第七話 剣魔祭予選
休日明けの次の平日。
その日の朝のホームルームの時。
「諸君!もうすぐ剣魔祭が開催される。剣魔祭は全国の剣術、魔法学校の一年生の代表を集め、それまでの研鑽の成果を発揮する場だ。ついては、その代表を決めるための大会を来月に開催する」
と、サーシャ先生が連絡として発表してきた。
なるほど、剣魔祭か。
剣魔祭は、俺が居た時代にもあったものだが、開催していた理由としては、建国したてで軍事力が乏しかったドレスデン王国の若い戦力を、王国が囲い込むための大会だった。
今ではそれが剣士、魔導士の研鑽の場になっているというのは、感慨深いものがある。
俺が過去の剣魔祭を思い出していると、サーシャ先生から追加の連絡が入る。
「ちなみに、特殊出場枠として、イツキの参加が決まっている」
「………ハァッ!?」
あまりの驚きに声が裏返ってしまう。
「え、いやいや、今、なんと?」
「イツキ、お前は既に出場が決まっている」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
教室に俺の魂の叫びがこだまする。
「え、その大会に出場するのって、学校の代表なんですよね?」
「ああ」
「で、その大会って、全国に学院の力を見せつける機会なんですよね?」
「そうだ」
「そんな学校の代表というか最早顔ともなる人物をそんな簡単に、しかも転移者から選んで良いんですか?」
本音は面倒臭すぎるからやりたくないのだが………
「ああ。これは私の判断であるとともに、お前のこれまでの功績を考慮した結果の判断だ」
「ええ………それにしても軽すぎる気がしますけど………」
「いいや、そんなことはない。この話を、他の職員に話した時、いろんないちゃもんをつけられたが、大丈夫だ」
「思いっきり反対意見出てるんじゃないですか!!」
「ふっ、そんなものねじ伏せてしまうほどの結果を、お前が残すだけで良いだろう?」
「そういう問題じゃないですよ!そもそも、俺の功績ってなんですか?」
「先日の王都襲撃の首謀者捕獲、その後の魔族襲来の迎撃、エマとの決闘での勝利、授業妨害しにきたレオンたちの撃退だな」
「うっ……」
反論できない。
襲撃の首謀者だったへリアスは、実力的にはC級の冒険者や中位の中級聖騎士レベルの実力はあったし、魔族に関しては、最低でもB級冒険者か、下位の上級聖騎士以上くらいでないと倒せないほどの魔物である。
「いやでも待ってくださいよ!俺はそもそも、出場する気はないですよ!」
「む、そうか?でもすまないな。お前が出場することは、もう既に開催委員会へと通達してしまってな」
「はぁっ!?」
「お前ぐらいになれば、優勝するくらい簡単だろう?頼んだぞ」
「まじかよ………」
これ以上争っても無駄なのだろうな………
俺は仕方なく大会出場をすることにした。
◇
そんなこんなで、意図せず剣魔祭出場が決定した俺は、みんながグラウンドで学院代表決定戦に参加する中、遠い目をしながらその試合を見ていた。
段々と試合は進み、ついに決勝戦が始まる。
俺たちZ組からも決勝に進んでいる生徒がいる。
試合形式はトーナメントで、俺含め代表は5名となるので、4ブロックに分かれて試合を行い、各ブロックの優勝者を代表とすることになっていた。
俺は誰が決勝に出ているのか目を凝らしてみると、4人見覚えのある顔があった。
1人は、第一ブロックで魔法をぶっ放している女の子。
「紗倉、あれ大丈夫なのか………?」
そう、1人は紗倉だ。
紗倉の顔をよく見ると、その目は据わっており、尋常じゃない剣幕で魔法を放ち続けていた。
「何を考えてるんだか……スキル〈読心〉発動」
スキル〈読心〉は、視界にいる人物の思考を読むスキル。
ランクによって読める深さが異なり、低ランクでは強い思考のみ、高ランクになると次の行動すら読めてしまう。
俺は紗倉に対してスキルを発動し、思考を読んでみる。
『勝つ勝つ勝つ勝つ!絶対に樹くんと大会に出て、「紗倉、よくやったな」って褒めてもらうんだ!!』
……なんというか、下心満載だな。
俺は「紗倉らしいな」と呟き、スキルを解除する。
まぁ見た感じ、相手を圧倒しているようだし、魔力量的にも余裕はあるから勝てるだろう。
そしてもう2人は、第三ブロックで槍と短剣を持ち、ぶつかり合っている2人だ。
「ん、あそこは橋と伊藤がやり合ってるのか。味方で潰し合うことになるのは、少し残念ではあるな………」
あの2人はいい勝負を繰り広げており、伊藤が短剣で絶え間なく攻撃を繰り出すのに対し、橋はしっかりと動きを見て攻撃を受け、時々の隙に反撃を入れている。
これはどちらが勝ってもおかしくないだろう。
最後の1人は第四ブロックの縦横無尽に動きながら魔法を放つ女の子。
「あれ、エマさんだな」
そう、入学前に突然決闘してきたエマさんだ。
彼女はしっかりと相手の攻撃を見つつ、それに対して最適な魔法を放っている。
「かなり持久戦に向いた戦いをしてるな。ありゃ長期戦になれば苦しいやつだな。威力も高いから相手によっては一撃で葬り去れるだろうな」
俺がみんなの戦いを分析していると、最初に第一ブロックで勝敗が決まる。
「草攻撃魔法【草鞭】!」
「しまっ、がっ………」
紗倉の対戦相手の男子生徒が着地した瞬間、地面から蔓が生え、彼にからみつき、首を締め付ける。
「あっ……ぐっ……がっ…ぁ」
酸素の供給を絶たれた男子生徒は、白目を剥き意識を飛ばす。
そこで紗倉は男子生徒を解放し、魔法を解除する。
「おお、反応速度上がってるなぁ」
第一ブロックで勝敗が決まったことで火がついたのか、次の他のブロックでも勝敗が決まる。
結果として、第三ブロックでは橋が、第四ブロックではエマさんが勝利した。
予定の最後では、優勝者4人と俺の5人が、出場権利授与されて終わりなのだが、そこでちょっとしたトラブルが起こる。
俺が優勝者たちの表彰と出場権利授与を舞台横で見ていると、背後から殺気を感じる。
「無属性防御魔法【魔力障壁】」
俺は背中側に結界を張り、攻撃を受け止める。
「………何か用か?背後から人を襲うのは趣味が悪いぞ」
俺は振り向き、背後にいた人物を確認する。
(確か彼は、決勝で紗倉に敗退してた男子か)
意識を失っていたはずだが、どうやらもう目が覚めたらしい。
俺は何もした覚えはないのだが、何やらものすごいご立腹のようだ。
「……本来なら、剣魔祭出場枠は5名。だからいつもなら、5ブロックで試合が行われ、出場選手が決定されることになっていた」
「だからなんだ?」
「だが、お前が特殊出場となったことで1枠減った。これが何を意味するか分かるか?俺は、俺たち敗者は、お前に可能性を潰されたんだよ!」
まぁ、それは否定しない。
俺だって望んだわけじゃない。勝手に決められただけだ。
それで怒られるというのは、些か理不尽な気がする。
「ふん、どうせ転移者だ。どういう手を使ったかは分からんが、どうせ大した力もない、出しゃばりたいだけの狂言者だ!覚悟!」
「はぁ、………後悔するなよ?」
俺は突如始まったエキシビションマッチを一瞬で終わらせるべく、馬鹿正直に突っ込んでくる男子生徒に魔法を放つ。
(面倒だ。一撃で終わらせる。スキル〈大賢者〉固有能力|《詠唱破棄》発動)
「雷攻撃魔法【蒼雷の落雷剣】」
瞬間、蒼雷が空を駆け、男子生徒を飲み込み、轟音と閃光とともに消滅する。
「が、ぁ………」
完全に油断していたタイミングでの上級魔法。
完璧に魔法を当てられた男子生徒は、黒焦げになりながら地面に崩れ落ちた。
「す、すごい……」
「あれが剣魔祭特別出場者イツキ・フタイリか………」
「あの人、剣持ってるのに魔法を撃ったよね?」
「“襲撃撃退の英雄”、“転移者史上最強”、“エマ=ランドルーを倒した男”の名は伊達じゃねぇってことか………」
周囲から数々の評価とこれまでの批評が聞こえてきたが………
(いやまぁ事実なんだがな?流石にここまででかい評価と二つ名を貰っちゃ、困惑もするってもんよ。こちとら元高校生やぞ)
そんなこと言ったら元勇者やろがい。と自己ツッコミをしつつ、俺は舞台へと登り、舞台の上にいた理事長であり、担任のサーシャ先生の前へ向かう。
「イツキ・フタイリ。貴殿の現時点でのその実力、並びにこれまでの功績において、その活躍を賞し、剣魔祭への出場権を与える」
俺が差し出された権利書を受け取ると、先生が話しかけてくる。
「お前には出場を強制する形になってしまったが、よく出場してくれた。ありがとう」
「どうせ拒否しても出ることになったんですから、今更ですよ」
「そうか」
「まぁでも、やるからには、優勝までうちを持っていきますんで」
俺は優勝宣言をしてから、権利書を小脇に抱え込んで、全校生徒の集まるグラウンドに向き直る。
「ここにイツキ・フタイリ、サクラ・イチミヤ、リタ=ノワール、キョウ・シンカワ、エマ=ランドルー5名の剣魔祭出場を宣言する!」
その宣言が響き渡るとともに、周囲から歓声が上がる。
◇
それから数日。
俺たち剣魔祭出場者は、親睦を深めるために体育館へと集まっていた。
「さて、全員集まったわね。早速だけど、自己紹介をしていこうかしら」
そんなわけで早速自己紹介をすることに。
「では、私から。私はエマ=ランドルー。ランドルー公爵家長女よ。よろしく頼むわ」
エマさんの自己紹介が終わると、隣の初対面の女子生徒が自己紹介を始める。
「リタ=ノワールです。ノワール子爵家次女です。足を引っ張らないように、頑張ります」
次は紗倉。
「サクラ・イチミヤです。転移者で、魔法で戦ってます。よろしくお願いします」
そして橋。
「キョウ・シンカワだ。同じく転移者。あまり自信はないが、よろしく」
最後は俺だ。
「イツキ・フタイリ。同じく転移者。特別出場枠での出場。よろしく」
俺は念の為に、一応メンバーの能力鑑定をしておく。
●
個体名
エマ=ランドルー
レベル
Lv28
職業
第一職業 賢者
第二職業 英雄
ステータス
体力 6860/6860
魔力 7540/7540
霊力 1030/1030
妖力 1210/1210
輝力 6100/6100
攻撃力 5430
防御力 4970
瞬発力 5230
持久力 5420
魔法攻撃力 7210
魔法防御力 7560
魔法回復力 5980
適正属性
炎
水
雷
スキル
賢者 S
英雄 A
魔力感知 B
獅子奮迅 UN
所属流派
閻魔獄炎流 奥伝位
●
個体名
リタ=ノワール
レベル
Lv29
職業
剣帝
ステータス
体力 6990/6990
魔力 7870/7870
霊力 900/900
妖力 1010/1010
輝力 6320/6320
攻撃力 5690
防御力 5210
瞬発力 5460
持久力 5630
魔法攻撃力 7680
魔法防御力 7970
魔法回復力 6130
適正属性
風
土
スキル
剣帝 S
回復力増強 A
疾風迅雷 UN
所属流派
烈波陣風流 皆伝位
●
個体名
キョウ・シンカワ
レベル
Lv24
職業
英雄
ステータス
体力 5320/5320
魔力 6080/6080
霊力 420/420
妖力 720/720
輝力 4980/4980
攻撃力 5130
防御力 4870
瞬発力 5040
持久力 5090
魔法攻撃力 4230
魔法防御力 4580
魔法回復力 4300
適正属性
氷
スキル
英雄 A
電光石火 UN
ギフト
英雄 SS
所属流派
氷華雪月流 奥伝位
●
個体名
サクラ・イチミヤ
レベル
Lv26
職業
賢者
ステータス
体力 5410/5410
魔力 6680/6680
霊力 300/300
妖力 410/410
輝力 4580/4580
攻撃力 3270
防御力 3340
瞬発力 4050
持久力 3970
魔法攻撃力 5370
魔法防御力 5520
魔法回復力 5750
適正属性
水
草
スキル
賢者 S
慧眼 A
ギフト
賢者 SS
●
(これがうちの最高戦力か。確か、本番は先鋒、次鋒、中堅、副将、大将の勝ち抜き戦だったはずだから、特に問題はないな)
もしこれが三本先取の交代戦であれば、かなり不利になるところだった。
転移者組の戦闘経験の浅さから、リスクを抑えるには、どうしても俺、エマさん、リタさんの勝利が必要になってくるからだ。
勝ち抜き戦なのであれば、もしメンバー全員やられたとしても、俺が相手チーム全員を倒せばいい。
「さて、自己紹介が終わったところで、順番を決めましょうか」
「そうだね。決める方法は、くじでいいかな?」
「ふふ、リタ、そんなわけないでしょ。何のために体育館を借りたと思っているのよ」
「エマちゃん、まさか、決闘で決めるとか言わないよね………?」
「ふふ、その通りよ!イツキ・フタイリ、あの時の屈辱、果たさせてもらうわ!」
そう言って自信たっぷりに笑うエマさん。
「またかよ…………」
そんな俺の呟きは笑い声にかき消された。
みんな成長してますね。島です。
なんかお祭りがあるそうですが、まあ大丈夫でしょう。
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それでは。