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第二話 幼馴染と襲撃者

 前世で勇者として活躍し、その後役目を果たして死んだはずが、あちらの世界で生まれ変わり、こちらの世界に召喚された。

 なんとも内容の濃いことだ。

 しかも、時系列的には俺が死んでからおよそ千数百年経っているようだ。


 転生はこちらの世界ではよくある事だし、転移に関しては国家がやっていることでもあるので、この二つは偶然だと考えてもいい。

 しかし、ここで一つだけ疑問が残る。


 俺が前世で国王として君臨していた時代、魔族との関係は極めて良好で、争いが起こるような関係ではなかったはずなのだ。

 だがしかし、現状として魔族との対立は存在し、話を聞いたところでは少なくとも2〜300年前程から対立があるようだ。


(魔族の寿命は三千年を超えるという。確か、俺が死んだ後もその意思を継げるよう、後釜としてまだ寿命の長い者を新たな魔王を任命したはずだ。それなのに、何故このような対立が起きている?これは調べる必要があるな………)


 自身の過去と現在の状況の違いから、何か大きな陰謀をひしひしと感じ取りながら、訓練官にして王族近衛騎士団長、ドン=バルマンさんの説明が聞こえた事で、今は訓練中であったことを思い出す。


「―――というわけで、諸君らにはこれから一ヶ月の間、我々と訓練に取り組んでもらう。これから先、諸君らには国防を任せねばならん。だからこそ厳しく行くのでよろしく頼む」

「「「「はい!」」」」


 ドンさんの説明を聞いた後、俺たちは訓練に励んだ。


 俺は前世の感覚があるので、特に難しいことはなかった、というか簡単すぎてスイスイできたのだが、戦闘という行為をしたことのない周囲の生徒は、かなり苦労しているようだった。

 その後に行われた模擬戦では、俺は連戦連勝。

 一度力加減をミスって相手の木刀を粉砕してしまった時はもの凄く焦った。


 ◇


 その日の夜。


 俺は王城の来賓用の部屋のベッドに寝転んでいた。

 俺たち転移者には、こちらの世界で生きていくために訓練を施すため、この部屋が割り当てられたのだ。


 俺がボーッと部屋の天井を見上げていると、コンコンと部屋の扉がノックされる。


「樹くん、起きてる?」


 扉の向こうからこちらを呼ぶ声が聞こえる。

 声と気配と魔力から、誰かは既に分かっていたが、一応扉を開け、訪問者を視界に移す。


「紗倉か、どうしたんだ?」


 俺の肩ほどまでの身長、腰まで伸びた艶のある黒髪に、アクセントのヘアピン。

 少し幼さの残る目鼻立ちの整った可愛らしい顔。

 服の上からでもわかるふくよかな胸の膨らみと引き締まったウエストに細長い足。

 一般的に美少女と呼ばれるこの女の子は、俺の幼馴染にしてクラスのマドンナ、一宮紗倉(いちみやさくら)である。


 ◇


 俺と紗倉は幼稚園からの付き合いで、当時からもの凄く仲が良かったのを覚えている。

 家は隣同士で、互いの誕生日やクリスマスなどの行事は両家総出でお祝いをした。

 そうして、かなり親密な関係になった俺と紗倉なのだが、どうも最近紗倉の様子がおかしい。


 目が合うと頬を染めて目を逸らされ、手がぶつかると凄まじい速度で手を引っ込め、俺が上の服を脱ぐと顔を真っ赤に染めて両手で顔を隠す。

 昔は目が合おうと手がぶつかろうとこんな反応は示さなかったし、服を脱ぐことに関しては幼い頃からやっているのだ。

 流石に成長した紗倉の方は脱ぐことはないが、男である俺の方は見られてもなんとも思わないのでこの反応には少々戸惑った。


 自分なりにこの行動を分析してみた、というか、前世の能力を使ってその理由を探った結果、“紗倉は俺のことが好きである”という結論に至った。

 これは自意識過剰な訳でも、単なる思い込みな訳でもない。俺の前世を舐めてもらっては困る。


 この結果には戸惑ったというのが正直な感想だ。

 確かに、紗倉から好意を向けられているというのは、俺としても少なからず嬉しさがあるのは否めない。

 紗倉ほどの美少女から好意を向けられるのだ。嬉しくない訳がない。

 ならば何故戸惑うのか?理由は簡単、俺自身が紗倉をどう思っているのかわかっていないからだ。


 “好き”か“嫌い”かで答えるのならば、間違いなく“好き”と答える自信がある。

 だがそれはあくまで“親愛”の範疇内での話であり、“恋愛”の範疇となると、正直“どちらでもない”の選択をするだろう。


 ただ、紗倉の気持ちにはしっかりと向き合うつもりだし、気持ちを伝えられた時は、しっかりと考えてきちんと返事をするつもりだ。それをしないのはただのクズだからな。


 ◇


「実は、私ね、樹くんに相談があって来たの」


 紗倉は少しもじもじしながらも要件を話す。


「相談?」

「う、うん。だ、だから、部屋に入れて欲しいかな〜なんて………」

「ん〜…………」


 この要求には少し戸惑う。が、俺が何もしなければいいだけなのですぐに承諾する。


「わかった。とりあえず入れよ」

「う、うん。ありがとうね」

「ん」


 俺は紗倉を部屋に入れると、ソファに座らせ、俺はその対面に座る。


「それで、相談ってなんだ?」


 俺は単刀直入に聞いた。


「うん。実はね、ちょっと不安に思うことがあって……」

「不安?………ああ、いきなりこちらに召喚されて世界を救えって事にか?」

「う、うん。そうなの」


 まぁ、最もな不安だろう。

 俺は元々こちらの人間だし、現段階で最強レベルの力も持っている。

 しかし、最初からあちらの世界にいた彼ら彼女らからすれば、不安の塊でしかないだろう。


「昼間のうちはまだ良かったんだ。クラスのみんながいてくれたから」

「でも、それが夜になって溢れそうになったと」

「うん………」


 俺は神でも紗倉でもないから、紗倉の不安の大きさを測ることはできない。

 でも、共感はしてやれる。

 俺かて不安を感じることはあるのだ。

 前世での突然の魔王討伐依頼、次期魔王就任、新国家国王就任、様々な不安を俺は乗り越えて来たのだ。


 俺ははっきりとした意思を持って話し始める。


「確かにな、紗倉の不安は最もだ。でも、そこまで気負う必要もないんじゃないか?」

「え?」


 俺は紗倉を元気付けるためにさらに語気を強める。


「不安を感じているのがお前だけだと思ったか?違うな、みんな不安だ。突然の異世界転移、託された世界の命運、高校生が担うにしては重すぎるだろう。かく言う俺だって少なからず不安だ。だが、そんな不安でも仲間と一緒なら、共有し、乗り越えられる。違うか?」

「………ううん、違わない」

「そうだろう。何、安心しろ。いざとなったら俺が守ってやるよ」


 俺がおちゃらけて言って見せると、紗倉は硬い顔を緩め、嬉しそうに会話に花を咲かせる。

 

「樹くんが強いのはクラスメイト相手だけでしょ?」

「実はそれがそうでもないんだよなぁ」

「本当に?」

「本当だよ?」

「嘘くさーい」


 互いに笑い合い、紗倉は笑顔で言うのだ。


「樹くん、ありがとうね」


 その言葉に、俺も笑顔で返す。


「良いって事よ」


 その後、俺たちは深夜まで語り明かした。


 ◇


 訓練開始から2週間が過ぎた。


 クラスメイトの大半は既にかなりの実力をつけ、だんだんと得意な戦法や使用武器などが確立されてきた。

 剣で戦う者、槍で戦う者、魔法主体で戦う者、剣と魔法を組み合わせる者。

 そろそろ俺の超絶手加減モード(全実力のおよそ2%)では歯が立たなくなって来ていた。


 その日もいつも通りに訓練をこなしていた。その時、


「団長!大変です!」


 近衛騎士団の団員が血相を変えて駆けてきた。

 その団員の話を聞いた瞬間、ドンさんの表情が何やら何かいいことを思いついたような笑顔になる。

 その笑顔にそこはかとない嫌な予感を覚え、帰りたいとまで思ってしまうが、この世界に自宅はないのだ。観念するしかない。

 ドンさんは一通り団員と話し合うと、こちらに向かってくる。


「お前たち!よく聞け!今、ここ王都キールが世界的犯罪組織“ダインズヘル”という奴らに襲撃されている。そこで、お前たちにはこの襲撃を退けてもらう!」


 これには流石に周囲からどよめきが上がる。


「安心しろ、お前たちにはうちの団員を付ける。危険なところは助けてくれるはずだ。だがそれ以外は自分で対処せねばならん。目標は襲撃者の迎撃だ。襲撃者は殺してもいい。いいな?」


 俺はどちらでも良かったので適当に頷いておく。

 周囲は自信がなさそうに頷くが、腹を括ったようだ。


「それでは、自由にどんなものでもいくつでも武器を持っていくといい」


 俺は前世では双剣を扱っていたが、ちょっと嗜好を変えて日本刀2本を手に取る。

 柄を握り、何回か抜刀と納刀を繰り返す。

 刀身を眺めると、見事な刃紋と綺麗な金色の巾木(はばき)が目に入る。


「……うん、いい感じだ」


 俺は刀の出来に満足してその二振りを刃を上にして腰に刺す。


 全員が武器を選び終わると、ドンさんは俺たちを5人班に分けていく。

 班が決まると、次はそれぞれの班に護衛の騎士を付けていく。

 班分けが終わり、班長を決めていく。


 うちの班は何故か俺が班長になった。

 そこでうちの班員たちが俺に話しかけてくる。


「樹くん、よろしくね!」

「おう。よろしくな、紗倉」


 笑顔で話しかけてくるのは紗倉だ。

 紗倉は背中に青色の宝玉が埋め込まれた杖を背負っている。

 紗倉は魔法が得意らしい。


「二杁くん、よろしくお願いします」

「ああ、国府宮(こうのみや)、よろしく」


 そうして丁寧にお辞儀をしてくる少女は国府宮千歳(ちとせ)

 前の世界では、なんでもやんごとない家柄のご令嬢なんだそう。

 ちなみにクラスメイトからは高嶺“過ぎる”花と呼ばれ、紗倉とともにその名を全校に轟かせていた。

 そんな彼女も背中に杖を背負っているが、その宝玉の色は黄色である。

 どうやら国府宮も魔法が得意らしい。


「ふたりんよろー!」

「ふたりんて」


 俺を妙なあだ名で呼ぶ少女は伊藤奈緒(いとうなお)

 良くも悪くも元気の良い性格で、前の世界の学校では色々と問題を起こすトラブルメーカーでもあった。

 しかし、ビジュアルの良さはピカイチで、紗倉、国府宮と並んで三大美姫と呼ばれていた。

 伊藤は短剣2本を腰に刺していた。


「樹、帰っていいか?」

「家無いだろ」


 そう言って面倒くさそうにしている少年は新川橋(しんかわきょう)だ。

 面倒くさがりな性格で、何をやるにしても気力がない。

 彼とは中学時代からの仲であり、唯一の親友である。

 そんな橋は槍を背中に背負っている。

 普段の様子から橋が戦うところなど、全く想像もつかないのだが、槍を持っている以上、自信はあるのだろう。


「みんな、死なないように頑張れよ」

「うん!」

「最善を尽くしますわ」

「当ったり前よ!」

「……善処する」

「橋、そこは自信持ってくれ……」


 俺が橋に突っ込みを入れると周囲から笑い声が上がる。


(空気が和んだようだな)


 戦闘において緊張状態というのは、かなり危険な状態だ。

 咄嗟の動作が必要になった時、緊張で体が強張っていればすぐに動けなかったり、思考が鈍り相手の攻撃に対する反応が遅れたりすれば、それこそ命取りである。

 だからこそ、ここで緊張が取れたというのはかなりいいことである。


 そこでドンさんから号令がかかる。


「それでは、諸君には市街地に出向き、襲撃者を撃退してもらう。現状、防衛騎士団たちが食い止めてくれているが、それもいつまで持つか分からん。迅速に対応してくれ。すぐに門を開く。門が開き切った時が出撃の合図だ。……門を開け!!」


 その合図とともに門がゆっくりと開き始める。

 視界には燃え盛る家と、あちらこちらで戦闘を繰り広げる紋様の入った黒いローブを纏った剣士と鎧を纏った騎士の姿が飛び込んできた。

 その様子に俺は先程までの緩んだ気持ちを引き締め、戦闘体制に入る。


 門はだんだんと開き、ついには全開になる。


「出撃!!」


 ドンさんの号令とともに、俺たちは駆け出し、燃え盛る市街地に飛び出た。

2日ほどぶりです。島です。


どうして島かって?

アイランディー→アイランド→島って感じです。シンプルでいいね。


今回は新しい登場人物が複数登場しました。

ほとんど行き当たりばったりで書いてるので、このキャラたちがどのように動くかは作者にもわかりません。


当分の間はこれくらいの投稿頻度になりますが中の人の予定によって1週間期間が空いたり、逆に1日で投稿したりすることになりますが、首を長くして待ってていただきますよう………


『ブックマーク』と『いいね』、よろっす。

それではまた次回。

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