第六話 デートと怒り
やっとの思いで告白し、ついに恋人になった俺と紗倉は、次の日が休日だったため、街へとショッピングに出ていた。
「樹くん樹くん!あれあれ!」
今の俺たちの服装は学院の制服。
学院から、外出時にも制服を着ていくことが推奨されているのだ。
理由としては、学院の存在感と学院の生徒を街全体で見守り、同時に監視するため。大変理にかなっている。
周囲にもかなりの数の学院生徒がいる。
「お、おお、すごいな」
目の前にはこの街のシンボルである勇者像があった。
そう、勇者像である。
(うわぁ、俺だぁ)
この世界には、数々の勇者が存在するのだが、この国を作ったのは前世の俺なのである。
この国で俺が勇者として祀られるのは必然ということだ。
剣を地面に突き刺し、その柄の上に両手を置いて、仁王立ちをしているその像の顔は、かなりのイケメンで、少し盛りすぎな気がする。
「へぇー、この人、魔王を倒してこの国を作った勇者なんだね」
「そ、そうなんだな〜……」
正直、当事者としては苦笑するしかない。
そこで、像の俺が持っている剣を見て思い出す。
(近々、アイツらにも会いに行っておかないとな)
俺は、従魔以外に、前世にゆかりのある者たちに会いに行こうと思ったのだった。
しばらく街を歩いていると、武器屋を発見する。
「お、ちょっとあそこ寄っていいか?」
「……?武器が欲しいの?」
「んーまぁ、そうだな」
俺は掴みどころのない返事をしながら、紗倉の持つ杖と、俺の刀を鑑定する。
●
アイテム名
打刀×2
ランク
C
属性
無
耐久力
2570/3000
スキル
攻撃力増強 C
●
アイテム名
青玉の杖
ランク
C
属性
水
耐久力
3980/4700
スキル
魔力効率上昇 C
水属性強化 D
●
(もう少し強い武器の方がいいよなぁ)
今持っている武器でも、そこまで問題はないのだが、どうせならもう少し強い武器の方がいいだろうと感じつつ、武器屋へと入る。
「おや、学生さんいらっしゃい!」
(………新◯さんいらっしゃい?)
なんていう下らない脳内ボケをかましつつ、見事なヒゲを蓄えた店主さんに話しかける。
「ちょっと、武器を新調したくて」
「それなら、上物が揃ってるよ!存分に見ていきな!」
「ありがとうございます」
俺はまず刀のコーナーへと向かう。
長年、あらゆる武器を扱ってきた俺にとって、良い武器を見抜くことはかなり容易い。
ある程度物色した俺は、一本の刀に手を伸ばす。
(おっとこれは………)
刀を手にした所でわかる。
(妖刀だな)
妖刀というのは、本来無属性であるはずの刀に、莫大な闇属性の魔力が宿り、普通の武器では得られない、特殊な力を持ったもの。
試しに鑑定してみる。
●
アイテム名
妖刀叢雨
ランク
A
属性
闇
耐久力
∞/∞
武器種
打刀
スキル
不壊化 S
吸血 S
切断の呪い S
●
(こりゃヤベェな)
特に呪いが付いているのはヤバい。
切断の呪いは、その呪いが付いている武器を抜刀した際、一定数の人間を斬らなければ、鞘に納めることも、刀から手を離すことも出来ないという、人殺しを強制させられる呪いだ。
(これは後で浄化するべきだな。他者を巻き込まないためにも)
俺は、この刀の被害を防ぐために購入を決意し、今度は他の刀を手に取る。
(んんっ!?)
またもや手にした刀に異常を感じる。
(これ聖剣じゃねぇか!)
聖剣というのは、妖刀と生成メカニズムは全く同じなのだが、宿る魔力が光属性であるという違いがある。
これまた鑑定してみる。
●
アイテム名
聖剣天羽々斬
ランク
A
属性
光
耐久力
9800/9800
武器種
打刀
スキル
自己再生 S
浄化 S
武神の加護 S
●
(これは寄贈だ)
俺はこの刀の悪用を防ぎ、国へ寄贈するために購入を決意する。
(まさか妖刀と聖剣があるとはな………)
俺が若干呆れながら、一度刀のコーナーを離れ、片手剣のコーナーで一本剣を手に取った瞬間、察する。
(今度は魔剣かよ………)
この店一体どうなってんだ。
魔剣というのは、エルフ族が作り出す武器の中でも、最上位に位置する武器で、様々な属性の魔力を大量に宿らせることにより、意図的に生み出された聖剣だ。
一応、これも鑑定してみる。
●
アイテム名
魔剣レーヴァテイン
ランク
B
属性
氷
耐久力
15400/15400
武器種
片手剣
スキル
氷属性強化 A
斬撃飛翔 B
氷塊操作 B
●
(……うん、まぁ、これは買った人がラッキーだったってことで)
俺は魔剣を棚に戻し、再び刀のコーナーに戻り、物色する。
(流石にもう(妖刀とか聖剣とか魔剣とか)ないよな?あれじゃない、これじゃない………お?これは……)
俺は良さそうな刀を見つけ、鑑定する。
●
アイテム名
打刀(完全強化)
ランク
A
属性
無
耐久力
3700/3700
武器種
打刀
スキル
攻撃力増強 A
空
空
空
●
(スキルスロットに空きがあるのか。これ良さそうだな)
俺は手に取った刀と同じ条件の物を見つけ出し、刀4振りを持ったまま、今度は杖のコーナーへと向かう。
(草と水属性の杖は………っと、あったあった)
●
アイテム名
成長の杖(完全強化)
ランク
A
属性
水
草
耐久力
5600/5600
武器種
両手杖
スキル
水属性強化 A
草属性強化 A
空
空
●
(うん、これ買おう)
俺は杖も取り、会計へと進む。
「おっ、兄ちゃん、刀4振りに杖1本とは、中々羽振りが良いじゃないか!」
「ええ、まぁ」
「ちょいと待ってくれよ………」
店主さんは紙とペンを取り出し、計算をする。
「合計で7820DSだな」
DSというのは、この世界における共通通貨で、基本的に、商売ではこの通貨が扱われる。
名前の由来はDRESDEN。
「ただ、兄ちゃんは学院の生徒だし、羽振りもいいときた。特別にサービスで3500DSまでまけてやらぁ!」
「いいんですか?」
「おうよ!」
「ありがとうございます!これどうぞ」
「おう!確かに貰ったぞ!訓練、頑張ってこいよ!」
「ありがとうございました!」
俺はお金を払い、全て受け取った後、店主さんに挨拶をしてから店を出る。
妖刀と聖剣は【道具箱】へと収納、刀は差し替え、杖は紗倉に差し出す。
「はいこれ」
「え?」
「紗倉の適正属性、水と草だっただろ?だから、こっちの杖の方がいいかと思って」
「これ、私のために?」
「ああ。彼氏からのプレゼントだ」
俺が「彼氏として、彼女への贈り物だ」と言うと、紗倉は嬉しそうに受け取ってくれる。
「ありがとう!戦いの時も心強いよ!大切にするね!」
そう言って満面の笑みを向けてくる紗倉。
その笑顔が見られただけでも、良かったと言えるだろう。
◇
「今日は楽しかった〜!」
「そりゃ良かった」
今日はせっかくのショッピングなので、色々と物を買った。
因みに、お金はというと、俺が分身を生み出して、前世で狩った魔物の素材を売ることで得た。
かなり高ランクの魔物の素材だったので、怪しまれないように分けて売ったのだが、かなりの金額になった。(桁は8桁行ったとか行かなかったとか………)
今は街の隅にある喫茶店のテラスで休憩をしている。
しばらく会話に花を咲かせていると、俺のスキル〈剣聖〉と〈大賢者〉の常時発動能力|《殺気感知》と《魔力感知》が、悪意に満ちた殺気と魔力を察知する。
俺が街の中心部を見ると、そこには黒いモヤがあった。
「あれは……」
瞬間、ドス黒い闇がモヤから溢れ出し、布切れのようなものが飛び出してきた。
そして、俺は叫ぶ。
「魔物!!」
その言葉をきっかけに、モヤの方を見ていた人たちは一目散に逃げ出し、周囲にいた学院生徒は自身の武器を構える。
「〈神眼〉能力《鑑定》発動」
●
種族
エルダーリッチ S
スキル
再生 SSS
魔力回復 SS
闇属性無効 S
●
「エルダーリッチか……」
死霊魔導士王は、大賢者レベルの魔導士の死体に魔力が宿り、魔物化したものだ。
意思はなく、生前に使用していた魔法やスキルを扱い、人を襲い続ける。
ランクはSランクに分類され、相当な強敵とされる。
「面倒臭い相手が出て来やがった……」
俺がため息をついていると、奴は右手を上げ、魔法を放つ。
「オロカナルニンゲンドモヨ、ワレノオソロシサニオノノクガヨイ!闇攻撃魔法【新月の夜】!」
「空間防御魔法【空間断絶】」
俺は奴が魔法を発動するのと同時に結界を展開する。
しかし、なぜかその魔法は結界をすり抜け、こちらを襲う。
「!?」
辺りが暗闇で包まれた瞬間、周囲から悲鳴が上がる。
「嫌!いやー!!」
「ぐぁぁぁぁぁあ!!」
「あ、あ、あぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
悲鳴を聞いて俺は思考を巡らせる。
(どういう事だ?俺は奴が魔法を放った瞬間、奴の周囲を【空間断絶】で包んだはずだ。空間ごと断つ防御魔法だから出力は関係ないはずだ。だとしたら、《鑑定》が間違っていた?………まさか!)
嫌な予感がしてすぐに確認する。
「〈神眼〉固有能力《超鑑定》発動!」
そこで、嫌な予感は的中した。
●
種族
エルダーリッチ S
スキル 偽装状態
再生 SSS
魔力回復 SS
完全偽装 SS
必中 S
闇属性無効 S
●
(やられた!)
俺は再鑑定結果を見て歯噛みする。
(相手が魔物だと侮ったのがいけなかった!防御貫通の〈必中〉に〈完全隠蔽〉を持ってたとは、完全に予想外だ!)
そこで俺は、もう一つの失敗に気づく。
「い、樹くん……?」
「っ!紗倉!」
「っ、嫌………」
「紗倉!紗倉!!」
「いやぁぁぁぁぁぁあ!!」
「くっ、〈従魔士〉固有能力《能力共有〈吸魔の炎〉》!」
闇攻撃魔法【新月の夜】は、攻撃対象に対して、一番トラウマになり得る幻覚を見せる精神攻撃系魔法。
俺は〈精神攻撃無効〉のスキルがあるために、この魔法の効果を受けなかったが、紗倉は完全無防備。この魔法をモロに喰らっている。
おそらく、紗倉が見たのは、俺関連の幻覚だろう。
幸せの絶頂からどん底へと叩き落とされるその辛さ、トラウマになるには十分だ。
俺は魔力を吸収する従魔、シアンのスキル〈吸魔の炎〉で紗倉を優しく包み込む。
「う、うぅ……」
「紗倉!紗倉!!」
幻覚に泣きじゃくる紗倉の肩を揺さぶり、名前を呼ぶ。
「い、つき、くん……?」
「紗倉!」
俺は虚な目をした紗倉を抱きしめ、優しく語りかける。
「大丈夫、今のは幻覚だ。俺が紗倉を捨てるなんてことは、絶対にないから」
「うん………うっ、ぐすっ」
これは相当なダメージだ。俺のせいでこうなったのだ。俺が責任を取るべきだろう。
しばらく頭を撫で続け、落ち着きを取り戻した紗倉に話しかける。
「紗倉、俺は今からあの魔物を潰しに行く。少しだけ、1人で頑張れるか?」
「……キスしてくれたら、頑張れる」
「分かった」
俺は紗倉を抱き寄せ、頬に手を当て、その唇を奪う。
10秒ほどたっぷりと口付けしあった俺たちは、どちらからともなく離れ、俺は魔物の方へと飛ぶ。
「行ってくる」
「うん。頑張って」
「ああ。重力魔法【反重力】」
闇の中、魔力を頼りに飛び続け、ついに闇の外へと飛び出る。
そこには、この惨状を引き起こした元凶がいた。
「ナッ!?」
「お前は、犯してはいけない、3つの罪を犯した」
俺は冷酷に、淡々と告げる。
「一つ、この街を襲ったこと」
構築する魔法術式に少しずつ、怒りの感情が混ざってゆく。
「二つ、大勢を巻き込んだこと」
最後のこれだけは、何がなんでも許せない。
「三つ、紗倉を泣かせたことだ!!」
俺は極大の魔法陣をノータイムで構築し、魔法を発動する。
「喰らえ、光攻撃魔法【審判の光】!!!」
俺の怒りに呼応した魔法陣から、極大の光の矢が放たれる。
「ナ、ナンダコノシュツリョクハ!?マ、マサカ、ニンゲンニコレホドノジュツシャガイタトイウノカ!?ソ、ソンナバカナ!コ、コノワレガ、ニンゲンゴトキニィィィィィィ!!」
回避不能の魔法を全身で受けたエルダーリッチは、闇で構成した体を浄化され、落下していく。
「……ゴミが」
俺は最後にとんでもない強さの殺気の籠った言葉を吐き捨て、紗倉の元へと戻った。
〜サーシャside〜
「一体、何が起こった!?」
私は、街中でのエルダーリッチ出現の報を受け、剣聖として、教師として、エルダーリッチ討伐に向かった。
現場は、遠くから見てもわかるほど大きい黒いドーム状の闇で包まれ、大惨事となっていることが容易に想像できた。
私がもうすぐで辿り着くといった時、ドームの頂上で、何かが光り輝いたかと思えば、そこには巨大な光の矢があった。
その光の矢は、一瞬でエルダーリッチを飲み込むと、枝分かれし、闇のドームに突き刺さる。
瞬間、闇のドームは崩壊し、倒れた人たちだけが残った。
エルダーリッチが居た場所には何もなく、倒れた人以外に襲撃を物語るものは無くなっていた。
「あれは一体………大賢者レベルの力が無ければ、あれほどのことは出来んはずだが………と、ともかく、スキル〈地獄耳〉発動!」
私はスキルを発動し、被害状況を確認する。
『う、うぅ………』
『あ、あぁ……助、かった?』
『紗倉、大丈夫か?』
『う、うん。大丈夫だよ』
(うん?これは………イツキとサクラがいるのか!?)
私はこの惨状に巻き込まれた教え子を探すために再び走り出した。
〜樹side〜
「イツキ!サクラ!」
「ん?あっ、先生!」
俺が紗倉のそばで周囲を警戒していると、道の向こう側からサーシャ先生が走ってきた。
「お前たち、外出中だったのか。大丈夫か?」
「ええ、俺の方は何とか耐えられたんですが、紗倉の方が被害が大きいようで……」
「……分かった。すぐに回復魔導士を呼ぶ。イツキは被害状況を調べてもらいたい」
「了解しました」
「頼んだ」
俺は上空から見た時に、闇のドームが広がっていた範囲を走り回りながら、被害者数を数えていく。
(1、2、3、4、5、6、7、8、9………………)
数えながらしばらく走り続け、外にいた被害者の数を数え終えた俺は、今度は建物内の被害者数を数えていく。
と言っても、いちいち建物の中に入るのは面倒臭いので、スキル〈大賢者〉の《魔力感知》を活用して、魔力の数を調べる。
(………………うん、総数583人、かな?)
それにさっき数えた外にいた人数を合わせる。
「869人、か。いや、俺と紗倉合わせて871人だな」
被害者を数え終えた俺は、紗倉の元へ戻る。
そこには、複数の回復魔導士から治療を受けている紗倉と、サーシャ先生がいた。
「先生」
「イツキ、どうだった?」
「はい、俺たち含めて871人ですね」
「そうか………まさか被害が1000人近いとは………すぐに州軍の回復魔導士全員を動員し、被害者の治療にあたれ!」
「「「「「はっ!」」」」」
先生の指示を受けた軍人と思われる人たちはすぐに駆け出す。
「先生って、軍人なんて動員できるんですね」
「ああ、私は勇者学院の理事を務めるとともに、この国の剣聖を担っているんだ。ある程度の軍の使役能力はある」
「ええ……俺らどんなすごい人に教えてもらってるんですか……想像出来ないですよ」
「はっはっは!まぁ、お前たち含めた転移者計画は、国が主導の計画だからな。その教育係に私が抜擢されるのも納得といったところだ」
「ところで、確か賢者もいるんですよね?今どうしてるんですか?」
「あぁ、それは国家機密でな。ちょっと教えられない」
「そうなんですか」
その後、俺と紗倉は取り調べを受け、学院へと戻った。
デートです。島です。
樹くんブチギレました。
一瞬ですが、樹くんの全力が見れましたね。
これ樹くんに勝てる人いるの?
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それでは。