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世捨て人龍の配信生活~迷宮の底で人型龍になったけれど生活を充実させたいので配信者します~  作者: 嘉神かろ
第6章 人と悪魔の物語

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第172話 直感とは経験の蓄積によるものでつまり……

172

 これまでと同じように半透明な階段を上り、途切れた空間の先、九十階層へ進む。一人なら特に緊張する階層ではない。四割ほどの力しか出せない今でもそれは変わらない。

 でも、今はファウロスがいる。


『ハロさんの配信でこんな緊張するの久しぶりだな、、、』

『ドキドキ』

『ハロさんの配信でもこんな空気あるんですね』


 コメント欄にもしっかり空気は伝わってるね。普通の配信者なら、これを善しとするのか悪しとするのか判断するところなんだろう。まあ、うちは今更だけど。これだけ人数いるのにリスナー同士の会話有りにしてるし。


 ともかく、一足先に守護者階層へ入る。そこは、なんというか、ヨーロッパによくありそうな村の様相を呈していた。いや、村そのものかな。住人らしき気配を感じる。魔物と似ているけど、人間と言われても納得してしまう気配だ。

 奥に見えるのは、木々の深く生い茂った森。右手にも。というか三方がそうか。これまで散々彷徨っていたのはあのどれかという可能性もあるね。


 これは、あれだ。守護者を倒して終わりじゃなくて、何かしらのギミックを解かないといけないパターン。


「上がってきて大丈夫だよ」


 階層を繋ぐ部分は空間的に連続している訳ではないけど、一応音は通す。通さないのは光と魔物だけ。

 ゆっくりと首だけを出したファウロスの表情は相変わらず強張っていて、守護者の部屋に入るのはまだまだ慣れないようだった。まあ、最初がアレだったのだし、然もありなん。


「変わった村、ですね」

「この辺の島嶼(とうしよ)だと珍しいかもね」


 旧時代における近世どころか、現代でもド田舎ならこういう村あるんじゃないかなぁ。今は、どうなんだろ。対魔物があるから簡易的な塀くらいはありそうだけど。ていうかそもそも、時代区分ってどうなってるのかな? 昔みたいに統一された基準あるのかも知らないや、

 一応学術的な記事も見てたけど、歴史や考古学については手を付けてなかった。だって、実際に見てた話だし。でもどんな風に歪んでるかとかって視点で見るのは面白いかも。


『気のせいかもしれないけどさ、今ハロさん、時代区分がどうのって呟いてなかった?』

『気のせいじゃないな』

『ファウロスさん、声かけて見た方がいいんじゃね?』


 ここの件が終わったら色々漁ってみようかな。吸血鬼のとこなら物理媒体の文献も色々揃ってるかも。エルフの女王あたりも言ったら見せてくれないかな。


「あ、あの」


 ていうかさっきからちょっぴりタンニンの匂いがする。それと発酵臭というか、アルコール臭も。ワインでも作ってるのかな? そういえば最近ワイン飲んでない気がする。ファウロスの手前もあったし、仕方ないけども。


「ハロさん。……ハロさん!」

「ん? どうかした? って、ああ、ごめんごめん」


 うん、コメント欄でも油断しすぎって怒られちゃってた。ちゃんと警戒はしてたんだけど、別のこと考えてたのも事実。口にも出しちゃってたし、謝っておく。

 それはそれとして、解かなきゃいけないギミックについて考えようか。


 関わってそうな村人もどき達は、こちらをじっと伺ってくるだけ。何かを依頼してくる様子もないし、分かりやすい脅威も当然無い。


「もう少し回ってみようか」

「分かりました……」


 キョロキョロしてるのは単純に不安なだけか。村人もどきの視線に気付いてるわけではなさそう。そっちの方は見てないし。

 やっぱり夜墨にも来てもらった方が楽だったなぁ。いやでもイリニちゃんを一人にするのは良くない。こういう時ばかりは人手が欲しくなる。


 (しがらみ)が増えると()()()()()が増えちゃうのが面倒。今回は私の意思で、かつ一時的に受け入れてるだけだからいいんだけどさ。


「……やっぱり変な村ですよ、ここ」

「うん? 何が?」

「ここ、十分な水源が見当たらないんです」


 ふむ、たしかに。井戸は見当たらないし、川も小川が一つ通ってるだけだ。これだけ経年劣化の見られる村でまだ水源の整備が終わっていないなんて事はないだろうし。

 水道のある生活にすっかり慣れてしまってたから気がつかなかったよ。この文明水準ならそんなものは無い可能性の方が高いよね。もちろん無いと断言はできないけど、違和感としては十分だ。


 そういえば彼の家にも無かった。食事に使う水は水瓶(みずがめ)から汲むか魔法を使ってたし、だからこそ気がつけたんだろうね。


「水かぁ。水ねえ。よし、畑を探してみようか」

「畑ですか? 分かりました」


 ディオニューソス神関連の迷宮だから、ギミックもそれに関わるもののはずだ。迷宮について全てが分かっている訳じゃないけど、魂力の性質に基づく魔法的な現象なことが確かである以上、それは間違いない。

 だから――


「ああ、うん、やっぱりだ」


 向かったのは山に最も近い、つまりは小川の最上流側にある畑だ。一番多量の水を確保できるはずの場所なんだけど、その土は乾燥しきっていてボロボロだった。栄養状態までは私の判断できるところではない。でも、作物の状態を見るに、良くはないだろう。

 道中の畑も当然同じような状態。麦の収穫は終えてるようだから暫くは大丈夫だと思う。とはいえ、次の収穫はどうなるか。

 うん、食糧危機になる未来がばっちり約束されちゃってるね。


「これは、酷い。なんとなく村全体がどんよりしている気はしていましたけど、こんな状態になってるなんて……」

「外だったら大変だ。ダンジョン内のギミックだから問題ないけど、まあ、これが解決すべき問題だろうね」


 土壌改善なのか、水不足の解消なのかは分からないけど。

 ん、おっちゃんが一人近づいてくる。敵意は、なしか。格好は、簡素なシャツにズボン。麻っぽい。


「なぁあんたら、旅人か?」


 ファウロスよ、剣なんかに手をかけたら村人くんが怖がっちゃうよ。


「おおっと、物騒なマネはやめてくれよ。なんも企んじゃいねぇからよ」


 ほう、けっこう人間っぽい反応。もどきなのに。

 とりあえずファウロスに目配せをして武器から手を離させ、前に出る。面倒くさいけどこっちの方がいいでしょう。


「で、なんの用? 土壌改善してほしいの? 水不足解消?」


『単刀直入すぎてワロタ』

『ストレート!』

『まあ本物の人間じゃないだろうからな・・・』


 回りくどくする必要がないからね。外の人間もこれくらい楽だったらなぁ……。


「なんだあんた、えらく話が早ぇな。別に神様みてぇにぱーっと解決してくれとは言わねぇ。ただ、どうにかする知恵があんなら貸して欲しいんだ。もちろん礼はする」


 ふむ、思ったよりはハードルが低い、のかもしれない。とりあえず詳しい話を聞いてみないとね。まさか九十階層のギミックが単純な手段で終わることもあるまいて。



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