第四話 決闘と能力鑑定
ここはグランドスレイ剣術魔法学院の地下修練場。
「エマさん、本当に戦うんですか?」
「当たり前でしょう?あなたは先の王都襲撃で大手柄を上げたようだけど、この世はそう易しくはないってことを教えてあげるわ!」
またこれは面倒臭い。
だが、決闘には拒否権があるのだ。
ならば、俺は拒否しなかったのか。
もちろんした。
ならば、何故決闘をすることになっているのか。
その理由は、先程門の前で、エマさんが出しゃばってきた時、俺が決闘を断ろうとすると、
「あら、王都襲撃鎮圧の英雄さんは、私との決闘で負けるのが怖いのかしら?異世界者の方々は腰抜けしかいないのですね?まぁ仕方ありませんわね。あなた方は争いとは無関係の生活を送ってきたのですものね?」
と煽り散らかして来た。
流石に俺でも生まれ育った場所をバカにされるのは面白くないので、仕方なく決闘を受けたのだ。(煽りに対してクラスメイトたちがブチギレてしまったのもある)
正規入学者の主席VS異世界者の主席という勝負であるため、見物人は多く、この時だけは一般人に対する解放も行われていた。
やるからには負ける気は無いので、俺は息を一つ吐いて、覚悟を決める。
「いい目になりましたわね。それでは、始めましょうか」
「臨むところだ」
俺とエマさんはそれぞれの武器を構え、戦闘体制に入る。
俺は王都襲撃の時と同じ刀2本。
対するエマさんは、先端に赤と空色の宝玉と見事な装飾の杖だ。
しばらく睨み合いが続き、静寂が周囲を包む。
空気が張り詰め、緊張の糸が張り切れそうになった時、戦いの火蓋を切ったのは、エマさんだ。
「氷攻撃魔法【乱氷刃】!」
俺に対してあらゆる方向から氷の刃が飛んでくる。
俺はそれを躱し、いなし、破壊する。
俺が全ての氷を破壊し切ったところで、エマさんから新たな魔法が打ち出される。
「炎攻撃魔法【獄炎乱舞】!」
今度は荒ぶる黒い炎がこちらに向かってくる。
高威力で広範囲にわたる魔法。
これは流石に技を使わざるを得ない。
「陽光流[極光斬・太陽風]!」
「!?」
俺のオーロラを連想させる流れるような連撃は、最も容易く【獄炎乱舞】を掻き消す。
「あなた、“流派”の技が使えたの!?」
「ええ。初見せで、我流ですがね」
流派。
それは、剣士が剣士たらしめる一番の理由。
剣士は、一人一人が一つの流派に所属し、その技を師から授かり後世へと継ぐために、また進化させ、極めるために技を磨く。
中でも、“我流の剣士”というのは格別で、どの流派にも所属せず、自らの努力と研鑽、経験のみで流派を大成させた剣士の鏡である。
俺はそんな我流の型を何種類か持っている。
これは前世で開発したものもあるが、転生してから現世の高度な磨かれた武術にインスピレーションを受けて開発したものがほとんどだったりする。
先ほど使った“陽光流”は、俺が前世で開発した威力に重きを置いた型で、高威力の斬撃を放てるのが特徴。
今世ではもちろん、前世ですら他人にはほとんど見せていないので、知らないのは最もだ。
「き、聞いてないわよ、そんなこと」
「言ってませんからね」
「くっ………いいわ、あなたがそういう手を取るなら、こちらにも考えがあるわ!」
そう言ってエマさんは魔法の詠唱を始める。
おいおい、あの詠唱は………
俺が嫌な予感をビリビリと感じていると、普通ではあり得ない速度で詠唱を終えたエマさんが魔法を放つ。
「氷攻撃魔法【氷塊蓮華】!」
「嘘だろ!?くうっ………」
四方八方に放たれる蓮華のような氷の刃を間一髪で回避したところ、もう一発魔法が飛んでくる。
「炎攻撃魔法【紫炎の豪雨】!」
「何!?」
突如、頭上から紫の炎の雨が降ってくる。
俺はそれを回避していくが、いかんせん数が多い。
俺は回避しきれず、右足に一発くらってしまった。
「ぐぅっ………」
それには俺もたまらず飛び下がる。
これを好機と見たエマさんは攻勢を強め、魔法を連発する。
「炎攻撃魔法【炎球・40連】!」
「くそっ………」
単発の攻撃であるならば、陽光流で対応可能だ。
だが、連発されるとかなり厳しい。
陽光流は、基本的に連発されることを想定していないため、このような連撃には弱いのである。
【炎球】を数発打ち落としつつ、俺がエマさんの攻勢を弱めようと、後ろに飛び下がる。が、それがいけなかった。
見事に着地の瞬間を狙われ、俺は無防備な体を晒す。
「これで終わりよ!炎攻撃魔法【灼熱爆炎球】!」
まさに絶体絶命。
防御、回避、相殺、どれも不可。
そう、今の俺では。
忘れてはいないだろうか。
今の俺は、超絶手加減モード(全実力の2%ほど)であるということを。
仕方がない。ここは一つ、ギアを上げさせていただこう。
俺がそう考えた瞬間。
ズドーン!
エマさんの魔法が炸裂し、辺りは爆炎と土埃に包まれる。
「やったわ!私の勝ちよ!」
そう言って勝ちを確信し、笑うエマさんに俺は煙幕の中から声を上げる。
「おいおい。勝手に殺してくれるなよ」
俺は剣を振り、煙幕を振り払う。
そこには、大きく凹んだ地面と、無傷の俺が立っていた。
「なっ、あ、あり得ない!上級魔法を、真正面から無防備に喰らって生きているだなんて……」
「だが、実際には俺は生きている」
「ど、どうしてよ……どうしてなのよ」
「教える気は無いな。今度はこっちからいくぞ」
俺は爆発を受ける瞬間、空間防御魔法【空間断絶】を無詠唱で発動。
空間を分断し、あらゆる攻撃を防ぐ結界のおかげで俺は無傷だったのだ。
それからは、完全に形勢が逆転した。
「陽光流[陽光斬]![紅炎槍]![陽光閃]!!」
「くっ、氷防御魔法【氷層壁】!」
俺が技を連続で出す中、エマさんは威力の高い攻撃を防ぐので手一杯。
今は完全に俺がエマさんを手玉に取っている。
時間が過ぎ、もう何回攻撃したか思い出せないほど剣を振ったところで、エマさんに隙ができる。
俺はその隙を見逃さず、左足でエマさんの鳩尾に横蹴りを突き刺す。
「かはっ………」
大きく後方へ吹き飛び、壁に全身を打ちつけたエマさんに俺は剣を突きつけ、問う。
「………まだ、やりますか?」
「………参ったわ。私の負けよ」
負けを認めたエマさんは、杖から手を離し、両手を上へ上げる。
「エマ=ランドルー戦闘不能!よってイツキ・フタイリの勝利!」
審判の判定が響く。
周囲からは、ワッと歓声が上がり、クラスメイトたちは俺を褒め称える。
「二杁ー!スゲーぞー!」
「樹くーん!カッコよかったよー!」
「おいおい、あの転移者、すげえ強さじゃねぇか?」
「あのエマさんを単騎で倒すとか、ヤベェぞ……」
俺は息を吐き、戦闘体勢を解除、刀を鞘に収める。
「まさか負けるなんて……」
敗北して落ち込むエマさんに俺は手を差し出す。
「貴女、貴族の出なんでしょう?そんな所でへたり込まずに、立った方がいいですよ」
俺の手を取り、立ち上がったエマさんは驚く。
「……あなた、どうして私が貴族であると分かったの?あなたには言ってないはずよね?」
「簡単なことですよ。一つ一つの所作が澱みのない綺麗な動きですし、魔力操作の練度も、同年代の人達よりも上、しかも複数属性の魔法を操るというのは、間違いなく普通の人ではできないことだ」
「……貴方、観察眼が鋭いわね」
「ただ注意深いだけですよ」
まぁ、前世の力のおかげもあるが、俺自身が注意深いと言うのは事実だ。
「この人なら………」
「何か言いました?」
「いいえ」
何やら、エマさんが呟いていたような気がしたが、どうやら気のせいのようだ。
その後、俺たちは先生に連れられ、無事に入学の手続きを終えた。
◇
次の日。
俺たちはグランドスレイ剣術魔法学院の異世界転移生として1年Z組に配属され、今日はその教室に集まっていた。
席順に関しては自由なようで、俺は窓際最後尾という世界中の陰キャが望みに望みまくるであろう席に座っていた。
俺が欠伸をしながら待っていると、扉から紗倉が入ってくるのが見えた。
「あっ、樹くん!隣座ってもいいかな?」
「ああ、構わんぞ」
「ありがとう!」
現在の服装は、白と黒を基調としたブレザー式の制服だ。
下はズボンかスカートが選択でき、俺はズボン、紗倉はスカートを履いている。
しばらくの間、紗倉との雑談に花を咲かせていると、サーシャ先生が扉を勢いよく開け、教室に入ってきた。
先生は教壇に立ち、教室をぐるりと見渡す。
「うむ、初日から欠席遅刻早退なし!良いじゃないか!」
先生は黒板に文字を書いていく。
「改めて自己紹介だ。私はサーシャ=アスタリア。お前たちの担任であり、この学校の理事長でもある」
「「「「「ええっ!?」」」」」
まじか………
あの先生が担任である分には良かったのだが、まさか理事長であるとは……人は見かけによらないものだ。
「はっはっはっ!良い反応じゃあないか!さて、前置きはこれくらいにして、今日の予定を話そう。これからお前たちには、能力鑑定を受けてもらう」
「能力鑑定………」
1人の呟きに対して、先生は説明を始める。
「そうだ。これは、この学校の生徒にとっては、それも転移者にとっては重要なことでな。その人の実力だけじゃなく、持っている“スキル”や“適正属性”、“精霊の加護”なんかも鑑定できる。こういったものを知っておくことは、戦闘においてかなり重要なことになる。だからこそ、今日受けてもらおうというわけだ」
なるほど、理にかなっている。
だが、おそらく、理由においてはこれが全てではない。
主な理由としては、先程のような戦闘慣れしていない転移者の補助、そして、反乱の抑制と魔族の擬態の予防だ。
“鑑定”というのは、高度なものであれば魔族の擬態は破れるし、鑑定結果を保存しておけば、転移者が反乱しても、戦闘を有利に進められる。
そうなれば、俺の能力がバレる………という心配はない。
物にもよるが、前世の力を使えばバレることはない。
「それでは早速鑑定に向かおう。昨日の決闘をした場所に集合だ!」
というわけで、俺たちは2回目となる地下修練場に向かった。
◇
「さて、皆集まったようだな。早速鑑定を行っていこう。方法は簡単だ。これから1人ずつ呼んでいくから、前へ出て魔法陣の上に立ってくれ」
そうして能力鑑定が始まった。
段々と順番が進んでいき、俺の順が回ってきた。
「お願いします」
俺が担当の教師に挨拶をすると、微笑んで頷いてくれる。
俺が魔法陣の上に立ったことを確認した先生は、魔力を放出して魔法陣を起動する。
「(スキル〈万能偽装〉〈万能隠蔽〉発動)」
起動した瞬間、俺はスキルを発動する。
魔法陣からしばらく淡い光が発せられ、やがて収まる。
「これが君の鑑定結果だ」
「ありがとうございます」
先生が紙を差し出してきたので、俺はそれを受け取る。
反応的にバレている事はなさそうだ。
俺は鑑定を受け終わった集団に戻り、鑑定結果の紙を確認する。
●
個体名
イツキ・フタイリ
レベル
Lv1
職業
魔剣士
ステータス
体力 870/870
魔力 930/930
輝力 370/370
攻撃力 820
防御力 710
瞬発力 680
持久力 930
魔法攻撃力 790
魔法防御力 660
魔法回復力 840
適正属性
炎
風
雷
スキル
魔剣士 B
魔力効率上昇 C
ギフト
再現者 S
●
(うん。しっかり〈万能偽装〉と〈万能隠蔽〉が働いてるな)
これは俺の鑑定結果なのだが、俺の前世は勇者なのだ。こんなに低い訳がない。
俺は右手を出し、周囲に聞こえないようにスキルを発動する。
「(スキル〈神眼〉発動)」
●
個体名
イツキ・フタイリ
レベル 偽装状態
Lv3186
職業 偽装状態
第一職業 魔帝勇者
第二職業 剣聖
第三職業 大賢者
第四職業 狙撃手
第五職業 従魔士
ステータス 偽装状態
体力 2356870/2356870
魔力 325847930/325847930
霊力 3657280/3657280
妖力 3475890/3475890
輝力 52689370/52689370
攻撃力 935620
防御力 884510
瞬発力 854680
持久力 868230
魔法攻撃力 948390
魔法防御力 887560
魔法回復力 917840
適正属性 偽装状態
全属性
スキル 偽装状態
神眼 Z
勇者 SSS
魔王 SSS
剣聖 SSS
大賢者 SSS
狙撃手 SSS
従魔士 SSS
精霊使い SSS
万能隠蔽 SS
万能偽装 SS
環境適応 SS
精霊召喚 SS
精霊神の加護 SS
読心 SS
物理攻撃無効 S
魔法攻撃無効 S
精神攻撃無効 S
即死攻撃無効 S
属性攻撃無効 S
神聖攻撃耐性 A
豪魔攻撃耐性 A
体力増強 A
魔力増強 A
霊力増強 A
妖力増強 A
輝力増強 A
等価交換 UN
因果応報 UN
現実改変 UN
弱肉強食 UN
心頭滅却 UN
明鏡止水 UN
行雲流水 UN
ギフト 偽装状態
再現者 SSS
転生者 SSS
所属流派 隠蔽状態
陽光流[我流] 極伝位
月光流[我流] 極伝位
菊花一刀流[我流] 極伝位
梅花二刀流[我流] 極伝位
時雨雲槍流[我流] 極伝位
桜花閃弓流[我流] 極伝位
紅葉無刀流[我流] 極伝位
従魔 隠蔽状態
フェニ
種族 フェニックス S
スキル 不死化 SSS
即時再生 SSS
炎属性無効 S
フェル
種族 フェンリル S
スキル 影喰み SSS
影抜け SSS
闇属性無効 S
シーベ
種族 シーサーペント S
スキル 水溶化 SSS
海流操作 SSS
水属性無効 S
シアン
種族 ダイヤモンドバタフライ S
スキル 魔力吸収 SSS
吸魔の炎 SSS
草属性無効 S
ライム
種族 エメラルドバタフライ S
スキル 魔力反射 SSS
反魔の炎 SSS
土属性無効 S
ガーディ
種族 エルダーガーディアン S
スキル 金剛化 SSS
不動要塞 SSS
物理攻撃無効 S
フレア
種族 フレイムドラゴン A
スキル 炎の龍鱗 SS
炎属性耐性 S
フロス
種族 フロストドラゴン A
スキル 氷の龍鱗 SS
氷属性耐性 S
エレキ
種族 サンダードラゴン A
スキル 雷の龍鱗 SS
雷属性耐性 S
グーリ
種族 グリフォン A
スキル 鷹の目 SS
風属性耐性 S
精霊の加護 隠蔽状態
炎の精霊王 イフリート
水の精霊王 リヴァイアサン
草の精霊王 エント
氷の精霊王 シヴァ
土の精霊王 ベヒーモス
風の精霊王 ガルーダ
雷の精霊王 ラムウ
光の精霊王 ウィルオウィスプ
闇の精霊王 ダークネス
●
ツッコミどころは色々あるだろうが、今は気にするな。後でちゃんと説明するから。
スキル。
それは条件を満たすことによって獲得できる特殊な能力。
様々な種類があり、それぞれ違う力を持つ。
スキルは進化させることが可能で、下位のスキルを使いこなし、さらなる条件を満たすことで進化ができる。
先天的に持つスキルと後天的に獲得するスキルが存在し、同じスキルでも基本的に先天的に持っているスキルの方が強い力を誇る。
また、全てのスキルはランクが存在し、より高度であるほどランクは高くなる。
最低ランクはE、最高ランクはZで、UNの表示があるのは“ユニークスキル”と呼ばれる特別なスキルで、世界でたった一つ、1人だけに与えられる、かなりレアなスキルだ。
鑑定系スキルにおけるランクは、鑑定偽装、鑑定隠蔽を破れるかどうかに関わってくる。
魔法陣の鑑定ランクはおよそAほど。
対する俺の隠蔽、偽装スキルのランクはSSだ。
ランクが二つも違えば、まず改竄が破られる事はない。
(しっかし、このパラメータは何度見てもえげつないなぁ)
俺が自分のステータスにドン引いていると、鑑定が終わったらしい紗倉がこちらに向かってくる。
「樹くん、どうだった?」
「ん?ああ、まぁまぁかな」
大嘘である。本来であればバカみたいな数値をしているのである。
「紗倉はどうだったんだ?」
俺はふと気になって紗倉に聞いてみる。
「こんな感じだよ!」
そう言って紗倉は鑑定結果をこちらに見せてくる。
●
個体名
サクラ・イチミヤ
レベル
Lv1
職業
第一職業 賢者
ステータス
体力 870/870
魔力 1030/1030
霊力 40/40
妖力 30/30
輝力 580/580
攻墼力 570
防御力 420
瞬発力 390
持久力 370
魔法攻擊力 1,060
魔法防御力 990
魔法回復力 1,140
適正属性
水
草
スキル
賢者 S
魔力増強 A
魔力効率増加 A
ギフト
賢者 SS
●
「へぇ、ギフトが〔賢者〕なのか。だから紗倉は魔法に特化してるんだな」
「うん、そうみたいだね」
ギフト。
それは異世界からの転移者が、こちらの世界に適応できるように、神から与えられる能力。
一部例外は存在するが、ギフトの内容が先天的なスキルへと変化し、高ポテンシャルの力を発揮できることがほとんどだ。
ごくたまにこちらの世界でもギフトを持つ者も存在し、俺がその1人である。
紗倉のギフト〔賢者〕は、高度な魔力操作が可能になり、その人の適正属性に合ったあらゆる魔法の使用が可能になる。
適正属性によっては制限を受けるギフトであるが、適正属性を二つ持つ紗倉であれば、ある程度の戦闘はこなせるだろう。
俺のギフト〔再現者〕は、自身がその目で見たものすべてを魔力で再現できるようになるというギフトだ。
再現対象は、この世の全て。
現象も、物質も、生物も、非生物も、全てを再現、構築できる。
このギフトは転生して新たに獲得したギフトなので、どういうギフトなのかは把握しきれていない。
もう一つの俺のギフト〔転生者〕は、文字通り転生を可能にするギフトだ。
通常、死者は輪廻転生の流れに流れ、善人は天国で時が来れば、記憶と能力を消されて転生する。
悪人は、地獄へと落とされ、その罪が許されるまで想像を絶する苦痛を味わい続ける。
罪が許されれば、善人と同じように記憶と能力を消されて転生する。
このギフトは、この輪廻転生の流れから外れ、記憶と能力を保持したまま転生することができる。
ごくたまに、偶然流れから外れる者もいるが、その事例はかなり少なく、前世で確認できただけでも、偶然が2例、人為的なものは1例しかない。
「樹くんの方も見せてよ〜」
「おう、ほれ」
俺は紗倉の要求に素直に応じる。
「へー、樹くんは魔剣士なんだね。だからあんな凄い魔法が使えるんだね」
「…………んーまぁ、そうだな」
これまた大嘘である。魔剣士なんかが空間魔法なんて扱える訳がない。
「でも、魔法じゃ紗倉には敵わんよ。なんてったって〔賢者〕なんだからな」
「ううん。今のところは樹くんには敵わないよ。だから、樹くんを超えられるように頑張らないと」
「そうだな。頑張れよ」
「頑張れよ」とは言うが、もちろん超えられる訳がないのである。
紗倉の魔法系スキルは〈賢者〉。対する俺は〈大賢者〉である。
スキル〈大賢者〉は、一段階下のスキルである〈賢者〉が進化した結果の魔法系最上位スキルである。
加えて魔法の練度にも圧倒的な差がある。〈賢者〉が進化しなければ、まず超える事はほぼ不可能だろう。
それからしばらくの間、紗倉と雑談をしていると、どうやら全員の鑑定が終わったらしい。
先生から号令がかかる。
「集合!」
その言葉通り、俺たちは先生の元へ集合する。
「うむ、これで全員の鑑定が終わったな。それでは次の授業に――」
「――おうおうお前らが転移者様共かぁ」
先生が何かを話そうとした瞬間、この修練場に入るための扉の方から声がする。
見ると、5人ほどの男女集団がこちらに向かってきていた。
「おいお前たち、今は授業中だぞ。教室へ戻れ」
先生が制止の声を発する。だが、そんな事は気にもしない様子で先頭の男がこちらに声をかける。
「イツキ・フタイリはどこのどいつだぁ?出て来い!」
そこで俺は素直に出ようか迷う。
おそらく、名乗り出ても出なくても、確実に戦闘になる。
奴から殺気が発せられているからだ。
俺としては極力戦闘は避けたいのだが、どっちにしろ戦闘になるのであれば、被害が少ない方向に動こう。
「俺がイツキ・フタイリだが、何か用か?」
「お前がイツキフタイリか……フッ、クックックッ………」
「何が面白い?」
「いや、お前みたいなヒョロ僧が転移者生主席だとはなぁ……ククク」
目の前の男は分かりやすい挑発をしてくるが、俺はそれを気にも止めずに返す。
「……ヒョロ僧で悪かったな。で、お前は誰だ?」
「チッ、面白みのない奴め……まぁいい。俺様は1年B組レオン=タウンゼント。今、素直に俺様に従うのであれば、お前もうちの派閥に入れてやるが、どうする?」
なんて白々しい野郎だ。ここで俺が断れば、力に任せて俺を蹂躙、承諾すれば、「力比べ」などと理由をつけてこれまた蹂躙するつもりだった癖に。
俺は派閥などには興味が無いので、キッパリと断らせてもらう。
「悪いな。俺は派閥なんかには興味が無い。俺は俺で自由にやらせてもらう」
「そうか。なら死ね」
そう冷たく言い放ってレオン君は腰の短剣を引き抜くと同時に切り掛かってくる。
それを俺はバックステップで躱す。
周囲を見ると、レオン君の取り巻きたちがそれぞれ武器を構えて俺を取り囲んでいた。
「1対5か。卑怯だな」
「はっ、卑怯は武器だ。事この場においてはなぁ」
「都合の良いこって」
俺は腰の刀を2本抜いて重心を落とす。
周囲には5人。短剣使いが1人、盾持ちの片手剣使いが1人、槍使いが1人、魔導士が2人。
(この場において魔導士は厄介だ。先に潰しておこう)
俺は魔導士の男1人に狙いを定め、地面を蹴る。
目の前に魔導士が現れる。
その理由は明白。俺が距離を詰めたからだ。
狙われた魔導士は驚愕の表情で無防備な体を晒す。
俺はその腹を比較的力を入れて蹴り飛ばす。
「ガハッ………」
「まず1人」
「なっ!?」
もう1人の女の魔導士が俺の姿を捉え、驚愕しながらも魔法の詠唱を始める。
(スキル〈大賢者〉固有能力《詠唱破壊》発動)
俺は無言でスキルを発動し、魔導士の魔法詠唱をキャンセルする。
「っ!?」
突如、どこからか詠唱を妨害され、言葉に詰まった魔導士はさらに驚愕する。
俺はその側頭部を刀の峰で打ち抜き、意識を吹き飛ばす。
魔導士2人を潰したところで、残り3人の方を向こうとした瞬間、背後の冷たい殺気を察知する。
俺は振り向き様に右手の刀を横に薙ぐ。
その刃は振り下ろされた槍先を撥ね飛ばし、槍をただの棒へと変化させる。
まさか迎撃されるとは思っていなかったのか、槍使いの男の体が強張る。
その瞬間を逃さずに距離を詰め、左手の刀の峰で首筋を打つ。
(ふぅ、殺さないってのが一番難しいんだよなぁ)
殺すというのであれば、自身の全力を持って、首を刎ねるなり心臓を貫くなり胴を両断するなり、あらゆる方法で致命傷を与えて殺すことはできる。
だが、殺さないとなると、絶妙な力加減に加えて、致命傷は与えないようにするというのは、かなり骨の折れる戦闘だ。
俺は一息ついて、残る2人の方を向く。
「お、お前、何者だ……」
レオン君がかなり警戒した様子でこちらを見る。
「何者と言われてもだな。ただの転移者だよ」
「そ、そんな訳あるか!お、お前のような強さのやつ、転移者ではあり得ない!」
「………」
まぁ、強いて言うなら前世が勇者ってことだな。
そんなことを言えば、大混乱を招くので、心の中だけに留めておく。
「答えろ!答えろよぉ!」
「ふん、バカだな」
「何!?」
「強者というのは、そう易々と強さの秘訣など教えんよ。さて、雑談はここまでにして、そろそろ行かせてもらうぞ」
「くっ………おいリーナ!」
「っ!は、はい」
追い詰められたことを自覚したレオン君はもう1人の片手剣使いに声をかける。
「お前、前に出てアイツの攻撃を受けろ!その隙に俺が攻撃する」
「は、はい……」
「いくぞ!」
俺はその様子に疑問を抱く。
(………?奴らは仲間なんだよな?なら、どうしてリーナさんは怯えている?もしや………)
もし俺の憶測が合っているのなら、リーナさんはあまり傷つけたくない。
俺は脳を回転させて解決策を考える。
「まぁ、それしかないわな」
俺はそう呟くと、こちらに向かってくるリーナさんを視界に収める。
リーナさんは剣を振り上げ、こちらに向かって振り下ろす。
それを左の刀で受け止め、右の刀でわざと盾を攻撃する。
「っ!?」
驚愕するリーナさんのことは気に留めず、俺は飛び下がり、すぐさま間合いを詰め、両の刀を袈裟に振り下ろす。
ただし、リーナさんが反応できるほどの速度で。
結果として鍔迫り合いが発生する。
「ど、どうして………」
「貴女、戦いを望んでいないでしょう?」
「!?」
おそらく、彼女は、俺のように勧誘され、奴らの派閥に入らざるを得ない状況に陥ったのだろう。
結果として、彼女は望まぬ戦いをさせられているのだ。
「わ、私は……」
「本当に望んでいるのなら、貴女の剣や盾には、迷いは出ないはずですよ」
「っ」
「俺は戦いを望まない人は傷つけたくない。たとえそれが、戦わなければならない人でも」
「………」
「ここからは俺からの提案です。貴女が俺に協力すると言ってくれるのなら、俺は貴女を絶対に守ります」
「………」
悩んでいる様子のリーナさん。
俺が答えを待っていると、背後に気配を感じる。
「答えを待ちたいですが、ちょっと後ろの屑を潰さないといけないですね。それでは」
俺は両手に力を込め、リーナさんを吹き飛ばし、横に飛ぶ。
瞬間、俺がいた所に斬撃が走る。
「チッ」
「人を背後から襲うとは、趣味が悪いな」
「知らねぇよ。俺様はお前を潰せればどうでも良い」
「そうか。なら早く俺を倒せば良いんじゃないか?」
「はっ!言われなくてもそうするぜぇ!」
そこからは、あまりにも一方的な戦いだった。
「そぉれ!」
「くっ………」
レオン君が放った右からの飛び蹴りを俺は右腕で防ぐが、勢いを殺しきれず、体制を崩す。
瞬間、驚異的な速さで距離を詰めたレオン君は短剣を前に突き出し、突きを放つ。
俺はそれを体を捻って躱し、同時に反撃を放つ。が、それは回避され、また素早い攻撃を放ってくる。
俺はさっきからずっとこの調子で、レオン君の速度に振り回されている。
もちろん、俺が追いつけないわけではない。
(まだ、まだだ。耐えろ。彼女が答えを出すまで……!)
俺はチラリと視線を横にずらす。
そこには、俺たちの戦闘を見ながら考え込むリーナさんがいた。
「おいリーナ!何してる!さっさと俺様の助けに入れ!」
レオン君が叫ぶが、リーナさんは動かない。
俺がよそ見しながら戦っていると、足元が疎かになり、つまづいてしまった。
「しまっ!」
完全に隙を見せてしまった俺に、レオン君は短剣を腹に向かって突き出す。
「もらったぁ!」
まさに絶体絶命。
「させない!」
俺が諦めようとした時、俺の目の前に人影が入る。
ガキィン!
「……リーナさん?」
「リーナ…テメェ」
そんな状況を救ったのは、決意を固めた様子のリーナさんだった。
◇
〜リーナside〜
私は、昔から気が弱く、何にでも受け身になってしまう性格だった。
だから、昔から損をすることが多かった。
でもそれは、自分の性格のせいで、そう簡単に変えられるものではないと、諦めていた。
この学校に入学したのだって、親の勧めだし、レオン君の派閥に入ったのも、私が受け身な性格だったせいだ。
そのせいで、私はしたくもないパシリや、別の派閥との争いに巻き込まれた。
私はもう、そんな生活にはうんざりだった。そして、そんな選択をしたことを後悔もしていた。
自分を変えようにも、レオン君の存在が邪魔をする。
したくもないことをさせられ、ストレスの捌け口にもされ、誰かに助けて欲しかった。
でも、この学校には、レオン君に勝てる生徒なんて、存在しない。
レオン君は素行は悪いが、この学校でも随一の生徒で、エマさんに続いて上級生を破った実力の持ち主だ。
今日もいつも通り、したくもないことをさせられた。
でも、今日は救いの手が差し伸べられた。
「貴女が俺に協力すると言ってくれるのなら、俺は貴女を絶対に守ります」
そう言ってくれたのは、この学校に入学したばかりの転移者イツキ・フタイリ君だった。
私は、この言葉に嬉しさを感じるとともに、不安も感じた。
もし、彼の言っていることが嘘だったら?もし、彼の言った通りにして、今の状況が変わらなかったら?もし、彼が私を見捨てたら?
そうなれば、私はまた同じような日々を送ることになる。それだけは嫌だった。
そうして、私が答えを出すことを渋っていだ時だった。
一瞬、彼と目が合う。
瞬間、彼は笑ってくれた。
「ゆっくり、貴女のペースで考えて」と言うように、自分も余裕が無いのに、優しそうに。
ふと、周囲の喧騒が耳に入る。
「樹くーん!頑張れー!」
「樹ー!そんなやつぶっ飛ばしちまえー!」
「二杁君!頑張ってください!」
そのイツキ君を応援する声はイツキ君に対する信頼が込められた熱い声援だった。
「彼は、こんなにも仲間から信頼されている人なんだ………」
その声援を聞いた後、目を閉じ、逡巡する。
この人なら、信頼しても良いかも知れない。
この人なら、私を助けてくれるかも知れない。
もしそうじゃなかったら?
もし裏切られたら?
それでも、いい。
おそらく私は、自分の選択が間違っていたり、失敗した時に、責任を取るのが怖かったのだ。
彼は、そんな恐怖やプレッシャーに負けずに、私にあの提案をしてくれた。
私のことをよく見て、助けようとしてくれたそんな彼に、私は報いたい。そして、自分を変えたい。
彼は私のために行動してくれた。だから、どのような結果になろうと、私は彼のために行動する。
レオン君、いやレオンが何か言っているが、関係ない。
リーナ=ハッシュヴァルト、参ります!
◇
〜樹side〜
「はぁっ!」
リーナさんは盾を持った方の手に力を入れて、レオン君を吹き飛ばす。
「リーナさん、心が決まったんですね」
「はい。私、貴方に協力します」
ありがたい。これで俺も本気を出せる。
「その言葉を待っていましたよ。約束通り、これから貴女を守ります。というわけで、ちょっと俺の後ろに下がっていてもらえます?」
「こうですか?」
「もう少し後ろに……そこで良いです」
俺はリーナさんを十分に下がらせる。
「こんな所でいいんですか?盾持ちはもう少し前の方が……」
「いえ、そこでいいんです。見ていてください」
そこでレオン君が起き上がり、こちらに戻ってきた。
「リーナ……テメェ……裏切ったな……」
「仕方がないだろ。お前が裏切られるようなことをしたんだから。それでキレるのは筋違いだ」
「うるせぇ……元はと言えば、テメェが素直に従ってくれればこんなことにはならなかったんだろうが」
なんという言い分だろうか。流石にそれには俺も少し腹が立つ。
「責任転嫁も甚だしいな。そもそもお前が派閥なんてもんを作るからいけないんだろう。その上逆ギレなんて、剣士どころか人間の風上にも置けん奴だな」
その言葉にレオン君の堪忍袋の緒が切れたのだろう。
「ふざけやがって!死ねぇぇぇぇぇえ!」
凄まじい怒気と殺気を放ちながら、高速でこちらに突っ込んでくる。
「イツキさん!」
後ろからリーナさんの切羽詰まった声が聞こえる。
「お前のその矜持は腐っているが、それを簡単に変えなかったことだけは立派だ。内容が腐っていようとな。褒美に俺の流派を見せてやる」
ここで俺がすべきなのは、“やり過ぎない事”。
やり過ぎれば、レオン君が死ぬからだ。
俺はゆっくりと刀を鞘に納め、重心をグッと低くし、刀の鯉口を切る。
腕に力を溜め、敵が間合に入るのを待つ。
互いの距離が近づき、間合いが敵に触れた瞬間、爆発のような居合切りを放つ。
「陽光流[閃光・太陽面爆発]」
鞘の中で十分な速度をつけた居合は、一瞬でレオン君の首筋にまで到達する。
俺の剣がレオン君の首を刎ねようとした瞬間、俺は刀を回転させて峰をレオン君に向ける。
「ガッ………」
首筋に痛打を入れられたレオン君は横へ吹き飛び、壁に体を打ちつけ、気を失った。
第四話です。島です。
樹くんのチートさが現れてきましたね。
鑑定結果も億超えてますからね。
まさかこれほどとは………樹くんつおい(すっとぼけ)
『いいね』、『ブックマーク』よろしくです。