さんは、そう言って話題を別のモノに変えようとしましたが葵は…
「大丈夫です。でもどうしてわかったんですか?葵が悩みを抱えているって…。」
不意にそれが気になり戸崎さんに聞いてみると戸崎さんから驚きの事を言われました。
「それはね…私が自身の性自認が何なのかをわかっていないという悩みがあってもしかして葵さんもそれで悩んでいるんじゃないかなって思って…。ごめんね詮索しちゃって。もし違ったらごめんなさい。」
葵はこの時本当にびっくりしちゃったよ。戸崎さんも悩みを抱えているという事を言われたものだから...だけど、葵は戸崎さんになら話しても大丈夫という安心感の元...葵もカミングアウトしました。
「実は、そうなんです。葵も性自認がわからなくて…。でも、この学校は性別には縛られないという特徴があるから、葵ココに進学するって決めたんです。」
そう話すと戸崎さんもどこか安心したかのように少し暗かった表情が明るくなったように見えました。
そして戸崎さんはうんうんと頷きながら葵が話すことを聞いてくれて葵も少しずつではあるものの今まで悩みを話せなかったという苦しみから解放されているような感じがありました。
「成程ね。でもこれは私たちだけの秘密にしておこうね。世の中には、未だ差別やいじめが嫌だっていうくらいに蔓延っているから…。その標的になるくらいなら黙秘したっていい。」
そう言ってお互いに秘密事項という事にしました。そして戸崎さんは、過去にあった虐めの事を話してくれました。
「葵さん。実はね私…。過去にいじめに遭っていたんだよ。まぁ理由は察しが付くから割愛するけど。そのことでクラスの半分の人からいじめられていたんだけど...ある日転機が起きたんよね。講習会で‘‘性自認‘‘について学ぶ機会があってそれを機に少しずつ理解する人が増えたというか担任から‘‘性自認で悩んでいる人が今までに関わって来た人の中にも少なからずいるからその人を非難したりいじめようとするやつは許さないからな。‘‘という信念?を話してくれたその日に、私相談したんだよね担任にね。そうしたらいきなりあんなことを言ってた自分の傍に性自認で悩んでた生徒がいて更にいじめにあってると気付けなくてごめんな。って言ってくれて親身に私の相談を聞いてくれたんだよね。そうしたら次の日いじめてた人が担任から恐ろしいくらいの説教を喰らって泣きながら謝って来て、それ以来その私が居たクラスからいじめというモノが消え去ったんだよね。ごめんね長々と語って。」
そう言ってその日は、戸崎さんの過去の体験を聞いて昼休みの時間はシャボン玉のように儚く消えていった。
ただ、毎日のように図書室へと通うのが密かな楽しみになっていたはずだった。あんなことさえなければ...
〇第三章 トラウマの再来
いじめ...それは、現代社会で起きている決して許されることのない事象。そしてそれは、大きな社会問題にもなっていて学生はおろか社会人になってからでも被害に遭うという恐ろしい闇である。
葵も過去にいじめの被害を受けて、心を閉ざしかけたことがあった。
それは小学生の頃にまで遡る。
ある日葵はいつも通りに学校生活を送り平穏な日々を過ごしていた。
そんな中突如として、やって来たのだ…。いじめという闇の存在が...
葵が教室で本を読んでいる時だった。いきなり、葵の使っている机が何者かに蹴り飛ばされたのだ。それも、葵が本を読みだしてからタイミングを計ったかのようにドーンと音と共に机の上に置いてあった可愛いクマのデザインの筆箱もろとも机と一緒に、教室の端へと追いやられてしまった。
最初何が起きたか理解が追い付かなかったが、状況が見えてくるととてつもなく悲惨な状態になっていることが分かった。
机は逆さまになり勉強道具は辺りに散乱して、気に入ってた可愛いクマのデザインの筆箱は、潰れて形は歪み…。中身は飛び出して机の周りに散らばっていた。
この時怒りや悲しみの感情が混在して渋滞を起こしてしまうほどだった。
顔をあげると窓際で葵の方を向て笑っている三人の生徒がいた。
その生徒は只々葵の事をからかいたいだけで葵の大事にしていた筆箱を壊したという事が後々分かった。
この時葵はその生徒に対して接触することはなかったはずなのに...そこに居たから、なんとなくと言う理由だけでいじめられていた。
そんな状況が続くと考えたら...とめどないほど涙が溢れてきた。
あの場所に居たら葵が壊れてしまう。そう考えたときには、図書室へと足が向いていた。
藁にも縋る思いで入った図書室は...とても静かで心の声が今にも聞こえてきそうなくらいに落ち着いた場所だった。
そんな中誰も居ないとわかったときには既に葵の感情は限界を超えて気が付けば泣いていた。
声にならない声が漏れ次から次へと拭いても止まらない涙が溢れてくる。
そこへ、担任の先生がやって来た。担任が教室へ戻ると机は飛ばされて筆箱は破壊され中身が露わになっている状態で放置されていることに違和感を感じ取った担任が、その時教室に居た生徒に話を聞いて更に葵が無言のまま図書室へと向かったという話を聞いてやって来たのだ。
担任は、葵に何があったかと詳しく質問してきて葵があったことをそのまま話すと‘‘わかった。後は先生に任せて。葵はココに居ていいよ。今教室へと戻ったら葵が壊れてしまうから…。一応、手の空いてる先生がいるから何かあったらその先生に言ってもらって構わない。‘‘
そう言って代わりの先生が来るのと同時に図書室から出て教室へと戻っていった。
それから、葵は泣けるだけ泣いた。今までたまりにたまっていた思いがこれでもかと溢れ爆発してそれが、どんどんと涙として葵の頬を伝わり流れ落ちていった。
これが、葵が過去に一度だけ受けたいじめであり心に深い傷を負った話である。
だが、この出来事が再来しようとしていた。それも、小学生の頃にあったいじめと全くと言っていいほどに同じ状況下で起きてしまった。
この時葵は思った…。間違いなく葵は壊れてしまう。そう思った瞬間‘‘パリン‘‘と何かが壊れる音が葵の中で響き渡ったとの同時に涙が溢れてきた。
‘‘あの時と同じだ‘‘そう思った時には教室を飛び出していた。泣きながら廊下を駆けて向かった先は・・・図書室だった。
ガラガラと図書室の扉を開けていつもの席へ向かった。
着くや否や声を押し殺して泣いた。だが、この時ばかりは助け舟を出していたのに誰もやって来てくれなかった。
何時まで経っても誰一人として来てはくれなかった…。
だが、不意に肩をポンとされた。
気が付けば、戸崎さんが心配そうな顔で葵を見ていた。
「葵さん?何かあったの?」
戸崎さんと目があった瞬間言われた。
もう隠せはしないと察した葵は、全てを打ち明けることにした。
「実は...小学生の頃にあったいじめと全く同じことが起こってしまって…。トラウマを呼び起こされた感じなんです。」
葵が戸崎さんにそう告げると…。戸崎さんは、何故か目に涙をためて葵に向かって一言
「辛かったよね。悲しかったよね。でも、もう大丈夫だから」
そう言って、葵をギュッと抱きしめてくれた戸崎さん。
抱きしめられた瞬間ポロっと目にためていた涙が頬を伝い次から次へと溢れてくる。
そうして二人で泣いた。時は放課後になっていたのもあって誰も来ない図書室の端の席で泣きつかれるまで泣いた。
夕日が差し込み外では、部活動の声が響き渡っていたその頃。
二人の生徒が悲しみを分かち合って、泣いていた。
沢山の涙で、顔はぐちゃぐちゃになりながらも…溜めていた思いをすべて吐き出すかのようにない泣いた。
ひとしきり泣いた後戸崎さんは葵の手を握って
「葵さん。今日は一緒に帰ろうよ。途中までは同じ帰路だし…また何かされても嫌じゃん。」
そう言うと戸崎さんは、また葵をギュッと抱きしめてくれた。
「ありがとうございます。戸崎さん。」
葵は、また泣きそうになったけど、涙をグッとこらえて戸崎さんと手を繋ぎ図書室を後にした。
靴を履き替え外に出た瞬間...スッと曇っていた気持ちが晴れていくような気がした。
夕日に照らされた校舎を背景に葵は、戸崎さんと手を繋ぎゆっくりと帰路を歩み始めた。
沢山泣いた後だったから少し風が痛かったけど、途中まで一緒に歩いた。
川辺を歩き再び交差点が来るまでの間夕日を見ながら色々と会話を交わして互いに分かれ道となる交差点にさしかかった。
「戸崎さん。今日は本当にありがとうございました。葵…。心にかかっていた靄が晴れてすっきりしました。また明日学校で会いましょ。」
葵の感謝の言葉を聞いた戸崎さんは、にこっと笑って
「また何かあったら遠慮なく言ってね。私いつでも相談に乗るから!!それじゃあまたね。」
そう言うと戸崎さんは、再び葵をギュッと抱きしめてから自身の帰路についた。
戸崎さんの後ろ姿が見えなくなったのを確認してから葵も帰路についた。
また明日学校で会うと交わした約束。葵にとってこの約束がとても大切な約束だと後々分かった。
〇第四章 揺れ動く心
心がすっきりとしたあの日、葵の心はぐらっと揺れ動いた。
キュッとなるような感覚を感じた。
辛いことがあったときの心の痛さじゃなかった。
多分、葵は初めて‘‘好き‘‘と言う感覚に襲われたんだとわかった。
今まで、感じたことがなかった感覚。
胸の奥がキュッとなって心臓がどきどきする不思議な感覚。
それは、次の日になっても続いていた。
「おはよう葵さん。」
いつも聞いている戸崎さんの声だ。
だけど、この日の葵は違った。
「おはようございます。戸崎さん。」
葵は、そう返すと戸崎さんはにこっと笑った。
笑顔が眩しかった。そして何より‘‘おはよう葵さん‘‘と言われただけで葵は、ドキッとなった。
少しばかり顔が赤くなった気がしたけど気に留めることなく普段通りに接した。
お昼休みいつもの如く、葵はお気に入りの場所である図書室へと向かった。
図書室の扉を開けるといつもの席に戸崎さんが座っていた。
戸崎さんは葵の事を見るなり、手を振った。
葵は、振られた手を振り返してから戸崎さんの隣の席へ移動した。
普段から、誰も利用することのない葵と戸崎さんだけが唯一心を解放できる図書室。
この日は、快晴で雲一つない晴れ渡る空であった。眩しく日光が図書室へと差し込む。
葵が席に着くと戸崎さんがあるものを差し出してきた。
「葵さん。これ受け取ってくれるかな?」
戸崎さんは、そう言って小さな紙袋を取り出し葵に渡す。
「これは?」
葵が、少し困惑した顔で戸崎さんに返答すると戸崎さんは、またにこっと笑って
「開けてみて。」
そう言われ紙袋を葵が、開けるとそこには...
リボンが付いた髪留めが入っていた。
葵は、驚いて戸崎さんに声を掛ける。
「戸崎さん。この髪留め…。葵に?」
そう言うと笑顔で
「それは、葵さんにプレゼントするね。似合うと思って買ってみたんだよね。今つけてみてよ。」
そう言われ葵は、戸崎さんからプレゼントされた髪留めを付けてみた。
すると、戸崎さんは葵の方を見て
「似合ってる。可愛いよ葵さん。」
戸崎さんからのその言葉にポッと顔が赤くなる葵。
「あ、ありがとうございます。戸崎さん。嬉しいです。こんなに可愛い髪留め貰えて。この髪留めは大切に使いますね。」
葵がそう言うと戸崎さんは、笑顔に満ち溢れていた。
そうして葵と戸崎さんは、ゆったりとした昼休みを過ごしていった。
この日を境に葵の心のドキドキ感は増していくこととなった。
家に帰った後貰った髪留めを外して机の上にある大切な物入れにそっとしまいそれからベットへダイブして天井を見上げる。
「今日は嬉しいことあってよかったな。まさか、髪留め貰えるなんて思ってもみなかったけど。」
そんなことをボソッと呟いた葵。
不意に戸崎さんの事を思い出す。
「今日の戸崎さんいつもと違って見えたな。快晴だから...より一層輝いて見えたのかな?」
なんて独り言のように呟いた時だった。
キュッと胸が熱くなってドキドキ感が強くなっていくのを感じた。
その瞬間葵は、自身の身体を触っていた。
どうにもできないこのもやもや感を少しでも解消しようと自身の身体を触っていた。
触る度にドクン...ドクンと心臓が波打つ。
息も荒くなり身体もそれに伴って熱くなっていった。
最高潮に身体が火照った瞬間頭が真っ白になった。
額からは汗が流れ落ち呼吸も荒れていた。
少しの間はあはあと息が荒れていたが…落ち着いてくると葵は察してしまった。
戸崎さんの事を好きになっていたことに気が付く。
そうするとまた再び葵の身体に火照りを感じ、気が付けば自身の身体を触っていた。
再び息が荒々しくなり頭も真っ白になる。
何度も何度も頭の中では‘‘戸崎さん。戸崎さん。‘‘と呼んでいたことに気が付く。
その日は、早めにお風呂に入り自室へと向かいゆったりとした時間を過ごした。
そうして迎えた次の日…。葵は心に誓った。
戸崎さんに思いを伝えよう。そんな考えが頭をよぎったときには家を飛び出していた。
学校へ着くとまだ戸崎さんは来ていなかった。
でも葵は、昼休みにいつも図書室へ行くと決めていたから焦りとかそういう気持ちはなかった。
そして、昼休みの時間になり葵は、図書室へと向かった。
図書室の扉を開けるとまだ戸崎さんは来ていなかったが...葵は、迷うことなくいつも座っている席に座って戸崎さんが来るのを待った。
気が付くと昼休みも半分が過ぎていた。そんな時だった。
ガラガラと扉が開く音が聞こえて音のした方を見るとそこには...
戸崎さんが息を切らしながら
「待った?ごめんね。委員会の仕事で遅くなった。」
深呼吸する暇もなく話す戸崎さん。
葵は、一呼吸置いて
「大丈夫です。葵はゆったりとしていたので気にしてないですよ。」
そう言うと額にかいた汗を拭ってから、葵の座っている隣の席に座った。
葵は、戸崎さんが席に着いてから葵の方を向くのを確認してから真剣な顔で戸崎さんに話しかける。
「戸崎さん。少しお話があります。」
余りにも真剣な顔の葵に少し驚きを見せる戸崎さん。
葵は、深呼吸をしてから戸崎さんに
「実は...戸崎さん。あなたの事がとても気になってしまい。考えるだけで心臓が張り裂けそうになります。ですので言わせてください。‘‘好き‘‘です。これからも仲良く過ごしてくれませんか?‘‘友ではなく大切な存在‘‘として。」
葵は、伝えたかった思いを全て言葉にして戸崎さんに伝えた。
すると、戸崎さんは、ポッと顔を赤くして
「こんな私でよければ...」
そう一言呟いた。
その瞬間ドキドキ感が一番に高まったのを感じた。
そうして、葵は戸崎さんに思いを伝えることができて喜びに舞い上がっていた。
すると、戸崎さんは何かを思い出したかのように声を出す。
「ねえ。葵さん。いや…。葵って呼んでもいいかな?」
その言葉に喜びを感じた葵はすぐに
「ええ。勿論です。戸崎さん...いえ日向さんって呼んでもいいですか?」
葵のその反応に笑顔で答える日向さん。
「いいよ。これでようやく距離が縮まったね。葵。」
こうして葵と日向さんは友から‘‘大切な存在‘‘へとなった。
初めてだった。好きと言える存在ができたこと自体が...
とてもうれしかった。葵はそう思った。
〇最終章 葵と日向
季節は過ぎて日向さんは、今年卒業を迎える。
葵と日向さんは、一学年違いの為日向さんとは同時に卒業できない。
想いを伝えてからたくさんの思い出づくりをした。
一緒に街にショッピングしに行ったり、遊園地で遊んだり、映画館に行ったりと恋人とするようなことを沢山した。
物凄く充実した日々を過ごした。
そして、今日は日向さんたち三年生が、学び舎から旅立つ日。
卒業式が始まると物凄く緊張した空気が張りつめて、葵はその空気感に堪え切れなくなりそうになっていたそんな時だった。
卒業生代表として日向さんが、卒業証書授与を受けた。
この時の日向さんは体育館窓から差し込む光に照らされていて神々しく見えた。
そして、卒業生答辞も日向さんが担当をしていた。
卒業生答辞が終わるときには、葵は涙が溢れて止まらなかった。
初めて卒業式で泣いた葵。
そして、卒業式も終わりに近づきいよいよ卒業生が退場する。
吹奏楽部の演奏が始まり拍手で卒業生を見送る。
葵の席の横を通り過ぎる日向さん。
目からは涙が流れ、何度も拭っていた。
卒業生退場が終わると遂に...卒業式に幕が下りたのを実感した。
葵たち在校生は、体育館の後片付けをしてから帰宅することになっていた。
早々と片付け作業を終えて教室に戻りふと机の上に手紙が乗っていることに気が付いた。
手紙を開いてみると日向さんからの手紙だった。
『葵へ。ついに私が学び舎から旅立つ時が来ちゃったよ。少し悲しくなっちゃうかな。いつも昼休みに図書室で話をしてたのにそれができなくなるのはさびいいけど、私は葵が最後の一年間無事に過ごせるように願っているよ。
PS.校舎裏の桜の木のところであなたの事を待っています。戸崎日向。』
この手紙を読んだ瞬間涙が溢れた。だけど、すぐに気持ちを切り替えて手紙に書かれていた校舎裏の桜の木の下に向かった。
春の暖かい風が吹き桜がゆらゆらと揺れていた。
手紙に書いてあった桜の木の下に着くと卒業証書の入った筒を持った日向さんが待っていた。
日向さんは、葵が来るのを待っていてくれた。何分間も桜の木の下で…。
「お疲れさま。葵。片付け大変だったでしょ。」
その言葉を聞いた瞬間止まっていた涙が溢れだした。
居ても立っても居られなくなった葵は、日向さんに思い切り抱き着いた。
「ありがとうございます。日向さん。そして、ご卒業おめでとうございます。」
そう言うと日向さんは、葵の頭を撫でて
「あらあら、もう葵ったら私より泣いてるじゃん。」
そう言って日向さんは、葵の事をギュッと抱きしめてくれた。
そして、葵は手紙に書いてあったことについて聞いた。
「あの手紙いつ置いたんですか?」
すると、少し考えてから口を開く日向さん。
「朝登校したときかな?ほら、卒業生って色々やることあるじゃん。その時にコッソリ置いたんだよね。」
そう言われ少し驚いた。葵は、その時体育館で卒業式の流れの確認をしていた時だったからそんな忙しいときに置手紙をしてくれたことに驚きを隠せなかった。
そうして、日向さんと歩きながら色々と思い出話をした。偶然にも日向さんの家が、葵の住んでいる家の近くに引っ越してきたことをこの時知った。
これで、毎日会えると思うとこれからの学校生活何があっても乗り越えられる気がしていた。
少し寂しくはなるけど学校が終われば会えるそれだけで葵を強く奮い立たせてくれた。
今後も、葵と日向さんの関係は誰にも壊されることなく続いていく。葵が社会人になったときには、日向さんと一緒の家で仲良く暮らすという約束を交わした。
未来永劫、葵と日向さんの関係が続くことを祈っています。なんて思う今日この頃。
物語はここで終わりですが...葵と日向さんの関係はいつまでも続いていきます。