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第167話 普通って難しい

167

「お、これ美味しい。人族でも食べられそうだね。いる?」

「あ、いや、えっと、大丈夫です」


 ん、甘酸っぱくて美味しいのに。葡萄みたいな果物、っていうかこれ、葡萄だよね。ディオニューソス関連の迷宮だからかな? なんかその辺の栽培方法を伝えた話があった気がするし。


 ……なんか呆れたような、不安げなような視線を感じる。


「ねえ、私なんかおかしなことしたかな? なんかファウロスからの視線がおかしいんだけど」


『おかしなことは、まあ、してるな。いつも通り』

『迷宮にいるとは思えないユルさなんだよね』

『してるしてる』

『他の人の迷宮配信はもっと緊張感あるぞ?』


 それは、まあ、たしかに?

 でもさ、ずっと緊張感保つのって疲れるじゃん? それにそもそも、緊張しなきゃいけないような階層じゃないし。いや、この感覚が乖離してる部分か。


 とはいえずっとこの調子なのも鬱陶しい。敵意はないみたいだけど、鬱陶しい。神酒以外の材料も探さないとだし、神酒を渡す建前も欲しいしって付いてきてもらったけど、んー、どうしたらこの喧しい視線が消えるかね?

 強さは見せたから、そこで信用されてないわけじゃないと思う。配信、を気にしてるのとも違うね。カメラの位置は気にしてないあたりだとか。様子のおかしい部分は、四方八方をちらちらしてる視線と、腰の短剣に添えられて強張ったままの手……。

 んー、そうすると、索敵の方か。私が周辺を警戒してるか疑問視してるわけね。不意打ちなんかされたら、ファウロスは確実に死んじゃうだろうからね。


「接敵するのは最低でも五分あとだから、もう少し肩の力ぬきな? ほれ、葡萄」

「うわっ、とっと」

「ナイスキャッチ。ちっさい房ならすぐ食べられるでしょ?」


 何か言いたげではあったけど、五分後と呟くだけ。けっきょくお礼を言って食べてくれた。少しだけだけど、力が抜けたね。やはり美味しいは正義。あとは、五分間魔物に会わなければ殆ど信用してくれるんじゃないかな?


 違ったら違ったでまた別の反応があるだけだし、いったんこの方向で。

 ……うん、ちょっとめんどくさいって思ってしまった。私の行動を縛ってくるわけじゃないから良いんだけど。

 これはあれだ。最近人と行動することが少なすぎたからだ。もう少し現地民との交流を増や、すのはそれこそめんどくさい。どうせ日本に戻ったら適度にウィンテか令奈と関わるんだし、やっぱりこのままでいいか。


 なんて考えつつ、つまみ食いをしつつ。五分と少し経ったころ、あちらさんも私たちに気がついた。ディオニューソス関連の迷宮だし、人型の魔物を予想してたんだけど、どうやら違うらしい。


「正面から二体くるよ。それともう二体が回り込もうとしてるから、気をつけて」


 頷くのが精一杯か。迷宮は初めてだって言ってたし、然もありなん。外の魔物とは戦ったことがあるらしいけど、そりゃ、普通は知らない環境って怖いよね。


「来たっ!」


 愛用の白槍を顕現させ、迎え撃つ。見えたのは四足で駆ける影。あれは、狼か。

 灰色の毛皮を纏った彼らは、特に旧時代でペットにされていた大型犬種と比べてもいくらか大きい。これは魔物だからなのか、狼だからなのかは分からないけど。ただの動物の狼って見たことないんだよね。


 もう二体は、回り込む分少し遅れてる。なら、とりあえず正面!


 遠慮無く地面を蹴り、一足飛びに肉薄、そして槍で凪ぐ。一体は両断したけど後ろにいた一体にはギリギリ反応されてしまった。

 まあ、問題なし。もう一歩踏み込んで突くと、幅の広い穂先が未だ宙にあるその首を切り飛ばす。


 あと二体。

 後方へ跳び、頭上にファウロスの驚く顔を見る。そのまま少し木立の方へ視線をやれば、彼を狙う狼たちの姿が見えた。

 うん、良いタイミング。槍を足下へ向け、重力に任せて落下する。最初の一体が飛び出してきたのは、着地の直前だ。

 白刃は狼の背中に吸い込まれ、胸部から突き出して獣を地面へ縫い止める。その槍を捻りながら引き抜き、柄の中ほどを支点に回転すると、一瞬遅れて飛び出した一体が縦に裂けた。


 よし、いっちょ上がりっと。


「さすがに一階層は大したことなさそうだね」


 血を振り払い、槍は魂の内へ。狼は、最初に倒した方もまだドロップ品には変じてないか。


「どうする? ドロップ品に変わるまで少し待……あら、血みどろ」

「……凄く、気持ち悪いです」


 なんか静かだと思ったら。うん、分かったからそんな恨みがましい目で見ないでおくれ。私が悪かったからさ?


『さすがにこれは謝っておきません?』

『うわぁ、、、』

『これは同情不可避』


 あー、うん、そうね。


「えっと、ごめんね?」


 後ろにいるの全く気にしない倒し方しちゃったよ。最後の一体の時だよね、たぶん。

 とりあえず洗い流して乾かしてあげよう。その間に狼たちもドロップ品になるでしょう。


 ちなみにドロップは全て小さめの魔石だった。自身の魔力に代替する電池的な使い方は知らなかったみたいだからついでに教えたけど、案外思いつかないものなのかね? 私の時はもろもろ検証する前に夜墨から教えて貰ったから、ちょっと判断つかないや。


 それから何回か接敵したけど、この階層にいるのは狼とウサギくらいみたいだね。たぶんしばらくはこんな感じなんだろう。


「どれくらいなら一人でどうにか出来そう?」


『護衛対象戦わせようとしてない?』

『ファウロスくん戦えるん??』

『鬼か?』

『龍な まあ、ほら、ハロさんだし』

『たしかに』


 うん、本当に私のこと何だと思ってるんだろうか? 鬼だなんて言われるようなこと、偶にしかしないよ? 偶にしか。

 

「え、そうですね、ウサギなら頑張れば三匹くらいいけるでしょうか……。狼は一匹でも大変です」

「そか。じゃああとで狼と戦ってみよか。一匹だけ残すからさ」


『この人話聞いてた?』

『やはりハロさんはハロさん』


 しゃらっぷ!

 限界が見たいのだよ私は。


 実際問題、どれくらいの猶予があるのかの判断材料にしたいんだよね。その辺りのことを説明したらリスナーたちにはある程度納得してもらえたよ。ファウロスは限界……って口をパクパクさせてたけど。


 ――お、あれは、二階層への入り口だね。中空に浮かぶ階段がある。頭の高さから先がないけど、空間を繋ぐ魔法の気配があるから、転移門みたくなってるんだろうね。

 ファウロの実力確認は、上ですればいいか。二階層なら大して変わらないだろうし。


 はてさて、どれくらいできるかな?



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