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世捨て人龍の配信生活~迷宮の底で人型龍になったけれど生活を充実させたいので配信者します~  作者: 嘉神かろ
第6章 人と悪魔の物語

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第169話 白い牡鹿

169

 順調に進むこと十階層。例の如く雰囲気たっぷりの扉を開くと、木漏れ日の差し込む大きな広場があった。疎らに差し込む光の中、たたずんでいるのは真っ白で美しい鹿だ。猛々しく伸びる角も、毛皮も、全てが白い。唯一、瞳ばかりが赤みの強い茶色をしていて、理知的な光を湛えていた。

 少し距離があるから分かりづらいけど、けっこう大きそうだね。あの巨体と立派な角で突進されたら、人間はひとたまりも無いだろう。


『ディオニューソスの迷宮で白い鹿とか、嫌な予感しかしねぇ・・・』

『なんか昔見たファンタジー映画でも出てきた気がする。ライオンとか喋るヤツ』

『それな』

『まあ、ハロさんなら関係ないだろ』

 

 ふむ? 細かい神話についてはそこまで知らないんだよね。

 詳しく聞いてみたいところだけど、その時間は無さそうだ。嫌な予感のコメント前に入っちゃったから。コメントを打ち込む時間がある分、どうしてもラグができちゃうのがね。


「なんかファウロスのことじっと見てない?」

「そ、そうですね……?」


 これは、あれか、弱い方から狙ってくるやつ。このクラスの迷宮になると低階層の守護者でも特殊能力がありそうだし、さっさと倒しちゃおうかな。


「その辺でじっとしてて」


 そんな神妙に頷かなくても大丈夫なんだけどね。


 あちらさんは、頭を下げ、足で地面をかいてやる気満々。そのまま突進してくる気だろう。

 このまま歩いて行こう。槍だけだしておいてと。素手でも十分とはいえ、服とか汚したくないし。


「一応、嫌な予感とやらの理由について書いておいてくれると助かるかな。私が知らない神話だ」


『ハロさんでも知らないことあるんだな』

『うい』

『まじでこのチャンネル 旧時代の話の有識者多いな』

『古いとこだからな。当時から生きてるヤツも多い』


 なんて話してたら、案の定突進してきたね。説明コメントが来る前に終わりそうだ。


「ほいっと」


 すれ違いざまに首を切り落とす。変な再生能力とかなければこれで終わりなんだけど。何かしらの神話的存在ではあるみたいだし、それくらいの能力持っててもおかしくないよね。


『たしかだけど、ディオニューソスの養父に狂気を与えるためか何かでヘラがその養父に射させたやつ。正体は養父の実の息子だったかな』

『たしかに嫌な予感がするヤツ』

『一撃ナイスー』


 げ、そういう系、か……って、遅かったね。

 切り飛ばした首が空中で閃光を放つ。何も見えない。耳だけが重たいものの土や落ち葉に受け止められる音を捉える。

 視力は、まあ私ならすぐに戻る。臭いとか音とかで気配は分かるし、問題ない。そもそも鹿は完全に絶命してるみたいだし。


 幸い、首が光ったのは私の目の前あたりだ。ファウロスの目に深刻なダメージを与えたってことはないだろう。

 ――おん?


「うわぁぁあああああっ!」

「おっと」


 背後から聞こえたのは土を蹴る音と、怒りに満ちた絶叫。少し横にずれて、突き出された短剣と腕を脇に挟む。肩越しにちらっと見ると、ようやく戻った視界に淡褐色のはずの目を赤く染め、涙を流し、憤怒の形相を浮かべるファウロスの姿が映った。

 精神的に狂わされているのは明白だね。いったい何を見せられているのやら。


 ――っ!

 ああ、なるほどね、そういう。悪辣だなぁ。思わず目を見開いちゃったじゃん。

 位置的に鹿の首があるはずの場所だから、それに幻惑を被せてるんだね。


 これはたしかに、ファウロスには辛い。きっと、娘さん、イリニちゃんか、若しくは死別したらしい奥さんの首に見えているだろうから。


 いやぁ、本当に悪辣。死んだ自分に相手の家族の姿を重ねる幻だなんて。直接的に錯乱させる効果もありそうだ。幻惑については私にも効いてるから相当な威力だよ。まあ、私には意味が無いけれど。だって――


「……ふぅ。ほれ、目ぇ覚ましなー?」


 まあ、幻なのは分かってるから。深呼吸だけして、捕まえてるのとは逆の手でファウロスの額を小突く。彼に影響を与えている情報を中和してやらないと。


「うっ、あ……あ? あれ、ハロ、さん……?」


 よし起きたね。さっさと離してあげようか。


「ごめんね、油断しちゃった。ディオニューソス関連なんだから、精神に働きかけてくるようなのは警戒しておかないとだったよ」


 彼の神は狂気を与える存在でもあるんだから。


「いえ、こちらこそ、すみません……」

「んー、そんなに気にしなくて大丈夫よ? あ、ほら、ドロップ品。肉塊だ」


 なんでこんなに動揺してるか分からないけど、さっさと話を変えちゃおう。ていうかお肉の方が気になる。こういう時の食材は確実に美味しいから。

 鹿肉かー。シチュー、ロースト、ミンチにして炒めるのもいい。涎が出てきちゃうね。


 そんなわけで、ファウロスにはさっさと立ち直ってもらって、ギリシャ式の鹿肉料理を考えて貰わないといけないのだよ。


「テキトーなところでアレ料理して欲しいから、使えそうな香草があったらついでに採取で!」

「え、ええ、はい、分かりまし、た……」


『相変わらず食欲に忠実』

『さすがのメンタル』

『ハロさんも狂気に晒されてるはずなのに。いや元々狂気に染まってるようなもんだしなぁ。。。』


 私が狂気に染まってるだなんて、そんな人聞き悪いなぁ? フツーだよフツー。日頃の行い? 知りません!


 ……しかし、狂気の影響を受けていたとはいえ、あそこまでするとはねぇ。ちょっと驚いた。けど、だからこそなんだろうなぁ……。


「ハロさん?」

「ああ、ごめんよ。それじゃあ行こうか」


 その辺についてはちゃんと考えて対処しよう。それよりも今は、この迷宮の踏破の方が大事だね。私も半分の力も出せない状態で神に挑まないといけないわけだし、油断ばっかりしてられないよ。


 ああ、でも、出来れば次の階層は森じゃないといいなぁ……。



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