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世捨て人龍の配信生活~迷宮の底で人型龍になったけれど生活を充実させたいので配信者します~  作者: 嘉神かろ
第5章 幻想に惑う世界

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第160話 国たる個

160

 不意に現れたのは、金の(ぎよく)の嵌った冠。それを龍帝は、静かに額へ納めた。

 瞬間、放たれる圧力が格段に増した。不思議な感覚もする。まるでこの国の大地全てが敵に回ったような、何とも言えない感覚だ。

 魂力の支配力も上がっているようで、拮抗させるのに必要な力がどんどん強くなっている。

 いいね。


『ハロさんがやっと構えをとったな』

『真面目にやんなきゃいけないくらいってことか』

『てかハロさん 今どんくらい制限受けてんだ?』


 肌がびりびりするのを感じる。これは、強化の出力も上げないとダメかな。


「ゆくぞ」


 今度は龍帝から踏み込んできた。先刻の私と同じ大上段からの一撃。槍で受け止めると、その衝撃に空間そのものが揺れた。修練場の外周を囲んでいた壁が崩れ、見通しが良くなる。


 生きてる兵たちは、街へ続く門を潜ったあたりで解放軍に拘束されているようだった。指揮を執っているのは、牛音(ニヨウイン)狼戦(ランチヤン)。虎憲の姿は、全く別の塔の上にあった。


「夜墨、虎憲拾ってやって」


 邪魔だから。

 障壁は城壁沿いにある。あんなところに居られては、巻き込んでしまう。


「余裕だな」

「まあね」


 剣撃を躱せば背後の塔が両断され、切り返すと前方の宮が瓦礫となる。打ち合えば地面は陥没し、更地も増える。なるほど、龍に相応しい膂力じゃないか。


 じゃあ魔法だ。海水の龍を生み出してぶつけてみる。この超質量、どう対処する?


「カァッ!」


 龍帝の大喝一声。ただそれだけで水龍が弾けた。


「へぇ……」


 続けて(いかずち)の雨を降らせる。青白い閃光が大地を砕き、土煙が舞う。土の匂いとオゾンの匂いが混ざって鼻を突き、遅れて肉の焼け焦げる臭いが届けられた。

 海水に濡れた戦場だ。高圧電流から逃れるのは難しい。


 土煙の向こうで龍帝の肉体が煙を上げているのが見える。それなりのダメージにはなったみたい。


『天災じゃん……』

『皇帝さんが原型留めてるのやばいな』

『こうなると皇帝の方を応援したくなってくる不思議』


 リスナーには私が圧倒してるように見えるか。まあ、優勢なのは間違いない。けど圧倒してるとは言えないな。あるのは分かってるけど、まだ切られてない札もあるし。


「っ!」


 鳥肌が立った。直感の示したものに従って跳び退ろうとして、失敗する。

 足に絡みつくこれは、香の煙か。やられた。土煙に紛れて気付かなかった。


 能力の支配下にあるとはいえ、ただの煙。振り解くのは一瞬。でもその一瞬が明暗を分ける。

 宙に舞う土を突き破って、黄金の何かが跳び出してきた。龍鱗に覆われたそれは瞬く間に視界を覆いつくす。


「ぐぅっ」


 どうにか槍を盾にできたけど、やっぱりこの体は脆い。骨の折れる音が耳の内に響き、遅れて背中を衝撃が襲う。

 治す暇は、くれないか。辺りの暗くなった原因も探さないままに強く地面を蹴り、離脱。直後に先ほども見た黄金が大地を揺らした。


 見上げるとそこには、金色の煌めく巨体があった。黒い瞳孔を持った金の瞳が天より睨みつけてくる。揺らめく鬣も、髭も、全てが黄金で美しい。でもむき出しにされた牙は獰猛さを隠す気が無くて、彼のうちの野心が透けて見えるようだ。

 大きさは、夜墨よりは小さいかな。まあ、どうやら彼は龍の中でも殊更大きいみたいだし、龍帝が小さい訳ではないだろう。

 考えたそばから手札を切ってきたね。龍器の冠もそのままだ。


 龍帝の周囲に目をやる。魔法発動の予兆がいくつか。これは陽動だ。

 本命は、周囲に漂う煙。それはゆらゆら揺れながら、ぼんやり何かしらの文様を象ろうとしている。


 やっぱり、間違いない。


「我が国、ね。そういえば昔、朕が国家なりだなんて嘯いてた人がいたね」


 フランスのルイ十四世だったかな。


「フンッ」


 天から魔法の劫火が降り注ぐ。敢えて誘いに乗って魂力による無効化を行えば。煙の文字から別の殺意が向けられた。具現化された無数の槍は、蛇文(シェウェン)と同じ能力によるものだ。


 即ち、彼の龍器の能力は、配下の能力の完全再現。ステータスも上乗せされてるだろう。


 この国の兵力が充実するほど、龍帝は強くなる。なるほど、龍帝こそがこの国だ。全てを我が物とせんとする能力は、実の父を殺し、頂点を簒奪した彼に相応しい能力じゃなかろうか。


 強化を集中した尾を一振りし、分子結合破壊の力を込められたそれらを弾き飛ばす。いくらかの鱗が砕け鮮血が舞ったのは、あれらが私の命に届き得た証左だ。


 さすが、私と同じ時代に生まれただけある。この時代にそぐわない科学知識も、虎憲たちと龍帝を明確に分ける一因だろう。


「やるね。嬉しいよ」

「まだ我を見下ろすか。傲慢な女め」

「高い所に昇れば私を見下ろせると思った?」


 残念だけど、それは無理だ。

 一足飛びで彼の頭上に飛び上がり、眉間へ踵を叩きこむ。それだけで龍帝は再び地に落ちて、物理的な上下が入れ替わった。これが、互いの立ち位置だ。

 素の体力ステータスは大きく負けてるけど、強化の魔力出力が違うんだよ。


 もっと中国の兵たちが育ってたら、もしかしたら十割の私でも苦戦したかもしれないけど。


「貴方の玉座、譲ってもらうよ」

「……させぬ」


 おっと、雰囲気が変わったね。


「させぬぞ。この座は、私のものだ。誰にも渡さぬ……!」


 彼の魂が怒りに染まり、迸る黒色の魔力には私への殺意が情報として宿る。これまでは露にすることのなかった乱れが、ただ私を殺そうと暴れまわる。


 どうやら彼の逆鱗に触れてしまったらしい。どれだけ皇帝の立場に執着してるのか。


 紅蓮に血走った黄龍の(あぎと)が凄まじい勢いで昇ってくる。今まででいちばん早い。

 宙を蹴って牙を躱し、爪を槍でいなしてそのまま斬りつける。斬れたのは鱗と、その下の薄皮一枚。覇下(はか)の硬さの再現だ。


 もっと強く斬りつけないとだめか。――っと、危ない。

 地上から飛んできた岩を真っ二つにして躱し、一旦距離をとる。魔力に私個人への殺意が存分に籠ってるせいで、あんなのでもまともには受けられない。龍の逆鱗に触れる恐ろしさが分かるってものだ。


 まあ、激情を駄々洩れにしてるって意味では未熟さの表れだけど。


 劫火を打ち払い、牙を躱し、爪を弾く。そのいずれも今の私には十分すぎる脅威。一歩間違えればそのまま殺され得る。


「グルルァッ!」


 咆哮が全身を打った。周囲の建物が砂となる。第二皇女の力だ。

 ただでさえ私に特化した攻撃になってるのに、鱗を貫通して内側を砕くこれは辛い。口元を伝う血の感覚だなんて、いつぶりに感じただろうか。


 思わず動きを止めてしまい、その隙を突かれる。覚えのある炎は第一皇女のものか。死者の力まで使えるなんて、本当に強力な龍器だね。


「なんて、言ってる場合じゃないね!」


 身を焼くそれを魔力の放出で吹き飛ばし、追撃の爪へ槍の刃を合わせる。爪を裂き、肉を断った。今度の咆哮は龍帝の悲鳴だ。

 四本指の一つが宙を舞い、辛うじて形を保っていた建物を押しつぶす。


 三本指にした。それが更に怒りを買ったようだ。龍帝の魔力が、魂力がますます荒ぶる。余波が生み出したのは、まさに天災のそれ。天を稲妻が裂き、地上を大火が焼いて、両者を竜巻が繋ぐ。夜墨にお願いしておいて良かったよ。


 本当に、期待以上だ。暇つぶしと、私の逆鱗に触れたおバカさんの粛清、それだけの為に来たはずだったのに。

 


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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 なるほど…このビッグドラゴン化+煙を操る能力(?)が、息子達が恐れてた『皇帝の隠し玉』ってやつですかね? 自分以外はどうでもよい=自分以外の犠牲に一切躊躇しない輩だから、他の全て…
ハロさんにこにこ、直で見てる人は引きつった笑顔してそうだけど
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