無残②
ガイゼルはカリーナに端金をつかませると、屋敷から叩き出した。
怯えきったカリーナは逃げるように出ていった。
(つまらねえことに時間を使っちまったぜ)
ガイゼルはむしゃくしゃしていた。
ガイゼルは自分に逆らう者を、決して許さない。
それがカリーナのような小悪党であっても絶対にだ。
(イライラするぜ。この憂さはあの女で晴らすしかねえ)
名前も知らないイストリム人の女。
だが驚くほどに美しい。
(ぶん殴って、それから犯してやる。ぶっ壊れるまで、徹底的にな)
それを思うと、少しだけ気分がよくなった。
そしてガイゼルが倉庫へ戻ろうとした、その時――。
「ガ、ガイゼル様――」
血相を変えた部下が、屋敷に転がりこんできた。
それはあの倉庫にいたはずの男だった。
「なんだあ、まさかぶっ殺しちまったんじゃねえだろうな」
「ち、違うんです。それが――」
その男の顔は、真っ青になっていた。
倉庫ではガイゼル隊の男たちがリンネを取り囲み、下卑た笑みを浮かべていた。
「さあ、どうするよ女ぁ。俺たちに無理やり脱がされるか、それとも自分で脱ぐか。ひゃはは、ストリップだ」
男たちは、リンネを人として見ていなかった。
そこにいるのは快楽のためのオモチャ。
だから何をしたっていい。
どれだけ痛めつけても、辱めても、男たちの心は痛まなかった。
リンネは、奥の部屋を見ていた。
先ほどまで男たちがいた部屋だ。
そこには、無残な姿となった女たちが転がっていた。
鼻につくこの嫌な臭いは、あれが原因だったのだ。
女たちは、すでに事切れていた。
絶え間ないレイプと激しい暴力。
男たちは遊び半分に女たちを殺していた。
それだけではない。
男たちは死んだ後も女たちを犯していた。
『尊厳』
そのような言葉は男たちの辞書にはない。
あるのは暴力と快楽。ただそれだけ。
それがガイゼルに捕まった女の末路。
当然、リンネもそうなるはずだった。
だが――。
リンネは顔を伏せ、亡くなった女たちに静かな哀悼を捧げていた。
名も知らない。なぜここにいるのかも分からない。そんな女たちに、精一杯の哀れみを――。
男たちは、そんなリンネを見て笑っていた。
「ひゃはは、見ろよこの女、震えてるぜ。心配すんなよ。てめえのことはもうちょっと長く可愛がってやるからよ」
「もういい。黙れ――」
リンネが言った。
それまでとは、まるで声質が違っていた。
男たちは最初、それがリンネの声だと分からなかった。
リンネが、顔をあげた。
そこに怯えはなかった。
あるのは――血が沸きたつほどの激しい怒りだった。
「……貴様らは、万死に値する」
リンネが、刀を抜いた。
男たちは、致命的なミスを犯していた。
リンネをここに呼ぶのなら、何があっても絶対に刀を奪い取るべきだったのだ。
森の中で、セイはミーナに言った。
リンネは俺よりも強い――と。
その意味を、男たちは知ることになる。
「剣なんか抜きやがって、女に何ができるっていうんだよ」
男たちの一人が、不用意にリンネに飛びかかった。
女は弱い生き物。簡単に組み伏せられる。
それが男たちの常識だった。
次の瞬間、男の首筋に刃が突き立てられた。
血が噴水のように吹きあがった。
男は何をされたのかも分からぬまま、膝から崩れ落ちた。
「……次」
リンネは男を無表情に見下ろしていた。
「この女、やりやがったぞ!」
「ぶっ殺せ!」
男たちは激怒した。
リンネを取り囲み次々と襲いかかる。
だがリンネを捉えることはできない。
リンネは男たちをかいくぐり、一瞬にしてその心臓や首筋に刃を突き立てていく。
女であるリンネは、セイのように相手を両断するような力はない。
だからリンネの戦法は、相手の急所だけを的確に狙い破壊するというものだった。
無論、それは容易なことではない。
だがそれができるだけの技量がリンネにはあった。
イストリム滅亡後、リンネはセイと共に旅をしてきた。
それはつまり、セイと同じ苦難をリンネも味わってきたということ。
リンネは、セイに守られてきたのではなかった。
むしろ、その逆だ。
リンネが、セイを守ってきたのだ。
「……貴様らは許される存在ではない。あの世で詫び続けるがいい」
リンネが冷たく言い放った。
それは死の宣告。
男たちには、見るも無残な死が待っていた。
それはリンネをたかが女と侮ったが故の末路だった。




