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第五話 告白

「勝ったぁぁぁぁぁああぁぁあ!!」

「すげぇぞー!二杁ー!」

「でも、どうしてあの人は突然寝返ったんだろう?」

「ちょっと怪しいよね………」


 乱入してきたレオン君たちにより突如始まった戦闘。

 その感想を口々に発しているが、どうやら突然こちら側についたリーナさんへの疑念が残っているようだ。


 俺はその疑念を払うために、リーナさんに近づき、加勢の礼と共に右手を出す。


「リーナさん、こちら側への加勢、ありがとうございました」

「貴方、単独でレオンたちを倒せる力を持っていたのに、どうして私なんかを………」

「俺の矜持は“弱きを助け、強きを挫く”です。貴女が弱いとは言わないが、少なくとも、あの状況を黙って見ているほど、俺は非情じゃなかったって事です」

「……こちらこそ、ありがとうございます。私を、後悔の沼から救い出してくれて」


 そう言って、リーナさんは俺の右手を取る。

 そして、俺たちは互いに笑い合う。


「あれ、なんか、いい雰囲気?」

「案外何も心配することは無いのかもね」

「ていうか、何があっても二杁が解決しそうだしな」

「確かに」

「それはそう」


 周囲の反応を見るに、大きな誤解をされていそうな気がすることを除けば、大方いい反応だ。


 その時、修練場の扉から1人の教師らしき人が入ってきた。


「はぁ、はぁ、い、いた。こんなところに。はぁ、はぁ」

「おいリアム!これはどうなっている!B組はお前の管轄だろう!」

「り、理事長!?も、申し訳ありません!もちろん教師としてレオンたちを止めたのですが、言うことを聞かず、結果として理事長に多大なるご迷惑をかけることに………」

「はぁ、全く………今回はイツキがなんとかしてくれたからいいものを………まぁいい。今回はレオンたちの独断で行ったこととし、イツキ、リアム、リーナの行動は不問。レオンとその取り巻き3人は、授業妨害、器物破損、その他学院生徒として相応しく無い行動をしたとして退学処分とする!いいな!」

「はっ!」


 どうやらレオンたちは退学になるようだ。

 まぁ、自業自得だ。仕方ない。

 俺がその処分に安心していると、サーシャ先生がこちらに向かってくる。


「イツキ、今回はよく乱入者を撃退してくれた。担任として鼻が高いぞ」

「ありがとうございます」

「望まぬ戦いをさせられていた女生徒を助けたのも、褒められるべき行為だ」

「!?な、なぜそれを」


 俺は先生がリーナさんの事情を知っていたことに驚いた。

 その理由は、すぐにサーシャ先生の口から語られることになる。


「ここだけの話だがな、私は〈地獄耳(じごくみみ)〉というエクストラスキルを持っていてな。半径1㎞以内の会話ならハッキリ聞こえるんだ」


 俺はその話を聞いて〈神眼〉で確認する。


 ●


 個体名

  サーシャ=アスタリア


 レベル

  Lv43


 職業

  第一職業 剣聖


 ステータス

  体力    11560/11560

  魔力    15320/15320

  輝力    13780/13780

  攻撃力   17230

  防御力   16430

  瞬発力   14510

  持久力   12930

  回復力   11730

  魔法攻撃力 9320

  魔法防御力 9730

  魔法回復力 9180


 スキル

  地獄耳   SSS

  剣聖    SS

  攻撃力増強 S

  魔力増強  A


 適正属性

  炎

  氷


 ●


(剣聖か。相当な実力なのは分かっていたが、まさか剣聖だとは………)


 俺はサーシャ先生のステータスに少々驚きながら、鑑定したことがバレないように反応する。


「そうなんですか。通りで……」

「ああ。とりあえず、良くやった」

「ありがとうございます」


 その後、レオン君たちは、学院の守衛に連れられ何処かへと行ってしまった。

 それからレオン君の姿を見たものは誰もいないそうだ。


 ◇


 その日の授業を終えた俺たちは、この世界に家が無いので、もちろん寮生活となる。

 というわけで、俺は自分に割り当てられた部屋へと向かう。


 寮は、あちらの世界のアパートのような作りをしているが、一部屋一部屋が広く、全ての部屋にリビング、ダイニング、キッチン、寝室、浴室が付いているのだ。

 これも街一つが学院であることの利点で、先に学校を建てた関係上、寮の広さが自由自在になるのだ。


「ここが俺の部屋か」


 しばらく歩いて、自分の部屋へと辿り着いた。

 部屋番号は3201。3号棟の2階の1号室。端の部屋になる。

 俺は事前に受け取っていた鍵を使って扉を開け、中に入る。

 中は綺麗に整えられ、椅子にテーブルにソファはもちろん、なんとテレビに冷蔵庫にエアコンまで付いている。


「おお、まさかこっちの世界もテレビがあるのか」


 なんせ俺が死んでから千数百年経っているのだ。

 技術の進化があっても不思議では無い。

 この部屋だけ見れば、最早現代である。


 俺は早速、制服を脱いで別の服に着替える。

 この服は、王家専属の着付け師が見繕ってくれたもので、後何着かは持っている。


「それにしても、やっぱり腕が落ちてるなぁ」


 俺はこちらの世界に来てからずっと思っていたのが、自身の戦闘の腕が鈍っていることである。


 全盛期の自分であればしないようなミスでも、今ではしてしまうようになっていたのだ。


「ちょっと鍛え直すか」


 俺はそう思い立つと、刀を持って魔法を発動させる。


「空間魔法【異空間生成(アナザーワールド)】」


 瞬間、周囲の景色が自分の部屋から、地面は紫、空は青空だが、太陽は無く、それでいて常に明るいという不思議な空間に切り替わる。


「さて、ちょっと本気出そうか」


 ここは俺が空間魔法で作り出した異空間。

 外界とは隔絶された空間であるために、どれほど強力な攻撃を放とうとも、外部に影響は出ない。感覚を取り戻す特訓場としてはうってつけなわけである。

 従魔たちの空間もこの魔法と各属性魔法を組み合わせている。


「スキル〈賢者〉固有能力《詠唱破棄(えいしょうはき)》発動」


 俺は右手を出し、魔法を放つ。


「炎×土合体魔法【火山噴火(かざんふんか)】土×雷合体魔法【電磁砲(レールガン)】氷精霊魔法【精界の大氷塊(ヨトゥンフロスト)】重力極大魔法【無限の質量(ブラックホール)】」


 俺はスキルを発動して詠唱をなくし、手当たり次第にデカイ魔法をぶっ放す。

 ちなみに、これだけの魔法を外界で放てば、おそらく2〜3個くらいの国は無くなるだろう。


「ふぅ、威力も精度も落ちてないな。問題は剣術か。ギフト〈再現者〉発動」


 俺はギフトの力を使い、全盛期の俺の分身を作り出す。

 そして互いに剣を抜き、走り出す。


「陽光流[陽連斬(ようれんざん)超新星(ちょうしんせい)]![飛陽(ひよう)天照(あまてらす)]![日食(にっしょく)金環の太刀(きんかんのたち)]!!」

「月光流[蓮月(れんげつ)二十重月(はたえつき)]![飛月(ひげつ)月読命(つくよみ)]![月食(げっしょく)皆既の太刀(かいきのたち)]!!」


 月光流は、あらゆる盤面において高ポテンシャルを発揮させようと、俺が前世で編み出した流派。

 故に、威力としては弱い方であるため、陽光流の威力は本来であれば、相殺できないのだが、今の俺は腕が鈍り、相手の俺は全盛期。

 完全に相殺される。


「おっとマジか……陽光流を月光流で相殺されるほどとはな……」


 予想よりも遥かに訛っていた腕を元に戻すために、俺は全力で自分自身に立ち向かおうと決心した。


 ◇


「はぁ、はぁ、はぁ、な、何とか、勝てた」


 特訓開始からおよそ6時間。

 俺は全盛期の頃にギリギリ勝てるくらいまでには感覚を取り戻していた。


「ふぅ………よし、そろそろ終わるか」


 俺は全ての術とスキルを解除し、元の部屋へと戻る。


「………シャワー浴びよ」


 かなり集中していたために、自分の体が汗と血まみれであることにやっと気づいた。

 傷に関しては、高度な回復魔法を使って治療しているので、痕すら残っていない。


「ふぃ〜……さっぱりした……」


 やはり、運動の後のシャワーとクールダウンはなんとも言えない心地よさがある。


 そうして俺がリビングのソファで寛いでいると、何やらインターホンが鳴る。


「あんまり気にしてなかったが、インターホンあるんだな……それにしても、こんな時間にアイツは何しに来たんだ?」


 現在時刻は夜の12時過ぎ。人が尋ねてくるような時間じゃない。


 魔力と気配から、扉の向こうにいる人物が誰なのか察しつつも、俺は普通の足取りで玄関に向かい、扉を開ける。


「こんばんは、樹くん」


 そう言って、満面の笑みを向けてくるのは、俺の幼馴染である一宮紗倉だ。


「なんかデジャヴだな。それで、こんな時間に何か用か?」


 俺が要件を問うと、紗倉は神妙な面持ちになる。


「うん。実は、樹くんに、どうしても伝えたい事があって……」

「………分かった。とりあえず入れ。寒いだろ」

「うん、ありがと」


 紗倉を部屋に入れた俺は、キッチンでお湯を沸かし、コーヒーを2人分淹れ、片方を紗倉に渡す。


「ほらよ」

「ありがとう」


 俺はそのまま紗倉の隣に座り、コーヒーを啜る。

 しばらくの間沈黙が流れ、体感10分程経った時、紗倉が口を開く。


「………樹くん。私、言いたい事があるって言ったよね」

「……ああ」


 それを聞いて、俺に対する告白のために、紗倉は来たのだと理解する。


「その前に、少しだけ、私の最近の悩みを話したいの」

「………」

「私にはね、好きな人がいるの。冷静で、優しくて、カッコよくて、なんでも器用にこなして、最近では、皆から尊敬もされてる、すごい人」


 ………これ本当に俺か?

 褒められ過ぎて逆に実感ないんだが……


「でも最近は、その人がだんだんと、遠いところに行ってしまっているような気がしてるの」


 確かに最近は、主に実力面で、紗倉だけじゃなく、他の奴らも置いてけぼりにしている感は否めない。


「それで、私は思ったの。『もしかしたら、このままだともっと遠いところに行ってしまうんじゃないか』って」


 俺は黙って話の続きを待つ。


「私は、どうしても怖かった。その人が、私の大切で、大好きな人が、私の手の届かない場所に行ってしまうのが」


 本当に不安なのだろう。

 紗倉の両手はギュッと握られ、暗い表情をしている。


 この後に綴られる言葉を、俺は知っている。


「だから、今、私の気持ちを伝えようと思う。私、樹くんが好き。私と、付き合ってください」


 そうして告白された俺の内心は、ものすごく落ち着いていた。

 紗倉が嫌いというわけではない。

 何をしてくるか大体予想できたので、動揺はしていないというだけ。

 そう、“動揺は”していない。


 俺は、嬉しかったのだ。

 1人の女性から、こんなにも思われている事が、何よりも嬉しかった。


 前世では、敬われ、偶像化され、逆に妬まれ、恨まれ、そういった恋愛と無関係な一生を歩んだ。

 転生した時、「平和に生きたい」と思ったのも、これが一つの理由だったりする。


 だが、嬉しい反面、困惑もあるわけで……


「……すまん、少しだけ、時間をくれ。気持ちを、整理したい」

「……うん。私、待ってるね」

「……ああ」

「それじゃあ、私、用が済んだから、自分の部屋に戻るね」

「分かった。部屋まで送ろう」

「ありがとう……やっぱり優しいね」

「……当たり前だよ」


 外に出て、特に会話もなく紗倉を部屋に送り届けた俺は、自分の部屋に戻り、就寝準備をしながら考える。


(俺は、紗倉にどう答えれば良いのだろうか……少なくとも、嫌いでは無い。だが、好きではあるが、親愛なのか、恋愛なのか、わからない)


 実はここ1ヶ月、紗倉からのアピールが日を増すごとに大胆になって行っているような気がしていた。

 何かにつけて俺のそばに居ようとするし、幼少の頃からしなくなったスキンシップをしてくるし、何より色仕掛けまでしてくるようになった。


 今思えば、あれは多分、紗倉の中の恋心が溢れそうになってたんだろう。


「俺は、どうすればいいんだ……」


 俺はそう呟き、眠りに落ちていった。


 ◇


 それから4日が経った。

 その間、学校の授業は滞りなく進み、今では大体のことは決まっていた。

 もちろん、その内容は頭に入っているのだが、俺はここ数日、心ここに在らずといった状態になっていた。

 ただ、4日も経てば、ある程度は心に余裕ができる。


(恋愛と親愛の違いってなんだ?やっぱり、恋人同士のような事ができるかどうかなのだろうか?もしそうなら、俺のこの感情は恋愛感情ということになる)


 客観的に見れば、もうほぼ答えが出ているような考えだが、恋愛初心者の樹にはそれは分からない事だ。


 ふと、紗倉が視界に入る。


 その表情は、いつも通りに見せかけて、内側では、不安で満ちたような表情をしていた。

 よく見れば、その左手は硬く握られており、不安を抑えようと必死なのが伺える。


(紗倉、あんなに不安そうに…………………)


 瞬間、悟った。


 心臓の音がうるさい。顔も体も熱くて仕方がない。

 自分の中では、答えが出ていたことに気づいた。

 紗倉が不安そうにしていたところを見て、俺は笑っていてほしいと思ったのだ。


 俺は、紗倉の泣き顔が好きだ。揶揄っている時の顔も好きだ。そして何より、喜びに満ちた、心から笑っている顔が大好きだ。

 他にも、そのしっかりした二重の目、透き通る綺麗な声、通った鼻筋、優しいところ、気配りができるところ、頭が悪いところ、少しドジなところ、全てをひっくるめて、俺は紗倉が好きなんだと自覚した。


「そうか、そうなのか」


 俺はそう呟くと、自分の席の隣に座る紗倉に話しかける。


「紗倉」

「っ、な、何?」


 どうやら相当不安なようだ。

 俺は少しでもその不安が取れるように、なるべく優しい声音で話す。


「あの返事がしたいから、俺の部屋まで来てくれるか?」

「う、うん……」

「ありがとう」


 よし、これで後はもう、俺の気持ちを伝えるだけだ。


 ◇


 その日の放課後。

 俺が紗倉の部屋まで迎えに行き、自分の部屋に招いた。

 あの時と同じようにコーヒーを淹れ、紗倉の隣に座る。


「……紗倉」

「……うん」

「実は、紗倉の気持ちには気づいてたんだよね」

「え!?嘘!?」


 突然の知ってました宣言に仰天する紗倉。可愛い。


「本当だよ」

「い、いつから……?」

「気付いたのは中2だけど、好いてくれてたのは……大体小5かな?」

「合ってる………」


 かなり早い段階で気付かれていたことにさらに驚愕する紗倉。


「うぅ〜………」

「どうした?」

「は、恥ずかしいよ〜」

「ははっ、まぁでも、気付かないふりするのは大変だったよなぁ」

「え?」

「だって紗倉お前、めちゃめちゃアピールしてくるじゃん?」

「っ!〜〜〜!」


 俺に好意が気付かれていたということは、アピールが見抜かれていたということである。

 その事実を理解し、さらに顔を真っ赤にする紗倉。


「あ、あれは、その……っ!」

「でも、俺は嬉しかったんだぜ?」

「え?」


 一通り紗倉を揶揄った俺は、本題に入る。


「俺はさ、人を好きになったことがないから、恋愛的な“好き”って感情がどういうものか、分からなかったんだ」

「うん……」

「だから、紗倉が俺に対して好意を抱いてくれていると分かった時、どうすれば良いのか、分からなかったんだ」

「………」

「そうやって、ずっと迷ってたんだけど、今日、紗倉の不安そうな顔を見て、思ったんだ。「笑っていてほしい」って」

「っ!」

「その時、分かった。好意を寄せられていると分かった時から、いつも頭のどこかに紗倉がいた。無邪気に俺に接してくれる紗倉のことが、俺は好きなのだと」

「!それって……」

「ああ」


 俺は本命の言葉を言う。


「言わせてしまってごめんな。好きです。付き合ってください」


 俺の告白に対して、紗倉は涙を目に溜めて返事をしてくれる。


「……はい!」

「おわぁ!?」


 返事と共に飛びかかってきた紗倉を受け止める。が、完全に不意打ちだったので、後ろ向きに倒れ込む。


「もう、樹くん、遅いよ……」

「すまん……」

「これからは、いっぱい甘やかしてね?」

「甘やかされる前提なのか……まぁ、いいよ。恋人なんだしな」

「えへへ〜」


 俺は可愛らしく抱きついてくる紗倉をしっかりと抱きしめる。


「……絶対に離させないよ」

「ああ、絶対に離さない」

告白されちゃいましたね。島です。

私自身、実は割と鈍感主人公は苦手でして……

結果としてこんなに早く告白させてしまいましたね。

一体どうなるのか………


『いいね』、『ブックマーク』オナシャス。

それでは。

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